第二話:過剰な勇者と鉄塊の帰還
「鉄塊」ドラゴンスレイヤーが振り下ろされた衝撃は、広場の石畳を粉砕し、不気味な「メス」のカマキリを跡形もなく両断していた。
あまりの質量攻撃に、断末魔の叫びすら上がる隙はなかった。
「……ふぅ。これが勇者の力よ。見たか、ユウサク」
返り血を浴び、肩で息をしながらヴァレリアが勝ち誇る。しかし、その足元には二百キロを優に超える鉄塊が深々と地面に突き刺さっていた。
過剰なる「勇者」たち
惨状を眺めていた管理代行、アルメリアが、溜息を吐いた。
アルメリア「見事な一撃でしたわ、勇者ヴァレリア様。……ですが、やはり今のうちに街の外へ押し返しておくべきでしたわね。直接街の中で暴れられると、この曲線美溢れる建物の被害が甚大ですもの」
ユウサク「いや、一匹だけだったからなんとかなりましたけど……。魔王軍が本格的に攻めてくるなら、もっと守備を固めたほうがいいんじゃないですか?」
アルメリア「ええ、神託に従って『勇者様』がもう少し集まった一ヶ月後くらいに、大規模な討伐隊を結成する予定ですが……」
アルメリアの言葉に、ユウサクが首を傾げる。
ユウサク「もう少し集まったら? ……え、勇者ってそんなにたくさん来るもんなんですか?」
アルメリア「あら、ご存じありませんの? 今この街には、神託を受けて集まった『勇者様』がすでに数百人は滞在しておりますわよ」
ユウサク「はい!? 勇者ってそんな、バーゲンセールみたいにいるもん!?(俺の知ってる設定と違う!)」
驚愕するユウサクを他所に、アルメリアは「まあ、皆様お買い物もたくさんしてくださるので、経済的には助かっていますが」と微笑んだ。
どうやらこの「フンデルト」は、星読みの神託によって世界中から「勇者候補」をかき集めている、一種の勇者特区のような場所らしい。
執念の「うんとこしょ」
とりあえずの危機は去った(あるいは一撃で終わった)ということで、一行は「星の教会」が提携している宿屋へと向かうことになった。
「ユウサク、ネネ、先に行っていて。私はこの『相棒』と一緒に、ゆっくり向かうから……」
ヴァレリアはそう告げると、再び鉄塊の柄を握り直した。
全長二メートル、厚さ十センチ。ただ重いだけならまだしも、重心が偏った鉄の塊を、彼女は意地でも持ち運ぶつもりのようだ。
ユウサクとネネは、先に宿屋へ入った。
豪華な夕食を済ませ、心地よいシャワーを浴び、ふかふかのベッドが用意された同室の部屋で、ネネは早々に眠りについた。
夜が更け、静まり返った廊下に、時折「……うんとこしょ。……どっこいしょ」という、地獄の底から響くような呻き声と、石を削る音が断続的に聞こえていた。
暁の帰還
――そして、夜が明けた。
朝日が窓から差し込む頃。
ユウサクたちの部屋の扉が、ゆっくりと、しかし執念を感じさせる力で開け放たれた。
「……うんとこしょ……どっこいしょ……。ふぅ……やった、わ……。ここが、私たちの、部屋ね……」
そこには、幽霊のような足取りで、自室まで鉄塊を引きずり込んできたヴァレリアが立っていた。
全身の筋肉は悲鳴を上げ、顔面には至るところに血管が浮き出ている。鼻からはツツ……と一筋の血が垂れ、体は文字通りボロボロだった。
ユウサク「……ヴァレリア、お前、今着いたのか?」
ユウサクの問いかけに応じる余裕もなく、ヴァレリアは鉄塊を床に(ものすごい音と共に)落とすと、そのまま倒れ込むようにベッドへと沈んだ。
「んふーーーーっ……。……最高、だわ……」
意識を失う寸前、彼女は満足げに鼻を鳴らした。
二百キロの質量を、気合だけで宿屋の二階まで運びきったという圧倒的な達成感。
ボロボロの肉体とは裏腹に、彼女の心はかつてない充足感に満たされていた。
ネネ「……朝からうるさいわね。床が抜けるわよ、ユウサクさん」
寝ぼけ眼のネネが冷たく呟く中、ユウサクは、ベッドの横で鈍く光る「ドラゴンスレイヤー」を、ただ呆然と見つめるしかなかった。




