第一話:英雄の凱旋と、打ち砕かれた男の魂
アナトリアでの凄惨な「教育」の日々から一ヶ月。一行は新たな地、商いの要衝『ペレイラ』に辿り着いていた。
「んふーーーっ! 見てよ、ユウサク、ネネ! この輝き、神々しすぎて目が潰れちゃいそうじゃない!?」
ヴァレリアは、首から下げた大量のメダルをジャラジャラと鳴らし、鼻の穴を膨らませていた。
そこには、かつての『勇者のメダル』と『ドラゴンスレイヤー』に加え、新たに二つの巨大なメダルが追加されていた。魔王の娘・四天王の一人である「レア」、そして魔王の妃「シズク」。この魔王軍幹部二体を(実態はどうあれ)打ち倒した英雄として、彼女の名声は今や世界を震わせるほどになっていた。
ヴァレリア「ふふん、魔王軍の幹部を二体も。もはや、私をただの勇者と呼ぶのは失礼かもしれないわね。『世界を統べる美少女戦士覇者勇者ヴァレリア様』……うん、これがいいわ!」
すっかり自分の世界に陶酔し、満足げにメダルを磨くヴァレリア。
だが、その背後を歩く男の姿には、かつての面影など微塵もなかった。
ユウサク「……ごめんなさい。悪かったです……俺が、俺が悪かったんです……許してください……」
ユウサクは、魂が抜けたような顔で力なく地面を見つめ、ひたすらうわ言のように謝罪を繰り返していた。歩きながら、そして寝ている時でさえ、「お尻が……」「ヴァレリア、ごめん……ごめん……おれも、ちょっとまざりたい……」と涙を流して震えるその姿は、一ヶ月に及ぶ蹂躙がどれほど深い傷を刻んだかを物語っていた。
ネネ「……ユウサク、いつまでもしみったれた顔してんじゃないわよ。反省してるなら、もっとテキパキ動きなさい。ほら、荷物が傾いてるわよ」
ネネ「あんたは奴隷なんだから、私の命令は絶対よ。……いい? 喉が渇いたわ。そこの山から染み出している水を汲んできなさい。水筒がいっぱいになるまで、戻ってきちゃダメだからね」
ユウサク「……はい、ネネ様。ただいま、ただいま行ってまいります……」
ユウサクは首輪の跡が残る首をすくめ、フラフラとした足取りで山道へと分け入っていった。ネネに逆らうという選択肢は、今の彼の崩壊した精神には存在しなかった。
山道の惨劇と、疼くトラウマ
岩肌から染み出す細い水流を見つけ、ユウサクが虚ろな瞳で水筒を差し出した、その時だった。
「――きゃああああああああああああッ!!!」
静かな山間に、引き裂くような女の悲鳴が響き渡った。
反射的に駆けつけたユウサクの目に飛び込んできたのは、凄惨な光景だった。
体格のいい髭面の野盗のリーダーが、若い女性を地面に組み伏せている。周囲には四、五人の下卑た笑いを浮かべた男たちが取り囲んでいた。
娘はすでに上半身を剥き出しにされ、一人が足を押さえ、もう一人が腕を封じている。まさに最悪の暴力が始まろうとしていた。
ユウサク「まぜ……じゃなかった! やめろおおおおおおッ!!」
ユウサクは激昂し、叫び声を上げた。
今のユウサクにとって、こうした暴力的な性描写はもはや興奮の対象ではない。むしろ、こういった場面を想像するだけで、アナトリアでの一ヶ月の記憶が呼び起こされ、自分のお尻がズキズキとうずき始めるのだ。
ユウサク「こんなことしちゃいけないんだ! 一生の心の傷になって残るんだぞ! お前ら、自分が何をしようとしているか分かってるのか!!」
これまでのユウサクにはなかった、必死の倫理観と正義感。自らが「地獄」を味わったからこそ出た、魂の叫びだった。
ユウサクは疼くお尻を片手で必死に押さえながら、涙目で続けた。
ユウサク「二回目だぞ! やめろ!!」
野盗「なんだなんだ、この細っこい野郎は……死にたいのか!」
逆上した野盗たちが一斉にユウサクへ襲いかかる。野盗たちの剣が、無防備なユウサクの肩や背中にまともに命中した。
――ガキィィィン!!
しかし、ユウサクは傷一つ負わずにピンピンしていた。器の頑強さだけは健在だが、恐怖だけは一人前だ。
ユウサク「ひいいいいいっ!! 痛い! 痛い……はずなのに! 来るなああ!!」
斬られても死なない男が、裸の女性の周りを情けない悲鳴を上げながら全力で逃げ惑う。その様子は、凄惨な現場を下手な喜劇へと変えていた。
そんな中、騒ぎを聞きつけたヴァレリアとネネが現場に参戦する。
ヴァレリア「下衆な野郎どもめ! 美少女戦士ヴァレリア様が成敗してくれるわ!!」
ヴァレリアが聖剣を抜き放ち、ネネが容赦のない魔法を放つ。圧倒的な戦力差により、野盗たちは瞬く間に討伐されていった。
少女マカロニと、過剰な配慮
野盗たちが片付けられた後、ユウサクは地面に座り込む女性に駆け寄った。
ユウサク「だいじょうぶですか!? 怪我はない!? 心の傷は!? ああ、なんてひどいことを……一生のトラウマになったらどうするんだ! 病院へ行かないと、いや、お祓いか!?」
ユウサクは涙目になりながら、異常なまでの勢いで女性を心配し始めた。自分自身の「一ヶ月」と重ね合わせているのか、その心配ぶりはもはや「うるさい」の域に達していた。
助けられた女性は、赤髪にそばかすが残る、幼さの残る少女だった。彼女は戸惑いながらも、ユウサクの過剰な配慮に感謝を告げる。
マカロニ「ありがとう……ございます。私はマカロニと言います。あ、あの、もう大丈夫ですから……」
マカロニによると、この辺りに野盗が拠点を築いて以来、襲われる人が続出しているという。彼女は病気の母親のために、危険を承知で薬草を採りに来ていたのだ。
マカロニ「命の恩人です……。お礼をさせてください。もしよろしければ、私の村に寄りませんか?」
マカロニの申し出に、ユウサクは「村まで僕が背負っていきます! 安全第一ですから!」と、相変わらず涙を拭きながら鼻息荒く頷くのだった。




