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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第八章 ダイアモンドはただの石

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第四話:自分への恐怖と、歪んだ慈愛の眼差し

狼と兎の亜人を一撃で粉砕し、静まり返った森の中。

 ヴァレリアは、返り血がついた己の拳をじっと見つめ、恍惚とした吐息を漏らしていた。


ヴァレリア「……んふーっ。怖い。自分が怖いわ……」


 彼女は陶酔しきった瞳で、自らの掌を開いたり閉じたりしている。


ヴァレリア「強くなりすぎてしまった……。月から降り立った美少女戦士ヴァレリア、私は一体どこまで高みへ登ってしまうのかしら。この圧倒的な力、制御できなくなって世界を壊してしまわないか、自分が怖くてたまらないわ!」


 月光を浴びながらポーズを決めるヴァレリア。その背後では、完全に冷めきった二つの声が重なった。


ユウサク「はいはい、強い強い。世界一ですよ」

デュランダル「ああ、全くだ。神がかり的な不器用さとセットの破壊力だな。はいはい」


 棒読みの称賛を投げ捨てるように言い放つと、ユウサクはヴァレリアの自己完結した世界など目もくれず、地面に座り込むマカロニに駆け寄った。


歪んだ慈愛


ユウサク「マカロニ! 大丈夫かい!? 怪我はないか!? 足が痛むのかい? ああ、可哀想に……こんなに震えて」


 ユウサクは涙を流しながら、自分をハメて食い殺そうとしたはずのタヌキの少女を、甲斐甲斐しく介抱し始めた。


ユウサク「怖かっただろう。こんな理不尽な世界で、あんな狼に蹴り飛ばされて……。もう大丈夫だよ、僕が君を守ってあげるからね」


 その様子は、聖母のような慈愛に満ちているというよりは、何か決定的に壊れた者が向ける異常な執着に近いものがあった。アナトリアでの地獄を経て、ユウサクの倫理観は「虐げられる者」への病的な同情へと変質していたのだ。


マカロニ「え、あ、あの……ユウサクさん、私、皆さんを騙して……」


ユウサク「いいんだ、何も言わなくていい! 君は生きるために必死だっただけだ! 悪いのは君じゃない、この残酷な世界なんだよ!!」


 マカロニの手を握りしめ、嗚咽を漏らすユウサク。


ネネの疑念


 そんな「救世主気取りの男」と「自称・最強の美少女」を、ネネは一歩引いた場所からじっと観察していた。


ネネ「(……なんなの、この空気)」


 ヴァレリアは相変わらず「自分が怖い」と鏡(聖剣の刀身)を見てうっとりしている。

 その後、ユウサクは、裏切り者のタヌキに対して、どこまでも深く、濁りのない優しさを向けている。


 普通なら、騙された怒りでマカロニを始末してもおかしくない状況だ。しかしユウサクには、その「怒り」という感情がすっぽりと抜け落ちているように見える。


ネネ「(……気持ち悪いほど優しいわね、あんた)」


ネネは、そんなユウサクの底知れなさに、抗いようのない興味を抱き始めていた。


タヌキの忍、マカロニの真実


 ユウサクの過剰なまでの優しさに、マカロニは震える手を伸ばし、彼の大きな手をぎゅっと握り返した。


マカロニ「……聞いてください。私は、この森の最奥にひっそりと佇む『隠れ里』……忍者の里に住むタヌキ族の者なんです」


 マカロニは、涙を拭いながら消え入るような声で続けた。


マカロニ「私たちの里は、古くから独自の隠密技術を伝承してきました。ですが、その類まれなる技術に目をつけたあの亜人たちに、ある日突然、里を襲われ……私はさらわれてしまったんです。里の者たちを人質に取られ、『言うことを聞かなければ皆殺しにする』と脅されて……。私は、大切な家族を守るために、仕方なく獲物を誘い込む役目を引き受けていたんです……っ!」


 ネネはマカロニの身の上話を聞きながら、内心で鼻を鳴らした。


ネネ「(……忍者? 忍者のくせに、子供のタヌキ一匹さらわれるのを許して、挙句に言いなりにされてるなんて。……弱すぎじゃないの? その里)」


 ネネの冷徹な評価をよそに、ユウサクの感情は決壊していた。


ユウサク「あああああ……っ!! なんてことだ、なんて悲しい話なんだマカロニ!! 君は、君はそんな重い運命を一人で背負って……ごめん、ごめんよぉぉっ!!」


 ユウサクは号泣しながらマカロニを力いっぱい抱きしめた。もはや介抱というよりは、感情の押し売りに近いレベルの抱擁だ。


 その傍らで、ヴァレリアだけは完全に別世界にいた。


ヴァレリア「……聞いたか、デュランダル。今の私の拳圧。もはや剣など不要だと思わせるほどの完成度……。だが、私は剣士。この矛盾、どうすればいいの……。ねえ、答えてよ……」


 月の光を浴びながら、ヴァレリアは独り言のように聖剣に語りかけ続けていた。自分たちが今、忍者の里の存亡に関わる重大な告白を聞いたことなど、彼女の耳には一文字も入っていないようだった。


迷走する一行と、届かぬ叫び


 ユウサクはマカロニに深く感情移入して涙を拭い、ヴァレリアは自身の聖剣にうっとりと語りかけ、ネネは「おかしい、絶対におかしいわ……」とぶつぶつ独り言を漏らし続けている。


 やがて、三人は三者三様に、まったく別の方向へと歩き出してしまった。

 だが、歩き方こそバラバラではあるものの、目指す方向だけは奇妙に一致しているようだ。


 そんな一行のあとを、マカロニは冷静な足取りで追い始めた。


 そんな収集のつかない状況を見かねて、ついにヴァレリアの腰の聖剣が咆哮した。


デュランダル「おいお前ら、何やってんだ!! 里はどっちだよ!!」

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