第八話:神殺しの末裔と、暴論の勇者
ユウサクの慟哭がようやく止まり、里の広場に少しずつ静けさが戻ってきた。
ネネは未だに涙を拭っているユウサクを一瞥し、それからマカロニに向けて、核心を突く問いを投げかけた。
ネネ「……ねえ、マカロニ。あんたたちの一族の先祖は、一体過去に何をしたの? 神様に呪われるなんて、ただ事じゃないわよ」
マカロニは少し俯き、里の奥に鎮座する古びた石碑の方を見つめた。
マカロニ「……忍者の秘術を用いた『神殺し』だった、と聞いています」
その言葉に、ネネの眉がわずかに動いた。
マカロニ「いつの話かは、もう誰にも分かりません。ですが、私たちの先祖は、その卓越した隠密技術と暗殺術を極めるあまり、ある神の一族を一人残らず抹殺してしまったそうなんです。……神殺しの技術がこれ以上磨かれ、後世に伝わることを恐れた他の神々が、私たちに『短命の呪い』をかけたのだと言われています」
マカロニの語る壮大な伝説と、目の前の情けない里の現状。そのあまりの乖離に、ネネは「技術が継承されなかったのか、あるいは最初から大層なホラ話だったのか」と内心で毒を吐いた。
勇者の暴論、神への挑戦
そんな中、これまでずっと自分の「最強の拳(剣)」に見惚れていたヴァレリアが、急に会話に入ってきた。
ヴァレリア「ふむ……。話はわかったわ。つまり、その『呪い』をかけている神が、どこかにいるということね?」
マカロニ「はい……。里の言い伝えでは、今も北の果ての聖域で、一族の命を削り続けていると……」
ヴァレリア「だったら話は早いわ! 狼より強く、そしてさっきの神(一つ目の鬼)より強い私たちがいるんだから! 儀式だの供物だの、まどろっこしいことは抜きよ!」
ヴァレリアは高らかに宣言し、月光を反射する聖剣デュランダルを天に突き上げた。
ヴァレリア「私たちが最強で強いんだから、その神を直接『討伐』してやるわ! 私のこの神がかり的な剣技……いや、拳技の錆にして、無理やり呪いを解かせてあげようじゃないの!」
ユウサク「……ええっ!? ヴァレリアさん、それ本気で言ってるんですか!?」
ユウサクは腰を抜かし、涙目で叫んだ。
神様を直接殴って解決しようという、勇者どころか魔王以上の暴論。
ユウサク「やめましょうよ、神様を討伐だなんて……! またあんなひどい目に遭ったらどうするんですか!!」
自らのトラウマを投影し、全力で拒否するユウサク。
しかし、ヴァレリアの耳には「称賛の言葉」しか届いていない。
ヴァレリア「んふーっ。神さえも跪く私の輝き……。ああ、自分が怖いわ。……さあ、マカロニ! 案内しなさい。その『神』という不届き者の居場所をね!」
マカロニは呆然と、自分の理解を超えた「最強」を自称する女勇者を見上げ、それから情けなく震えるユウサクへと視線を移した。
守護獣の洗礼
マカロニに案内され、一行がたどり端いたのは、森の最奥にひっそりと佇む『神社』の社であった。
静寂に包まれたその場所に足を踏み入れた瞬間、社の前に鎮座していた二体の狛犬が、異様な霊気を放ち始めた。石像であったはずのそれらがゆっくりと実体化し、牙を剥いて襲いかかってきたのだ。
狛犬「不法侵入者め……! 何用だッ!!」
凄まじい咆哮と共に、一体の狛犬がヴァレリアへと突進する。
ヴァレリア「ふん、石ころ風情が勇者に挑むとはいい度胸ね!」
ヴァレリアは聖剣を構え、正面からその突進を剣で受け止める。ガキィィィィィィン! という火花が散るような衝撃音が響く。一方、もう一体の狛犬は、おろおろとしているユウサクを標的に定め、執拗に追いかけ回し始めた。
ユウサク「ひいいいいいっ! こっち来ないで! 噛まないで! 怖いのはもう嫌だあああっ!」
ユウサクの情けない悲鳴をBGMに、ネネは冷めた目で戦況を分析しながら、呪文の詠唱を開始した。
ヴァレリアは、案の定、重い聖剣の扱いに四苦八苦し、狛犬の体当たりを受けるたびに地面をごろごろと転がっていた。泥まみれになりながらも、彼女は剣を杖のようにして力強く立ち上がる。
ヴァレリア「……やるな。だが、今の衝撃で私の『神の闘気』が目覚めたわ!」
ヴァレリアは剣を振りかざしながら猛然と突進する。狛犬が迎え撃とうとしたその瞬間、彼女は一気に間合いを詰めると、手に持った剣などまるでおまけであるかのように、渾身の『前蹴り』を狛犬の胴体に叩き込んだ。
――ドォォォォン!!
凄まじい破壊音と共に、石の体が内側から粉々に砕け散る。
ヴァレリアは粉塵の中で剣を天高く突き刺し、ポーズを決めて言い放った。
ヴァレリア「神の美少女戦士、ヴァレリア……ここに参上!!」
その横では、相変わらずユウサクが「助けてぇぇっ!」と狛犬に狙われながら必死に逃げ回っていた。
そこへ、ネネの呪文の詠唱が完了する。
ネネ「……消えなさい、石ころ」
ネネが指を差した瞬間、虚空から現れた巨大な岩が、ユウサクを追っていた狛犬を目がけて直撃した。
轟音と共に、もう一体の狛犬も無残に破壊され、辺りには再び静寂が訪れた。
忍者の秘薬
戦闘が終わり、息を切らす一行に対し、マカロニが「これを使ってください」と水筒を取り出した。
マカロニ「……忍者の秘薬です。これから聖域の奥へ向かう皆様に」
マカロニは水筒から木の器に水を注ぐと、ユウサクに手渡した。そして懐から小さな瓶を取り出し、スポイトで数滴、無色の液体をそこへ垂らした。
マカロニ「これは身体増強や精神の高揚を促す、里の神秘の薬です。これさえ飲めば、どんな不安も吹き飛び、力が漲ります。……私たちタヌキ一族は、子供の頃からよく飲んでいるんですよ」
ユウサクは「へぇ、そんなにすごい薬なのか……!」と目を輝かせ、手渡された器を躊躇なく一気に飲み干した。
ユウサク「ぷはぁっ! ……なんだか、体中の痛みが消えて、頭がシャキッとしてきた気がするぞ!」
単純な男が即座に効果(?)を実感している傍らで、ヴァレリアとネネにも同じ器が差し出されたが、二人はマカロニが見ていない隙に、中身をそっと茂みの中へ捨てていた。
(第十四章 第八話 終了)




