それでも仲良しはありだと思うよぉ
児童館とは、児童福祉法第40条に基づき、18歳未満の子供が自由に利用できる児童福祉施設である。
専門の職員・・・児童厚生員が配置され、遊びを通じて子供達の健やかな成長を支えている。
また、施設によっては学童保育(放課後児童クラブ)が併設されている事もある。
これは、そんな場所でのある日の出来事である。
図書コーナーは、児童館の中でも一番静かな場所だ。
入口のざわざわが、ここまで来ると、少しだけ遠くなる。
本棚のあいだに置かれた長机。
角の丸い木のテーブルに、私達四人は集まっていた。
「ねえ、『キラー』ってさ、あの設定ズルくない?」
陽菜が身を乗り出す。声はひそめてるけど、全然ひそめきれてない。
「わかるっ、殺し屋が中学生とか意味わかんないのに面白い」
「しかも普通に学校生活してるの笑うんだけど」
美桜と日向がすぐに乗る。
「でもたまにガチで強いとこ出るの、かっこいいよね」
「あたし、シン好き!」
「え~! そこは普通に主人公でしょう」
話は、またアニメの続きだ。
・・・また、か。
わたしは本のページをめくるふりをしながら、三人の顔をちらっと見る。
楽しそうだな、って思う。ほんとに。
でも。
「優奈は? 見た?」
日向が振り返る。
「あ、えっと・・・ちょっとだけ」
嘘じゃない。ちょっとだけは見た。最初の方だけ。
「えー、あそこからがいいのに!」
「ね、まじで見て!」
うん、って頷く。頷くけど、多分見ない。
私が最近ずっと見てるのは、アニメじゃなくて、TVやYouTubeの中で笑ってる『SMW』だ。ダンスとか、ボードゲームしてるのとか、見てると何か元気になる。でも、それをここで話した事はあんまりない。ほんとはどの歌好き?とか SMWで一番誰が好き?とか。さっくんのダンスカッコいいよね・・・とか、話したいけど。何となく話の流れに、入れない気がして。
「でさ、そのあと敵が・・・」
陽菜が続きを話そうとした、その時ばたばたばたっ、と音が近づいてきた。振り返るより早く、三年生の男子が何人か、図書コーナーに飛び込んできた。
「待てって!」「やだねー!」
笑いながら、一直線に・・・テーブルの上を、走った。
「え、ちょっと・・・」
声が出るより早く、赤いのが横をよぎった。
え、って思ったときには、もう前にいた。いつ来たのか、全然わからない。さっきまで、いなかったはずなのに。
森もっちゃんだ。
走ってた男子の前に、ぴたっと出て、そのまま腕を掴む。大きな音も出してないのに、そこで動きが止まった。おばちゃんなのに素早い。
「ここは走り回るスペースではありません」
低くて、落ち着いた声。
怒鳴ってないのに、空気が止まる。
「痛ってぇな! 虐待っ!」
掴まれた男子が顔をしかめて叫ぶ。
その言葉に、私の中で何かが引っかかった。虐待って、そんな軽く言う言葉だっけ。
「テーブルの上も走っていいと、君の親は教えているんですか?」
森もっちゃんは、声の高さを変えない。
「警察に言うぞ!」
別の子が、調子に乗った声で言う。
はあぁ?
思わず、頭の中で言葉がこぼれる。そのやり取りに、私達の会話は完全に止まっていた。四人とも、そっちを見ている。
「走ったらダメに決まってるじゃん」
陽菜が、少しだけ声を大きくして言った。
ぴしっとした言い方。言ってやったって顔、してる。
多分、私も同じ顔をしてたと思う。
だって。
掴まえなきゃ、アンタ達止まらないじゃん。頭の中で勝手に言葉が続く。スピード違反の車を捕まえる時、警察がスピード守ってたら、追いつけないでしょ。止まりなさ~いって言ってるだけで、その車が勝手にスピード緩めてすみませんって言う? 言わないでしょ。
じゃあ、どうやって止めるの。掴む以外に何があるの。言わないけど。
言わないけど、多分間違ってない。
少しだけ静かになった図書コーナーで、さっきまでのアニメの話は、もう戻ってこなかった。
ページをめくる音だけが、やけに大きく聞こえる。
・・・今年も、新一年生は多いらしい。せんせー達が話してた。三十人以上入ってきて、この学童は今年も全部で百人を超えるって。
だから、手伝える事、あるかもねって。最初に言ったのは多分、陽菜だ。それにみんなで頷いた。他の子達はもうやめるって言ってたけど。五年生だし、来なくてもいいけど。
それでも、私達は残るって決めた。
・・・決めたのに。
うまくいってない。
ふと、三人を見る。
陽菜と美桜と日向。
三人は同じクラス。同じ話をして、同じところで笑って、同じアニメを見てる。
前は、それでも平気だった。
アニメの話の後に、「今日さ、クラスでさ」って続けられたから。でも今は、その続きがない。
私だけ、クラスが違う。その事実が思ってたよりもじわじわ効いてくる。
「・・・優奈?」
日向が、不思議そうに覗き込む。
「あ、ごめん。聞いてた」
また頷く。ちゃんとここにいるよって顔をする。
でも、ページの文字はぜんぜん頭に入ってこなかった。
「・・・あ、やば」
小さく呟く。思い出したみたいに。
「宿題多いの、忘れてた~」
わざとらしく言って、椅子を引く。
三人が「えー」とか「またー?」とか言う前に、立ち上がる。
ランドセルを開ける音が、やけに大きい。中からノートとドリルを引っ張り出して、抱えるみたいに持つ。
そのまま、二つ隣のテーブルへ。
少しだけ距離ができる。それだけで、空気が変わる気がした。
なのに。
「だからさ、その後の展開がさ!」
「え、そこ言う? ネタバレじゃん!」
「いいじゃん。もう見てるでしょ!」
声は普通に届く。聞こえないふりなんて、できない距離。
椅子に座って、ノートを開く。
鉛筆を持つ。
問題文を読む。
一行目で、止まる。
集中、集中。もう一回読む。ちゃんと読む。
その時、視界の端に赤いのがちらっと入った。
え、と思って顔を上げる。
いつの間にか、そこに座っている。森もっちゃんだ。
さっきまで、いなかったはずなのに。気づいたら、もういる。赤いフリースが目に入って、その後で、あ、森もっちゃんだってなる。音もしなかったし、来た感じもしなかったのに。気づくといるから、ちょっとびっくりする。
・・・でも毎回ちょっとだけだから、もう慣れてきた。
「間違ってるとこ、ない~?」
「今のとこ、な~い」
森もっちゃんは、わたしのノートを一瞬だけ見る。
本当に、一瞬。
すぐに顔を上げて、視線は部屋の方へ流れていく。見てないみたいで、多分全部見てる。
その視線の先で。
「ちがうって! さっき出したじゃん!」
「出してないし!」
二年生の子たちが、ウノで揉めていた。カードを持った手が上下して、声も少しずつ大きくなる。
「ちょっと、ごめ~ん」
森もっちゃんが、ぼそっと呟く。私に言ったのか、空気に言ったのか、わからない声。すっと立ち上がって、そっちへ行く。赤いフリースがふわっと揺れる。
「何してんの~?」
「何? 参加したいの?」
「別にいいけどぉ」
軽い。
怒ってない声。
でも、近くに行くだけで、ちょっと空気が変わる。
「見に来ただけ~」
「じゃあ、あっちいって」
「もう少しいたらダメ~?」
「ダメッ」
ぴしゃり。
「仕方ないな~」
そう言って、あっさり引く。
帰ってくるのも大きな音はしない。来た時と同じで、帰ってくるのも静かで。
気づけばまた隣にいる。さっきまで向こうにいたはずなのに、赤いフリースだけが、また視界の端に戻ってきて、それで、あ、戻ってきたんだって思う。
振り返ると、さっきまで揉めてた二年生たちは、もう普通にゲームを続けていた。
さっきの空気が、なかったみたいに。
こういうところ。
うまく言えないけど、悪くない、と思う。
みんなは、遊んでくれないとか、ちょっと・・・いや、かなり太ってるとか、いつも同じ赤いフリースでダサいとか、怒ると怖いから嫌だとか、言うけど。
ノートに目を落とす。
鉛筆を動かす。
さっきより、少しだけ進む。
「森もっちゃん、これさ~」
「どれ~」
言いながら、またちらっとノートを見てくれる。
その時。
「まりも~」
少し離れたところから、声。
森もっちゃんが、ゆっくり顔を向ける。
「まりもって、呼んだ?」
「気のせいだよ」
三年生の女子が、笑いながら立っている。その顔はちょっとだけ、いたずらっぽい。
「一年生、トイレで漏らしてるよ」
「マジか・・・」
一瞬だけ森もっちゃんの顔が歪む。うぇ、っていうのがそのまま出たみたいな顔。でもすぐに立ち上がる。その手にはいつの間にかビニール手袋。
どこから出したのか、全然わからない。立ちながら、それをはめていく。ぱち、ぱち、と乾いた音。
「誰か、わかる?」
「わかんない、一年の男の子」
「オッケー」
短く答えて、三年生の子と一緒に歩き出す。足音はやっぱり静かで。さっきと同じみたいに、気づいたらいなくなっていそうな背中だった。
図書コーナーに、またいつもの音が戻る。
ページをめくる音。
遠くの笑い声。
すぐ近くの、アニメの続き。
私はもう一度問題文に目を落とした。
ノートに視線を落としたまま、式をもう一度なぞる。さっきよりは少しだけ、頭に入ってくる。
そのはずなのに。
ふと、気配が増えた。顔を上げなくてもわかる。いつの間にか、また隣に座っている。森もっちゃんだ。
さっきまでトイレの方に行ってたはずなのに、戻ってくる音も、気配も、やっぱりなかった。最初からいたみたいに、そこにいる。
そして。
背中の方から視線を感じる。
ちら、ちら、って。
「・・・『ダンクシュート』さ、その試合・・・」
「だからあそこがさ! 強すぎなんだって!」
「え、でもゾーン入ったとこヤバくない?」
「わかる! あそこ鳥肌立ったんだけど!」
声は普通に聞こえてくる。でも、それだけじゃない。多分、こっちを見てる。
わたしのノートとか、手元とか、たまに顔とか。
わかる。何となく、わかる。
鉛筆を止めないまま、口を開く。
「・・・勉強って、何であるんだろうね」
顔は上げない。独り言みたいに呟く。
でも。
森もっちゃんには、ちゃんと届いてるはずだ。
「勉強でも、スポーツでも、その他でも、出来る事が多い方がいいよぉ~」
間をあけずに返ってくる。やっぱり、聞いてた。
「そうしたら、選択肢が増えるし~。選べるし~」
ゆるい声なのに、言ってることはまっすぐで。
ノートの上で、鉛筆の先が少し止まる。
「SMW、好きだっけ?」
不意に言われて、びくっとする。
顔を上げる前に、視界の端で動きが見えた。
森もっちゃんが、わたしの筆箱についてるアクキーを、ちょんと摘まむ。さっくんと、みっくん。小さく揺れて、また元の位置に戻る。
「勉強したら、この人達のマネージメントも出来るかもしれないし~」
ぽつ、ぽつ、と。
「作詞作曲も出来るかもしれない。舞台衣装も作れるかもしれない」
顔を上げる。
森もっちゃんの横顔を見る。
視線は、私じゃない。
部屋の中を、ゆっくりなぞるみたいに動いている。
誰かが立ったり、誰かが笑ったり。遠くでカードが切られる音とか、そういうの全部を見てる。
「ミュージックビデオも作れるかもしれない」
その言葉の後で、ほんの一瞬だけ、こっちを見る。
目が合う。
あ、って思う。
何か言おうとした、その時。
「森も~、シップ貼って~!」
廊下の方から、大きな声。
京子せんせーの前を、すり抜けるみたいにして、男の子が走りこんでくる。そのまま、まっすぐこっちへ。
思わず、口が先に出た。
「他のせんせーにしてもらいなさいよっ」
ちょっと強めの声。
「他のせんせー、いねーし」
即答。
いや、見えてないだけでしょ、って思う。森もっちゃん、めちゃくちゃ目立つ。見つけやすい。だって、いつも赤いフリース。夏はさすがに違うけど。
いつだったか、4人で何で?って聞いたら、笑いながら、制服みたいなもん~って言ってた。多分、目立つのをわかってて着ていると思う。
確かに、どこにいてもすぐわかる。
すぐに見つけられるんだけど、時々気配を消してる。空気みたいな感じ。どういう事だかわかんないけど、いつの間にか壁際に立っていたり。おままごとの中に参加しているんだか、見守っているのか謎な状態で座っていたりする。
「何やらかしたの?」
森もっちゃんは、もう立ち上がってる。
ほんと、早い。
「転んだ」
「どこで~?」
「外」
「元気だね~」
軽く返しながら、その子の腕を掴む。ぎゅっとじゃない。でも、逃げられなさそうな持ち方。
そのまま事務室の方へ歩き出す。歩きながら、腕をひょいっと持ち上げて、こっちから見て、反対から見て。
「青くなってるだろ」
「なってるね~」
あっさり言う。でも、その目はちゃんと見てる。歩く速さも、さっきより少しだけゆっくりで、その子がついてこれるくらいに合わせてる。
遠ざかっていく背中を何となく目で追う。
さっきの言葉が残ってる。
選択肢が増える、とか。選べる、とか。
ノートに視線を戻す。
さっきより少しだけ、文字がちゃんと意味を持って見えた。鉛筆の音だけが、一定のリズムで続いていく。さっきよりも、ちゃんと問題が解ける。
図書コーナーのざわめきは、少し遠い。
ページをめくる音と、誰かの小さな笑い声と、たまに椅子が床をこする音。
いける。今ならちゃんと集中できる。
気づけば、また視界の端に赤がちらついた。まただ、と思う前に、もうわかる。
顔を上げる。やっぱり、いた。森もっちゃんが、隣に座っている。
さっきまでいなかったはずなのに、最初からずっとここで見てましたよみたいな顔で普通に座っている。
気づいたのが伝わったのか、森もっちゃんがこっちを見ないまま、静かに口を開いた。
「SMW、斎藤さんだったかな。可愛い子」
「うん?」
思わず返す。
さんってつけてるのに、可愛い子って言うんだ、って。ちょっとだけ、おかしくなる。森もっちゃんにかかると、さっくんも子供みたいだ。
「キラーの声優するって」
ぽつり、と続く。その言葉に少しだけ引っかかる。
あれ? さっき聞いた気がする。
「殺し屋が子供になって、中学校に通う話」
説明までついてくる。あ、これ・・・さっき三人が話してたやつだ。ちゃんと聞いてたわけじゃないのに、何となく耳に残ってる。
「『カノンくん』みたい」
気づいたら、口から出てた。わかるやつに当てはめるみたいに。ちゃんと知らなくても、それなら少しは近づける気がして。
「そうだね~。あっちは小学生だけど」
森もっちゃんが、ちょっとだけ笑う。
その声はやわらかいのに。目はやっぱり、こっちじゃない。
部屋の中を、ゆっくり見てる。
聞いてるのに、見てない。見てないのに、ちゃんと拾ってる。その感じが、ちょっとだけ不思議で、少しだけ安心する。
森もっちゃんの目はやっぱり、部屋の中を見ている。
「ダンクシュート描いてる人のマンガだよ~」
さらっと言う。
そのタイトルも、さっき聞いた気がする。はっきり覚えてるわけじゃないのに、どこかで引っかかる。
やっぱり、全部聞いてたんだ。あの三人の話も。そこにいなくても、ちゃんと拾ってる。
「ちょっとは、話についていけそう?」
やさしい聞き方。でも、ごまかせない感じ。
ノートに視線を落とす。
さっき解いた問題の数字を、指でなぞる。ちゃんと合ってるはずなのに、確かめるみたいに。
ついていけそうか、って言われて。すぐに「うん」って言えない自分が、ちょっと嫌だ。
「・・・わかんない」
出たのは、それだった。
小さい声。
「わかんないか~」
そのまま返ってくる。
違うとも言われないし、大丈夫とも言われない。ただ、そのままに。変に優しくされるより、ちょっとだけ楽かもしれない。
後ろから、また笑い声が上がる。
「だからそのキャラがさ!」
「え、そこ好きなんだけど!」
楽しそうな声。ほんとに楽しそうで。
鉛筆を持ち直す。
わかんない、けど。
ノートの上の問題は、ちゃんと形になる。式をたどれば、ちゃんと答えが出る。答えが出る、っていう安心感。
少なくとも、今はここに書いてある事は、ちゃんとわかる。それだけでいい、って思いかけて。
・・・でも。
鉛筆の先が、少し止まる。
ふっと、口が動いた。
「ねぇ、森もっちゃん」
「ん?」
すぐに返事が来る。顔はこっちを見てないのに、ちゃんと拾われる。
「最近SMWってさ、6人でいる事、少ないの」
ノートから目を離さないまま、続ける。
「バラバラで仕事してるの」
言いながら、なんとなく浮かぶ。四人で座ってたさっきのテーブル。今は三人だけの、あの感じ。
「仲良く6人のYouTubeもあるけど、4人だったり・・・」
言葉が、少しだけ詰まる。
「仲良しだと思ってたんだけど、違ったのかな」
ぽつ、と落ちる。
「仲良くても、別に仕事することはあるんじゃない~?」
森もっちゃんの声は、いつもと同じ調子。軽いのに、ちゃんと聞こえる。
「う~んと、確かSMWって30過ぎてる子もいれば、まだ若い子もいたよね」
「うん。さっくんとみっくんは32で、なっちゃんはまだ20で大学生」
言いながら、ペンケースにちらっと目をやる。小さく揺れるアクキー。
「じゃあ、仲良くてもずっと同じ仕事はしないかなぁ」
さらっと言われて。なんで??? 頭の中で、すぐに浮かぶ。仲良ければ、ずっと一緒にいればいいじゃん。一緒に仕事すればいいじゃん。言葉には出さないまま。
森もっちゃんの声が続く。
「さっきの選択肢」
少しだけ間。
「30過ぎれば、このままアイドルだけやっていくのかな~。それとも俳優に力入れようかなぁ。バラエティかな? 歌かな? それとも裏方も面白いかも。ダンスの振り付けしたいな。いやいやメイクさんに転身? ・・・悩む時期かもねぇ」
ゆっくり、並べるみたいに。
その間も、視線は部屋の中。入口の方で靴を脱ぎ散らかす子。絵本コーナーで寝転がる子。全部、同時に見てるみたいに。
「別の人間だからねぇ、好きなものは違うじゃん」
短く、言う。
その一言が、少しだけ重い。
・・・それって。
私達の事?
ノートに落としていた視線が、動かなくなる。
変わった、って思う。気づいたら変わってた。三年生の頃は、四人で『プリンセスショップ』に行って。おそろいにしよ!って、みんなで決めて。『にゃん彦さん』のキーホルダーを選んで。
あの時は同じが楽しかった。
ちら、とペンケースを見る。
今ついてるのは、さっくんとみっくん。
同じじゃない。
「仲良くてもさ~。完全に同じもの好きで、完全に同じ方向向いてるって事はないかな~」
森もっちゃんの声は、変わらない。
「それでも仲良しはありだと思うよぉ」
その言い方が、少しだけやわらかくて。
ノートの上で、鉛筆が転がる。
遠くで、誰かが名前を呼ぶ声。
「森も~!」
まただ。
反射みたいに、森もっちゃんが顔を向ける。
「行ってきていいよ~」
何となく、先に言う。
「大丈夫そ?」
軽く返ってくる。立ち上がる気配は、まだない。
その一瞬。
背中に、また視線を感じる。
三人。
あっちのテーブル。さっきより静かになってるのは、気のせいじゃない。
「・・・うん」
小さく、返す。
森もっちゃんは、すぐに立ち上がる。赤いフリースが視界の端をかすめて、離れていく。その背中を見送りながら思う。
私は森もっちゃんの事、嫌いじゃない。みんなは、デブとか、ブスとか、いろいろ言うけど。
じゃあ、呼ばなきゃいいのに、って。
そこまで出かかった言葉を、飲み込む。わたしは、五年生になったんだから。
それくらいは、ちゃんと飲み込んでおける。
読んでくださってありがとうございます(*_ _)
ポイントを入れてもらえると、嬉しいです。




