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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第7章 それって恋のはじまりじゃんよ

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第四話:朝焼けの絶望と、歪んだ祝福

アナトリアの空が白み始め、歯車と蒸気の街に冷ややかな朝の光が差し込み始めた頃。

 ビビ工房の裏口から、幽霊のような足取りで一人の男が這い出してきた。


ユウサク「…………」


 ユウサクの足取りはおぼつかなく、その顔色は土気色を通り越して白磁のようだった。

 腰に走る鈍い痛みと、未だに体内に残っているかのような「男の娘」ビビの熱っぽい感触。もちろん、精神的なダメージが、彼を内側から蝕んでいた。


 人目を忍んでそっと城へと戻り、与えられた自室の扉を開けたユウサクを待ち受けていたのは、最悪の先客だった。

 そこには、すでに二人の影が並んで座っていたからだ。


「あら、おかえりなさい。エースの初夜はどうだったのかしら?」


 冷ややかな、それでいて楽しげな声。

 ネネが、ハーブティーを啜りながら、壁に背を預けて立っていた。その隣には、昨夜のレオタード姿ではなく、いつもの青い鎧に身を包んだヴァレリアが、なぜかニヤニヤと……いや、下品ゲヒな笑みを浮かべて控えている。


ユウサク「……な、ヴァレリアさん……あんたまで……」


 もともとデリカシーなど持ち合わせていない女だが、トロール王家との晩餐会を経てさらに何かが吹っ切れたのか、あるいはネネに余計なことを吹き込まれたのか、その瞳には好奇心と嘲笑の色が混じり合っていた。


ネネ「何よその顔。天使のような少女と結ばれて、この世の春を謳歌したんじゃなかったの?」


 ネネはカップを置くと、ユウサクの至近距離まで歩み寄り、その魂を見透かすような目で言い放った。


ネネ「……男だって気が付かなかったの? ふふふ……。あんた、本当におめでたいわね。あんなに密着しておいて、最後まで天使だなんて信じ込んでいたなんて」


ユウサク「……違う! 本当に気づかなかったんだ! 俺は……俺は本当に, あいつが女の子だと、天使だと思って……!」


ヴァレリア「きもちよかったんでしょ? ならいいじゃない、ふふふ……。案外、あれは恋なんじゃない? ふふふふふっ!」


ユウサク「(……っ!!)」


 心の中に直接、鋭いナイフを突き立てられたような衝撃だった。

 ユウサクは本当に, 最後の最後まで気づかなかったのだ。ジェレミーの不器用な忠告を無視し、ビビの「つるペタ」を勝手に解釈し、自ら望んであの寝室へ向かったのは、純粋な……あまりにも愚かな誤解ゆえだった。だが、今の二人には何を言っても「変態の言い訳」にしか聞こえないらしい。


 裏切られた期待。もちろん、仲間たちからの容赦ない「確信犯の変態」というレッテル。

 ユウサクの心の傷口は、今まさに二人の執拗な追い打ちによって、広範囲に、実に残酷にえぐり広げられていた。


ユウサク「うっ、ううっ……。」


別の戦場、そして強襲


 その時、城内にけたたましい警笛の音が鳴り響いた。


「魔王軍だ! 城門前、中原の軍勢が視認されたぞッ!」


 その怒号に弾かれるようにして、ユウサクたちは自室から飛び出した。

 ヴァレリアとネネに急かされるまま、城のメインゲートへと駆けつけると、そこには既に戦時体制に入った兵士たちと、慌ただしく整備を続けるメカニックたちがひしめき合っていた。


ビビ「ユウサク! 無事!? 心配したんだから!」


 その雑踏の中から、真っ先にユウサクを見つけたのはビビだった。メカニック用のツナギを腰で縛った彼は、周囲の目も気にせずユウサクに駆け寄ると、その細い腕で力いっぱい抱きついてきた。


ユウサク「び、ビビ……離してくれ、今はそれどころじゃ……」


 ビビがユウサクに頬ずりした、その瞬間。背後に巨大な山のような影が立ち塞がった。


トロール姫「……おい、その不潔な小娘。誰の許可を得て、私の『夫』に触れているんだい?」


 トロール王女だった。彼女は巨大な牙を剥き出しにし、岩のような拳を握りしめてビビを睨みつけている。


ビビ「小娘じゃないもん、あたしはユウサクのエースなんだ! あんたこそ、その汚い手をユウサクから離しなさいよ、この肉塊!」


トロール姫「なんだと……!? 貴様のようなガリガリの人間の分際で! ユウサクは私の政略結婚の相手、すなわち未来のアナトリア王配なんだよ!」


ビビ「王配だか何だか知らないけど、昨日の夜、ユウサクの『中』を一番知ったのはあたしよ! あんたみたいな脂ぎったトロールに、ユウサクの良さがわかってまるもんですか!」


 周囲の喧騒も忘れていがみ合う二人。二メートルの巨躯と可憐な美少年(中身は男)による、ユウサクを奪い合う醜い「戦場」がそこには確かに存在していた。ユウサクは二人の殺気の間で、もはや魂が抜けかかっていた。


ビビ「……見てなさいよ。ユウサクが誰のものか、教えてあげるわ!」


 ビビはそう言うと、トロール姫を挑発するようにユウサクの首に腕を回し、彼を独占するように強引に引き寄せた。


ユウサク「な……っ!?」


 驚愕に目を見開くユウサクの唇に、ビビは深く、そしてこれ見よがしに誓いのキスを落とした。トロール姫への勝利を宣言するような、濃厚な口づけ。


 そして、ビビはユウサクの耳元で、周りにも聞こえるような熱っぽい声で囁いた。


ビビ「……魔王軍が攻めてくるんでしょ? 絶対、絶対に死なないでね。無事に帰ってきたら……また、えっちしようね、ユウサク」


ネネ「…………っ!?」

ヴァレリア「……えっ、ええええええええッ!?」


 ユウサクを「確信犯の変態」と嘲笑っていたはずのネネとヴァレリアだったが、公衆の面前で堂々と、しかも同性同士で「えっちの約束」を交わす二人を目の当たりにし、もはや言葉を失ってぎょっと立ち尽くすしかなかった。



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