第36話 悪役令嬢は婚約破棄を夢にみる3
「アルフレッド‼︎」
私は急いで着替えて登城した。
案内された部屋には、アルフレッドが寝ていた。
「アルフレッド……」
「彼は、殿下を守り負傷してそのまま意識が……」
医者は布団をめくる。するとアルフレッドの腹部には包帯が巻かれており、血が滲んでいる。
私は側に駆け寄り、アルフレッドの手を握った。
「アルフレッド……アルフレッド……」
いくら呼んでも返事はない。私は泣きながらずっとアルフレッドの手を握っていた。
どのくらい時間が経ったのだろうか。
今この部屋には私たち二人しかいない。とても静かで、雨音だけが鳴り続けている。
そう言えばここに来るときに降り出したのよね。私は少し濡れている自分の髪に触れた。
王宮のエントランスにはちょうど馬車が複数台停まっており、降りる順番待ち状態だった。あまりにも狼狽していた私は、馬車を降り、雨の中走ってエントランスに向かった。
お陰で早く到着は出来たけど、体は随分濡れてしまった。タオルをいただき拭いたが、まだ少し濡れている。
しかしだいぶ時間も経ち、それも乾きつつあった。
「アルフレッド……お願いよ。目を開けて頂戴。私、貴方に……まだ伝えていないことがあるのよ」
私は涙を流しながら言葉を紡ぐ。
「私ね、貴方のことが好きなの。従者としてじゃなくて、異性として……その、愛しているの。私は貴方に出会った時からずっと、貴方だけを想って生きていたの。貴方なしじゃ生きて生きないわよ……」
私は握っている手に力を込め、俯いた。
好き。
大好き。
貴方が大好き。
伝えたいけど、ずっと伝えられなかった言葉。ヴァリアーヌ家の娘として封印していた言葉。
リリアナに言われたけど、封印することを決めた言葉。
もう伝えられないかもしれないと分かった時、とても後悔した。
ダメだと分かっているけど、その気持ちが溢れ出してしまった。
貴方が起きたら伝えたい。
一緒になることは叶わないから、聞かせても貴方を困らせるだけかもしれないけど。
本当は歳をとってお婆ちゃんになった時今際の際に、アルフレッドの手を取りながら言いたかったんだけどな。
人はいつ何があるか分からない。今回の事でそれがよく分かった。
だからきっと困らせるけど伝えるだけ伝えよう。
居た堪れなくて、最後「冗談よ、冗談〜」とか言っちゃうだろうけど。
「だから、早く起きてよね。アルフレッドの……ばか」
「はい、お嬢様」
えっ?
今、アルフレッドの声が。
幻聴かしら?
私は顔を上げ、アルフレッドを見た。
すると、そこには目を開けて微笑んでいるアルフレッドの姿があった。
「お嬢様の愛の告白嬉しかったです」
「えっ、あっ……聞いていたの?」
アルフレッド、いつ意識が戻ったのだろう。確かに言おうとは思っていたけど、心の準備が……。
はっ、恥ずかしい‼︎
「お嬢様、私も貴方を愛しています。初めて会った時から、貴方だけを愛しています」
「アル……フレッド」
今、アルフレッドが凄いことを言っている。ヤバイ。私頭可笑しくなったのかな?
私は思いっきり頬をつねってみた。
「……痛い」
「そりゃ、そんなに勢いよくつねったら痛いですよ。夢ではありませんよ」
私は握っていた手を引っ張られ、アルフレッドに抱きしめられる。
「えっ、あっ……」
「ずっとこうしたかった。貴方をこの腕で抱きしめたかった」
「アルフレッド……」
アルフレッドは私の顎に手をかけて顔を寄せる。唇と唇が触れそうな距離にいる。
私は目を閉じて……
……ダメだ。
私は手でアルフレッドの体を押した。
「アルフレッド、ダメよ。私は……殿下と婚約を……」
ーーそう。例え想いが通じても、この恋は叶わない。駆け落ちでもすれば叶うがそれはダメ。
私はヴァリアーヌ侯爵家の令嬢。自分から破棄になんて出来るわけがない。そんな事をすれば家族に迷惑がかかる。
破棄をするなら、殿下からでないと。
「ーーでは、私から婚約破棄を言い渡せば大丈夫なのかな?」
「えっ?」
扉の方を見ると、そこには殿下がいた。
「殿下……こっ、これはあの……」
どっ、どうしよう。殿下に見られていた。
殿下という婚約者がいる立場で、他の男と良い感じになるとか。不敬罪だ。
ああ、私はヴァリアーヌ家の家名に泥を……‼︎
私は顔面蒼白になった。
「……兄上の言った通りだったな。フレデリカ、アルフレッドと三人で今後について話がしたい。良いだろうか?」
「はっ、はい」
こうして婚約者と両想いの相手と三人で今後について話し合うことになった。
……これって所謂修羅場……よね?
でも、アルフレッドも殿下もとてもにこやかだ。修羅場のはずが妙な空気を醸し出していて、居心地の悪いフレデリカであった。




