エピローグ_秋の終わり
慈眼の五入道を壊滅させ、京の闇を牛耳っていた油麻呂を始末したその夜。
凄惨な死闘の舞台となった場所さえも、降り積もる夜の帳がすべてを覆い隠していく。
五重の塔、その最上層の屋根。
瓦の冷たさを感じさせぬ軽やかさで、二人の影が佇んでいた。
伊多田鬼屋の清十郎と凛。
眼下に広がる京の町は、まるで何事もなかったかのように息づいている。
五入道がいなくなったところで、人々が明日を生きるための営みは止まらない。
昨日まで誰かが無慈悲に奪われていたことなど、この平和を享受する民は知る由もないのだ。
「…ねぇ、清君。あんなことがあったのに、この街は何もなかったかのように笑ってるわ。」
凛が冷ややかな視線を通りに向けた。
季節は秋の終わり。
薄暗い闇の中で、紅葉の葉が寒さに震えるように揺れている。
まだ秋の残り香は確かにそこにあるが、夜を支配する空気はすでに氷のように鋭い。
「誰にも気づかれていないなんて、始末屋冥利につきますね。」
清十郎はいつもの涼しげな笑顔で凛に答える。
ふと、通りに明かりが灯り始めた。
夜の屋台が暖簾を掲げ、昼間とは一味違う賑やかさが、湯気と共に立ち昇ってきた。
醤油の焦げる香ばしい匂いや、人々の話し声が風に乗って五重の塔まで届いてくる。
「…あんなに美味しそうな匂いをさせられたら、こっちまでお腹が空いてきちゃうじゃない。」
凛が毒気を抜かれたように、ふっと小さく笑った。
その瞳からは先ほどまでの冷徹な光が消え、柔らかな色が戻っている。
「清君、あそこの屋台に寄りましょう。何か温かいものでも食べて、この寒さを追い払わないと♪」
清十郎が頷く。
二人は音もなく屋根を蹴ると、闇に溶けるようにして地へと降り立った。
華やかな屋台の灯りを目指して歩き出す二人の背中。
秋の終わりの冷たい夜風が、ほんの少しだけ和らいだような気がした。




