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四日目・視点の違い

 「新婚ごっこを「待って待って待って! もう勘弁して!」

 

 派手な身振り手振りで台詞を中断された雨音は「?」と首を傾げる。

 

 「えっと、もしかしてお兄ちゃんはカップルごっこの方が」

 「いやそのやり取りは昨日もしたから。流石にもう良いから。じゃなくて、こう、たまにはもっと別の遊びをしないか? せっかくの祝日なんだし、外にでも出て……」


 そこまで言って、少年は気付いた。帰宅ラッシュに交通渋滞、祝日特有の昼間から出没する酔っ払いたちに、祝日万歳とシュプレヒコールをかましながらそこここで遊び回っているであろう地元学生たちの存在。何処に出かけるにしても、雨音を連れて歩くには危険過ぎる。


 「……まぁ、今日は外はやめとこう。けど、家の中で出来る遊びだってもっと色々あるじゃないか」

 「じゃあ、おしどり夫婦ごっ「それはもう良いって!」


 少年は天丼を知らなかった。


 「ほら、例えば……そう、テレビだ! たまにはテレビでも見て過ごそう!」

 「それって何もしてないのと同じじゃないかなぁ?」

 「たまに変に鋭いことを言うな雨音は……」


 ネットサーフィンだけで休日が潰れるそこのあなた。同類ですよ。


 「けど、お兄ちゃんがそうしたいなら、雨音はそれで良いよ?」


 そう言って、雨音がにこりと笑う。元より雨音が少年の頼みを断るはずがない。だというのにこんな茶番を演じているのは、一言で言えばごっこ遊びだ。


 「よっし。それじゃリビングに行こう。テレビはそこにしかないから」

 「おとうさんとおかあさんのお部屋にもないの?」

 「うちにはテレビを見る人間は居ないんだ」

 「ならリビングのテレビはなんの為にあるの……?」


 人それをインテリアと言う。


 ごっこもそこそこに、少年と雨音は連れ立って、一階のリビング、正確には半客間となっている部屋へと移動した。


 少年はテレビの前のソファに腰掛け、雨音は当然のように少年の膝上に収まる。


 「……何してるんだ、雨音?」

 「……? テレビを見るんじゃないの?」

 「いや、見るけど……この姿勢だと、雨音は絶対画面見えないだろ?」


 少年の膝上に座りながら、少年の顔をきょとんとした表情で見つめる雨音。ということはつまり、雨音と少年の身体が向き合っているということだ。


 「だいじょーぶ! 雨音、テレビを見てるお兄ちゃんを見てるから!」

 「見づらい見づらい。顔ガン見されてたら俺が集中できないって。それでもなくてもこの姿勢は色々キツい」

 「でも雨音、テレビよりお兄ちゃんの方が見てたいし……」

 「そこをなんとか。一緒になんかするって楽しいだろ? な?」

 「うーん……あ、そうだ! なら、お兄ちゃんがテレビに出てくれればいいんだよ! そしたら雨音、お兄ちゃんを見ながらお兄ちゃんと一緒にテレビ見れる!」

 「その発想力は評価するけど、一介の高校生にそこまでの難技を求めないでくれ……」


 少年がそのうちテレビに出る可能性は、無いでもないのだが。

 

 「もう、お兄ちゃんはしょうがないなぁ」


 大袈裟にやれやれと首を振りながら、雨音は身体をテレビ側へと回す。それからぱたんと背中を倒して、全体重を少年に預ける姿勢になった。


 「なんか俺がワガママを言ったみたいになってるのは釈然としないが……この際細かいことはどうでも良い。さぁテレビを見るぞ」


 見たい番組が有る訳でも無いというのに、やたらに気合を入れて少年はあらかじめ手に取っていたリモコンの電源ボタンを押す。無駄に大きなサイズの液晶画面に、バラエティらしき番組が映った。


 「雨音、テレビって久しぶりだなぁ」


 一挙に流れ出した賑やかな音声を聞きながら、雨音が言う。


 「俺も、まともに観るのは半年ぶりぐらいな気がするな。雨音は?」

 「雨音は……多分、五年くらいかなぁ」


 雨音がぼんやりとした口調で言う。聞いた瞬間、少年は後悔した。


 少年がテレビに長く触れていなかった理由は、単に朝のニュース以外に興味を持てる番組が無かった為だ。だが、雨音は違う。


 少年の顔が強張ったことには構わず、雨音は続ける。


 「雨音、小さい頃から芸能人さんの見分けが付かないんだぁ。つるの剛士さんと上地雄介さんって何が違うんだろ?」


 「……それは、まぁ、なすとなすびみたいなもんだろ」


 ※あくまで少年一個人の見解です。


 「スザンヌさんとローラさんは?」

 「それもなすとなすび」

 「剛力彩芽さんと前田敦子さん」

 「なすとなすび」

 「右翼と左翼」

 「目くそ鼻く……これ以上はやめとこう」


 少年は自重した。


 「んー……あんまり面白くないね」


 二人でしばらく放送を眺めてから、雨音が言う。


 「チャンネル変えるか?」

 「うん」

 「了解」


 少年がリモコンのボタンを押す。チャンネルが変わった瞬間、軽快な音楽がスピーカーから流れだしてくる。どうやら料理番組らしい。初老女性がてきぱきとした仕草で、時に「出来上がったものがこちらになります」というやや詐欺臭い手法を駆使しながら、料理を進めていく。今日のメインはオムレツのアレンジレシピらしい。

 

 「美味そうだなぁ」


 少年の口から、自然と言葉が漏れた。少年は雨音に食べさせるものには毎度手間を掛けているが、自分用のものは何時も簡単に済ませている。無論、雨音に『食べさせている』際には料理をじっくり味わう心の余裕などない。それゆえに、テレビ画面に映る料理に心惹かれたのだった。


 「お兄ちゃんは、ああいうご飯が好きなの?」

 「まぁ……割と? テレビでやってるから美味そうに見えるだけかもしれないけど」

 「ふーん……」


 雨音が考え込むような顔になる。それから突然、その頬がにへらと緩んだ。


 「…………えへ、えへへ…………」

 「あ、雨音? どうした?」


 脈絡もなくでれでれと笑い始めた雨音を、少年が後ろから心配そうにのぞき込む。少年と目が合って、雨音の笑顔の調整メモリが最大まで上がる。


 「お兄ちゃん、テレビって面白いね!」

 「…………? ああ、そうだ、な……?」


 少年は雨音が何をそんなに嬉しがっているのかが分からず、頭の上にいっぱいに疑問符を浮かべる。


 「ねぇお兄ちゃん、雨音が一人でお留守番してる時も、たまにテレビ観てもいい?」

 「………………!?…………あ、ああ! 好きなだけ見ていい!」

 「えへへ、ありがとう」


 ニコニコ顔の雨音に、少年もまた喜色を顔中にたたえて応える。


 この百日と少しの間、雨音が俺以外の何かに興味を示したのは、本当に、これが初めてだ。それがテレビの中の世界でも良い。例え空想の中でだって、雨音が何処かに、意味を見出してくれたら。それはきっと、大きな一歩になる。少年はそう思った。


 この日以来、雨音は時折、リビングのソファに座るようになる。



前のものと比べてもちょっと、というかかなり手抜きな文章でごめんなさい。少し文章の雰囲気を変えてみたのですが、あまり内容にそぐわなかったかも。毎日更新って想像の百倍ぐらい大変ですね……粗製乱造よりは更新ペースを落とすべきか。元々粗製だからあんま関係ねーやと開き直るべきか。


昨日から評価を下さった方が何人か居て物凄く嬉しいです。必ずしも評価される為に書いている訳ではないのですが、それでもやはり嬉しい。頑張れます。

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