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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第10章 欲望の守護天使

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第一話:オアシスの街と、Pythonを刻むドワーフ

螺旋の街フンデルトを追放された優作一行は、不気味な魔王軍幹部アナスタシアが告げた「中原ちゅうげん」を目指し、過酷な砂漠地帯へと足を踏み入れていた。


 熱風が吹き荒れる砂漠の真ん中、巨大な岩山の麓に、奇跡のような緑のオアシスが姿を現す。そこが一行の目的地、西域の工匠たちが住まうドワーフの村であった。


終末を呼ぶ汚泥の凱旋


 街道の先頭を歩くヴァレリアは、あの二百キロの鉄塊「ドラゴンスレイヤー」を軽々と肩に担ぎ、自作の不気味な歌を朗々と歌いながら進んでいた。


「鉄よー鉄よー 愛しの鉄よー。

 泥にーまみれてー 二頭筋ちからがー弾けるー。

 んふー、んふんふー。

 私はー勇者ー 終末ー呼ぶー汚泥のー化身ー♪」


 その首元には、アルメリアから(嫌がらせで)授与された、『終末を呼ぶ汚泥の化身の剛腕勇者』という文字が刻まれた銀色のメダルが、誇らしげに揺れている。


「……なあ、ヴァレリア。それ、本当に首に下げたまま旅するのか? どう見ても呪いのアイテムか不名誉な記録にしか見えないんだけど」


 後ろを歩くユウサクが、熱気にやられながら問いかけた。


「何言ってるのよ、ユウサク。これは私の栄光の証よ! んふ、もしかしてユウサク、このメダルや私の剣が欲しくなったのかしら? やらんぞ。これは私だけの『力』なんだから!」


 ヴァレリアがぐいと腕を曲げると、一ヶ月の野営と素振りで異常発達した上腕二頭筋が、はち切れんばかりに膨らんだ。すでに鎧の繋ぎ目は悲鳴を上げ、金属の籠手は肉に食い込んで、いまにも内側から爆発しそうな有様だった。


絡繰と翡翠の交易都市


 村に入ると、そこにはユウサクが知る「中世欧州風ドワーフ」のイメージとはかけ離れた光景が広がっていた。

 カシュガルのような干しレンガ(アドベ)造りの街並みに、精密な幾何学模様のタイルや彫刻が施されたドーム状の石造屋根が並ぶ。地下には「カナート」と呼ばれる地下水路が張り巡らされ、涼しい風が吹き抜けていた。


 バザールでは、麦酒ビールの代わりにスパイスを効かせたバター茶が振る舞われ、顔ほどの大きさがある焼き立てのナンが主食として売られている。


「……へぇ、ここのドワーフは翡翠ジェイドを神聖視してるのか」


 ネネが興味深そうに、鎧の装飾に埋め込まれた緑色の石を指差した。この地のドワーフは鉱石だけでなく、翡翠の加工技術に長けており、それが高度な「火薬」や「絡繰オートマタ」の技術と組み合わさっているようだった。


迷い込んだ「厄日」の名工


 一行は、村で一番の腕利きと評判の名工「ゴロ」の工房を訪れた。

 偏屈な性格で有名なドワーフだが、店に入るなりヴァレリアの姿を見るやいなや、ゴロはなぜか平身低頭な態度で迎えた。ドワーフの区別はつきにくいが、彼がただならぬ恐怖を感じていることだけはユウサクにも分かった。


 ヴァレリアがカウンターに「ドォォォォン!」と巨大な鉄塊を置くと、ミシッとカウンターの板が悲鳴を上げた。


「……これ、剣なのか? これで……敵を殺すのか? そもそも、これを扱えるのか……?」


 ゴロが引きつった顔で問うと、ヴァレリアは不敵に笑い、その鉄の板を軽々と掲げた。

 全長二メートル、重量二百キロ、厚さ十センチ。重心が極端に偏ったその塊を、彼女はあろうことか店内でくるくると回してみせたのだ。

 凄まじい遠心力が発生し、巻き起こる風圧だけで店の棚の小物が吹き飛び、壁には鋭い亀裂が走る。


「わかった、わかった! やめてくれ! 死ぬ、店が死ぬ!!」


 ゴロの必死の制止に、ヴァレリアは満足げに鼻を鳴らして動きを止めた。


「とんだ客が来てしまった……今日は厄日だ」


 ゴロは額の汗を拭いながら、ヴァレリアを見上げた。


「ヴァレリアさん……でしたっけ。いや、整備といっても研ぐぐらいしかできませんよ。それを自在に扱えるなら、下手に手をつけないほうがいい。二百キロ、二メートル、厚さ十センチ……。慣性モーメントは約266.7kg・m²、毎秒一回転で振り回した際の重心位置にかかる遠心力は約7,895ニュートン……重力換算で約0.8トンもの引き剥がし荷重に耐えながら、これだけの質量を御している計算だ。今のバランスが最高なんです。軽くすれば威力が死ぬし、短くしても意味がない。今のままが一番いい」


一息に数値を並べ立てた鍛冶師だったが、ふと剣の柄にまとわりつく「黒い影」に目を留めると、その表情が険しく一変した。


「……その剣は不吉じゃ。申し訳ないが、整備はできない」


 鍛冶師は道具をしまい込み、それ以上触れることを拒むように背を向けた。

 ヴァレリアは何も言わず、満足げに鼻を鳴らすと、再びその巨剣を担ぎ上げた。彼女にとって、その不吉さも重量も、すべては己の筋肉を研ぎ澄ますための「糧」でしかなかった。

筋肉の成長と、衝撃の「ラテックス鎧」


 ゴロの視線は、次にヴァレリアのパンパンに膨れ上がった腕へと向けられた。


「それより、その鎧ですよ。……もう、鎧はやめて『ラテックス製』にしちゃいましょう。あなた、これからも成長するでしょうし、身長も伸びる。ラテックスなら伸縮自在で脱ぎ着も簡単だ。それに……その美しい肉体を金属の鎧で隠すなんて不粋ですよ」


「……え、ラテックス?」


 ユウサクが耳を疑う中、ゴロは商魂(あるいは保身)を剥き出しにして続けた。


「鎧の代金はいりませんよ。その代わり、追加オプションの『魔法定義』から代金をいただきます。……そうですね、杖の代わりに追加機能を付与しましょうか。試しに、火炎ほのう系の強化プログラムを追加してみます。お題は結構、オプション代だけで!」


武器に刻まれし「火炎の定義」


 ゴロは工房の奥から翡翠の彫刻刀を取り出すと、ドラゴンスレイヤーの表面に新たな「聖なる文字列(Pythonコード)」を刻み始めた。


「えーと、関数の定義……ほのう出力時は二倍……空気への着火時の現象として定義して……」


# ドラゴンスレイヤー専用:火炎強化モジュール

import world_physics


def ignite_fire_enhancement(sword_power):

"""

空気への着火時の現象として火炎を定義。

出力時に威力を二倍にする。

"""

ignition_status = world_physics.ignite_air(condition="impact")


if ignition_status:

# ほのう出力時 × 2

enhanced_output = sword_power * 2

print("FLAME ACTIVATED: DOUBLE DESTRUCTION")

return enhanced_output


return sword_power


# ヴァレリアの振りに合わせて実行

output = ignite_fire_enhancement(valeria_sword.swing(power=9001))



「……いや、だからなんでドワーフの秘伝がPythonなんだよ! 物理エンジン(world_physics)とかインポートしてんじゃねーよ!」


 ユウサクの叫びも届かず、ヴァレリアの剣には「叩きつけると空気が爆発して二倍の威力が出る」という、文字通りの破壊的コードが刻まれた。


暗雲:オアシスの狂気


 その時だった。工房の扉が勢いよく開き、一人のドワーフが血相を変えて飛び込んできた。


「ゴロ、大変だ! 隣の奥さんが旦那を刺して、まだ暴れてるんだ! 手がつけられねえ、あんたぐらいしか止められる奴がいねえんだよ!」


「なんだと!? あの大人しい奥さんがか!?」


 ゴロの顔が険しくなる。ユウサク一行もただならぬ気配を感じ、即座に現場へと駆けつけた。


 そこには、凄惨な光景が広がっていた。

 錯乱した様子のドワーフの女性が、血に濡れた包丁を振り回しながら、口から白い泡を飛ばして絶叫している。その口からは、言葉にならない支離滅裂な叫びと、不気味な笑い声が混濁して漏れ出ていた。


「……アハ、アハハ……! 視える、視えるわ……! 根っこが、這い寄る根っこが……!」


 泡を吹く彼女の瞳は濁り、もはや理性のかけらも感じられない。

 その様子を背後から見ていたユウサクの背筋に、冷たい汗が流れた。


(……なんだ、この感じ。ただの痴話喧嘩や錯乱じゃない。……すごく嫌な予感がする)


 それは魔王軍の仕業か、あるいはこのオアシスに潜む「何か」の影響か。

 返り血で真っ赤に染まったヴァレリアとはまた違う、本物の「狂気」がそこには漂っていた。


(第十六章 第一話 終了)

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