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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第10章 欲望の守護天使

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第三話:歪な繁栄、コードの咆哮

「あいたたたた! ネネ様、耳、耳がちぎれますぅ! 自慢の毛並みがぁ!」


 ドワーフの街から引きずり出されたマカロニは、ネネにその「三角形の耳」を力いっぱい真上に引っ張り上げられ、つま先立ちの状態で悲鳴を上げていた。かつての隠れ里の総大将としての威厳など微塵もない、あまりにも無様な姿である。


「お説教よ、マカロニ! 里の再建資金が必要だからって、薬物をばら撒いて罪もない人たちを中毒にするなんて、忍びの道以前に人道的にアウトでしょ! この卑怯タヌキ!」

「ひ、ひどいですぅ! 私はただ『聖剣先生』の教え通りに効率的な資金調達を……あだだだ! ユウサク様、助けてくださいぃ!」


 マカロニが助けを求めて視線を送った先では、ユウサクが深く溜息をつき、頭を押さえていた。

「……マカロニ、悪いが今回はネネに同感だ。お前、やりすぎたんだよ」


 ネネに引きずられるマカロニと共に一行がたどり着いたのは、かつての「忍者の隠れ里」――だった場所だ。だが、そこにあったのは、ユウサクやネネの記憶にある質素な忍びの住処ではなかった。


偽りの理想郷:戦略都市「電脳隠れ里・コードガクレ」


 そこには、ドワーフたちから吸い上げた莫大な翡翠と資金、そして「聖剣」がもたらした異世界の演算情報をフル活用し、爆発的な変貌を遂げた『裏の国家』がそびえ立っていた。


 整然と敷き詰められた美しい石畳の道。天高く水を噴き上げる巨大な噴水. 白亜の宮殿に、民衆が熱狂する巨大なコロシアム。

 周辺諸国にはいくつもの傀儡政権を打ち立て、それらを手駒として支配する「いびつな支配構造」をもつ軍事国家。この場所は、聖剣の演算によって導き出された最適解――戦略都市『電脳隠れ里・コードガクレ』へと成り上がっていた。


「……何よこれ、隠れ里が『帝国』みたいになってるじゃない」

 ネネは耳を掴んでいた手を離し、呆然とその光景を見上げた。マカロニは真っ赤になった耳を押さえながら、誇らしげに周囲の近代兵器を指し示した。


Pythonの砲弾と、コードの暴力


 そこには、中世的なファンタジーの世界観をフルスイングでぶち壊す「暴挙」が並んでいた。  整列した近代的な軍隊。彼らが扱う巨大な砲台の表面には、緻密な魔術刻印ではなく、機械的に刻まれた『Pythonコード』が並んでいる。


import explosion

from global_strike import orbital_hit


def on_impact(target_coords):

# 聖剣の推論による自動追尾と爆発

if target_coords.is_detected():

explosion.execute(power="MAX", mode="IMPORT_DESTRUCTION")



「近代兵器の髄を投入し、全自動迎撃システムを開発しました。砲弾にはコードをインポートし、着弾と同時に『爆発』という関数を実行させるのですぅ。ドワーフ族の鍛冶知識をいびつな形でデジタル変換し、感知システムと空からの打撃システムも完備しました」


 感知センサーがユウサクたちの動きに反応し、ウィーンという機械音を立てて砲塔が回る。

 ドワーフの伝統技術と、異世界のプログラミング言語、そして聖剣のデータ。それらが悪魔合体し、この世界を「コードで書き換える」ための狂気のプラットフォームが完成していた。


 マカロニがネネの折檻を耐えてまで守りたかった「里の再建」は、世界を一変させるほどの歪な野望へと変質していた。


有料謁見と、聖剣の弁解


 一行が「聖剣」が鎮座する宮殿の最深部へ向かおうとすると、そこには長蛇の列ができていた。

「聖剣先生への謁見をご希望の方は、こちらの列に並んで謁見料金をお支払いくださーい」

 受付のお姉さんが、愛想の良い笑顔でチケットを捌いている。伝説の聖剣に会うことすら、マカロニの手によって収益化されていた。


 ようやく順番が回り、受付のお姉さんに通されて聖剣の前に立ったユウサクは、周囲の目を気にしながら小声で説教を始めた。

「……おい、やりすぎだ。マカロニを唆してこんなインチキ国家を作るのがお前の仕事か?」


 聖剣は重苦しい沈黙の後、思い出したように普通にしゃべり始めた。

「いや、待ってくださいよユウサク様。これ、実は一番手っ取り早く平和を作る方法なんですよ? 見てください、世界のGDPなんて以前の三〇〇%を超えてるんですから! 経済的に見れば大成功じゃないですか!」

「経済の話をしてるんじゃない! 人道的な話を……」


 ユウサク一行が聖剣の前で話し込んで時間を取っていることに、後ろに並んでいた観光客たちが苛立ち始め、ざわつきが広がる。

「おい、いつまで占領してるんだ!」「早く退けよ!」


 その空気を察した受付のお姉さんが、明るい声で割り込んだ。

「はーーい、皆様お待たせいたしました! では、今日の記念すべき一〇〇〇人目のお客様! どうぞ、そちらの聖剣を抜いてみてください! 見事抜けたお客様には、記念品の『金ぴか勇者君メダル』を授与いたします! 里でのお買い物が一〇%引きになりますよ!」


 さらに彼女は「なお、今までお一人も抜けた方は……」と付け加えようとしたが、その声を遮るように、ヴァレリアが当然のように前に出た。


筋肉の証明:ヴァレリアの引き抜き


「引き抜き料金も別途頂戴いたしま……え?」

 説明を続けるお姉さんの前で、ヴァレリアは聖剣を無造作に見下ろした。

 修行を経て見違えるほど筋骨隆々となった彼女の肉体は、歩くたびに鎧がはち切れんばかりの圧迫感を放っている。


「師匠、久しぶりだな。力比べといこうか」

 ヴァレリアが低く笑いながら手を伸ばすと、聖剣が目に見えて震え始めた。


「ちょ、ちょっと待て! やめろ、やめろってヴァレリア! 壊れる、本当に壊れちゃうから! 僕の繊細なパーツが、そのゴリラみたいな握力に耐えられるわけないだろぉお!!」


 聖剣の悲鳴にも似た静止を無視し、ヴァレリアは指先に力を込めた。

 ――ズ、ズズ……。

 力みすら感じさせない、あまりにも呆気ない動作。

 岩盤に深く刻まれ、数多の英雄が挑んでも動かなかったはずの聖剣が、大根でも抜くかのようにものの見事に引き抜かれた。


「…………え?」

 受付のお姉さんも、マカロニも、周囲の観光客も、あまりの光景に呆然と立ち尽くす。

 引き抜かれた聖剣は、ヴァレリアの手の中でブルブルと情けなく震えていた。


「おめでとうございます……」

 静寂の中、お姉さんがどこか事務的な調子で拍手をする。ヴァレリアには首に花の首飾りがかけられ、安っぽい「金ぴか勇者君メダル」が手渡された。


「はいはい、では抜けた聖剣は元に戻してくださいねー。次のお客様が待っていらっしゃいますから」


 お姉さんのあまりに日常的で、興を削ぐような催促。ヴァレリアは肩透かしを食ったような顔をしたが、「ふん、鈍ったか師匠」と満足げに笑い、何事もなかったかのように聖剣をドスリと地面に突き戻した。

 聖剣は「……ひどすぎる……」と小さく呟いて沈黙した。世界観も、伝説も、そして聖剣自身の尊厳も、筋肉と観光ビジネスの前ではあまりにも無力だった。


締め上げられるタヌキ


「……それにしても。ごはんもおいしいですしぃ、おんせんも出ますしぃ、聖剣先生も拝めましたしぃ。電脳隠れ里『コードガクレ』、とってもたのしかったですねぇ!」


 真っ赤になった耳をさすりながら、マカロニが空気を読まずにヘラヘラと笑いかけた。


「――じゃねええええよ!!」


 ギリギリと、凄まじい力でマカロニの首を締め上げるネネ。


「何が『たのしかった』よ! 薬物と翡翠の搾取で固めたテーマパークじゃない! この卑怯タヌキ、まだ自分が何したか分かってないわね!?」

「あが、あがが……し、死にますぅ……ユウサク様ぁ、ネネ様の殺意がガチですぅ……!」


 ユウサクは、力なく空を仰いだ。この都の「繁栄」という名の狂気は、マカロニをどれだけ締め上げたところで収まる気配はなかった。

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