第四話:核の鼓動、自称勇者たちの試験場
ガレージの湿った空気の中で、ユウサクは剥き出しになった機械の心臓部を見つめながら、何度も首をかしげていた。
ユウサク:「……はて。どこかで、これを見たような……。いや、思い出せない。ダメだ」
脳裏をよぎる断片的な情報の残滓を振り払おうとするユウサクの横で、マカロニが既に興味津々といった様子で動き出していた。彼女はいつになく真剣な表情を浮かべ、巨大な機械の複雑な関節部や配線の取り回しを一箇所ずつ指で丁寧になぞりながら、その構造を必死に理解しようとしている。
マカロニ:「……ふむふむ。これ、動力は何ですか?」
ショウゴ:「核よ。核融合炉で動いているのよ。……私と一緒。内緒だけど。あ、言っちゃった ♡」
ショウゴは悪戯っぽく微笑みながら、自分の胸元に指を当てた。
ネネ:「……は? 核融合炉? 私と一緒って、あんた人間じゃないの?」
ショウゴはその問いには答えず、遠くを見つめるような瞳でホワイトグレイブのコクピットを見上げた。
ショウゴ:「聞いてよー。これでも……ホワイトグレイブを使っても、あいつには歯が立たなかったのよ。……それで、ね。この里には自称勇者がたくさん来るじゃない?」
ショウゴはユウサクの肩に手を置き、その耳元で艶かしく囁いた。
ショウゴ:「だから、お強そうな男子と戦って……もし私に勝てるような人材がいたら、少なくても魔王と戦えるんじゃないかと思って。……うける――! あーっはっはっは! たのしいわぁ、これ、最高にうけるでしょ!?」
ショウゴは身をよじって高笑いし、自分の立てた計画の「面白さ」に心酔しているようだった。しかし、その笑い声がガレージに響き渡る中、彼は突如としてピタリと動きを止めた。
ショウゴ:「……受けない。全然、楽しくないわ」
氷のように冷え切った声。たった今までの熱狂を完全に切り捨て、無表情で言い放つ。
ショウゴ:「――じゃあ、勝負よ」
ショウゴは身を翻すと、剥き出しのコクピットへと鮮やかに飛び乗った。
ガシュゥゥゥン! という重厚な金属音と共に展開されていた外装(側)が閉じ、核融合炉のハミングがガレージの床を震わせる。
ショウゴ:「まずは、そこの勇者様からお相手してあげるわ」
ユウサク:「いやだああああ! もうおしりは懲り懲りだぁ! 逃げろぉぉぉ!!」
ユウサクは戦うどころか、社会的な死とおしりへの恐怖で半狂乱になり、ガレージの隅へと逃げ惑う。勝負など到底成立しない、情けない惨状。
だが、その無様な背中の前に、一人の女が静かに歩み出た。
ヴァレリア:「ユウサク、下がっていろ。……これは私の戦いだ」
ヴァレリア。ついさっきまでイケメンを前に赤面していたはずの彼女の瞳からは、一切の迷いが消えていた。彼女が背中から引き抜き、両手で抱え上げたその獲物。
「それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。それは正に、鉄塊だった」
漆黒の威容を誇るその大剣――ドラゴンスレイヤーを抱えた女が、唸りを上げる核の巨躯を真っ向から見据える。
ヴァレリア:「……ホワイトグレイブ. 旧時代の遺物に対し、私はこの鉄塊で応えよう」
ガレージの外:鉄塊対核融合
場所はガレージの外、勇者の里の端にある荒地へと移る。
ホワイトグレイブが、その巨体に似合わぬスムーズな動作で一歩を踏み出した。背面に備わった巨大なジェットエンジンが咆哮を上げると、凄まじい浮力が発生し、三メートルを超える鉄の塊が「ふわっ」と大地から浮き上がった。
ショウゴ:「いくわよ!」
機械的な駆動音と共に、ホワイトグレイブの右腕が唸りを上げて振り抜かれた。回避不能の速度で繰り出された右フック。ヴァレリアはドラゴンスレイヤーを盾にするように構え、その衝撃を真正面から受け止める。
ヒュゥゥゥーーン、バシィィィッ!!
金属と鉄塊が衝突する凄まじい衝撃波が周囲をなぎ払い、ヴァレリアの身体は木の葉のように吹き飛ばされた。背後の巨木に叩きつけられ、めり込むような鈍い音が響く。
ショウゴ:「だめね。女の子は……」
冷淡に見下ろすショウゴ。だが、ヴァレリアは口元から鮮血を吐き捨てながら、震える膝を力強く踏みしめて立ち上がった。
ヴァレリア:「……ぬるいな」
ヴァレリアは一気に距離を詰め、ドラゴンスレイヤーを大きく横一線に薙ぎ払う。鉄塊が空気を切り裂き、ホワイトグレイブの胴体を捉えようとしたその瞬間、ショウゴは垂直に跳ね上がり、悠然と上空へと逃れた。
ショウゴ:「あら。魔王軍の方だって、普通に空くらい飛ぶわよ。……どうするの?」
溶ける鉄塊、折れる心
空中でホバリングするホワイトグレイブの右腕から、パシュンと小気味よい噴射音がした。手首のホルスターから射出されたのは、一本の無機質な柄。
ショウゴ:「本当の『剣』ってものを見せてあげるわ」
ジュゥゥゥン!!
柄から噴き出したのは、超高温のプラズマが収束した光の刃――「ビームサーベル」だった。
ホワイトグレイブは噴射光を撒き散らしながら急降下し、地上のヴァレリアへと襲いかかる。
ヴァレリア:「……ッ! 来い!!」
ヴァレリアは全筋力を腕に込め、ドラゴンスレイヤーを真っ向から掲げて防ごうとした。物理的な重さと硬度こそが最強であると信じて。
だが。
――ジュワッ。
衝突音すらなかった。漆黒の鉄塊は、光の刃が触れた瞬間に飴細工のように柔らかく融解し、斜めに両断された。
ヴァレリア:「……ふぁ!?」
切断面から真っ赤な溶岩のような鉄液を滴らせ、誇り高き大剣の半分が地面に力なく突き刺さる。ヴァレリアは、手元に残った無惨な鉄の燃え残りを見つめ、信じられないものを見たという顔で涙目になった。彼女の心の拠り所であった「重さ」が、テクノロジーの前に無に帰したのだ。
ショウゴ:「だから言ったでしょ。これを……このホワイトグレイブの出力をもってしても、魔王軍はものともしなかったのよ。私だって信じられないんだから」
ショウゴの声には、虚無に近い絶望が混じっていた。追い打ちをかけるように、ホワイトグレイブの鋼鉄の拳が、立ち尽くすヴァレリアに向かって振り下ろされる。
ネネの憤怒、メテオの詠唱
ヴァレリアが完全にやる気を失い、死を覚悟したその時。
ネネ:「――そこまでよ!!」
ユウサクの背後からネネが躍り出た。彼女は丸腰のまま天を指差し、全身から溢れ出す圧倒的な魔力を一点へと集中させた。
ネネ:「悠久の時を彷徨う虚ろなる星よ。静寂の深淵に眠る古の巨石に、今こそ天罰の重みを与えん。降り注ぐは、罪を穿つ火の矢。踏みしだくは、傲慢を砕く大地の怒り!」
ネネの背後に巨大な魔法陣が展開される。それは幾何学模様を超え、燃え盛る星々の軌道が複雑に絡み合う光の奔流であった。
ネネ:「空を裂き、風を焼き、逃げ場なき終焉をその身に刻め。世界の理に従いて、大いなる石の息吹を顕現させよ。天よ、怒りをもって地に答えよ!」
空が真っ赤に染まり、雲を突き抜けて巨大な火球が姿を現す。
ネネ:「落ちろ! 終焉の星撃――『メテオ』!!!」
ネネの純粋な魔力によって召喚された隕石が、逃げ場を塞ぐようにしてホワイトグレイブへと降り注いだ。
逆襲のショウゴ:隕石の受け止め
上空から迫る絶望的な質量の塊。燃え盛る隕石が、逃げ場のない速度でホワイトグレイブを押し潰そうとする。
ネネ:「これならどうよ! 潰されなさい!」
だが、ショウゴは恐怖どころか、恍惚とした笑みを浮かべてスロットルを全開にした。
ショウゴ:「ふふふ……これだけの重圧、狂おしいほどに熱いわね!!」
ホワイトグレイブの背面のジェットエンジンが限界を超えて火を噴き、機体は隕石へと真っ向から急上昇した。そして、鋼鉄の両腕を広げ、迫りくる巨大な火球を真正面からガッチリと受け止めたのだ!
ユウサク:「な……嘘だろ!? あのデカい岩を、素手で受け止めた!?」
隕石の落下エネルギーと、ホワイトグレイブの全出力が激突し、大気が悲鳴を上げる。機体の各所から火花が飛び散り、装甲が熱で真っ赤に焼け落ちていく。
ショウゴ:「たかが石っころ一つ、ホワイトグレイブで押し出してやるわ!!」
ショウゴは狂気じみた叫び声を上げ、内部コクピットで全レバーを前方へ叩きつけた。核融合炉がオーバーロード寸前のハミングを奏でる。
ショウゴ:「ふん! ホワイトグレイブは伊達じゃないのよぉ!! ♡」
逆噴射を繰り返しながら、三メートルの機械が山のような隕石をじりじりと押し戻し始めた。
墜落する機体、最後の反撃
高熱に包まれ、悲鳴を上げるホワイトグレイブ。ショウゴが絶叫しながら全出力を注ぎ込んだ結果、隕石の軌道はわずかに逸れ始めた。
火球はホワイトグレイブの脇を抜け、地平線を削り取りながら、遥か彼方の地平へと消えていく。削られた地面は赤く融解し、荒地はもはや正視できないほど無惨なありさまと化していた。
機体各部から黒煙を上げ、ボロボロになったホワイトグレイブが地上へと不時着する。装甲は剥がれ落ち、核融合炉のハミングも不規則な異音に変わっていた。だが、ショウゴは死んでいなかった。
ショウゴ:「……まだ……まだよ! 勇者様たちの最後を見届けるまでは……!」
ショウゴは満身創痍の機体を無理やり動かし、目の前のネネへ向けて最後の一撃を放とうと、残った腕を振り上げる。
ネネ:「――っ!? まだ動くの!?」
ネネが身構えたその瞬間、背後から一枚のお札が風を切って飛んできた。
マカロニ:「くらえ、特製『爆発符』ですぅぅ!!」
ドカァァァーーン!!
ホワイトグレイブの足元で爆炎が上がり、バランスを崩した巨大な機体が無様に尻もちをついた。
奥義の覚醒と凄惨な結末
そこへ、静かに立ち上がったヴァレリアが割って入る。その瞳は完全に座り、身体からは禍々しいほどの闘気が溢れ出していた。
ヴァレリア:「……奥義、『しんらい』」
ヴァレリアの咆哮と共に、彼女の全身を眩い閃光が包み込んだ。その光の中から現れたのは、もはや人間の姿ではなかった。全高十メートルを超える、伝説の「巨大ドラゴン」へと変貌したヴァレリア。
ユウサク:「な、なんだよそれ! ヴァレリア、やりすぎだって! ストップ、ストップーー!!」
だが、理性を失ったドラゴンの耳にユウサクの声は届かない。巨大ドラゴンと化したヴァレリアは、無慈悲にその巨大な足を振り上げると、動けないホワイトグレイブを真っ向から「踏みつぶした」のだ。
メキ、ベキ、グシャァッ!!
耳を覆いたくなるような、凄まじい圧壊音が周囲に響き渡る。
ユウサク:「あ……あああ!! やりすぎだ、ヴァレリア! やりすぎだああああ!!」
ユウサクがパニックになりながら叫ぶが、すべては後の祭りだった。ヴァレリアが人間の姿に戻り、一行が慌てて「ぺっちゃんこ」になったホワイトグレイブのコクピットらしき箇所をこじ開けると、そこには言葉を失う光景が広がっていた。
もはや生存者の形など残っていなかった。かつてのハンサムな顔も、高い道徳心も、ピンク色の野望もすべては失われ、ただただひしゃげた金属の隙間に、赤黒い肉がコクピットへと無残にへばりついているのみであった。




