第二話:極彩色の剣士、ショウゴの誘惑
押し込まれるようにして入った店内の空気は、外の牧歌的な風景とは完全に断絶されていた。
暗がりのなかに怪しくゆらめく、どぎついピンクの灯り。安っぽい香水の匂いと、どこからか聞こえてくる軽薄なリズムの音楽。ユウサク一行が困惑しながら案内されたソファに腰を下ろすと、奥のカーテンを割って「彼」が現れた。
看板スターの登場
「お待たせしちゃったかしら? 今日のご新規さんは、なかなかバラエティに富んだ面々ね」
現れたのは、眩いばかりの金髪に、吸い込まれるような青い瞳を持つ超絶ハンサムだった。その立ち振る舞いは優雅でありながら、どこか「オネエ」のような独特な柔らかさを湛えている。
「……っ」
その姿を見た瞬間、それまで筋肉と修行のことしか考えていなかったはずのヴァレリアが、何故か頬を赤らめ、膝の上で指をもじもじとさせ始めた。
「あら、よかったわね。私、これでもこの店で一番人気なのよ。サービスはバッチリだから、安心して身を任せてちょうだい。……あ、初回は指名料無料よ。ウインク、決まったかしら?」
ショウゴと名乗ったその色男は、流れるような動作でユウサクの隣に滑り込むと、細く引き締まった指先でユウサクの膝を優しくなで始めた。
「ひ、ひぃっ!?」
ユウサクが思わず悲鳴を上げて身を硬くする。
「あら、ダメよぉ。おさわりは禁止。私から触るのは……OK。それがここのシステム. ね? うぃんく」
ユウサクは冷や汗を流しながら、助けを求めるようにネネを見たが、彼女は呆れ果てて言葉を失っていた。
ショウゴの「事情」と支離滅裂な独白
情報の混濁に耐えきれなくなったヴァレリアが、上気した顔のまま、もじもじとショウゴに問いかけた。
「……あの、ショウゴさん。これほどの剣の気配を纏い、高い道徳心をお持ちのあなたが……なぜ、このようなお店にいらっしゃるのですか?」
ショウゴは一瞬だけ遠くを見つめ、それから妖艶な笑みを浮かべてユウサクの肩にすり寄った。
「話せば長くなるんだけど、いいかしら? ……私、襲われちゃったのよ。魔王軍にね。ういんく. すりすり」
「ま、魔王軍に……!?」
ヴァレリアが身を乗り出す。
「そう。そこで幹部に……その、掘られちゃったわけ。うけるでしょ? おほほほ!」
ショウゴはひとしきり高笑いするが、一行の反応は冷ややかだった。
――沈黙。
――全く、うけない。
「……だめだわ。全然、面白くない!!!」
ショウゴは突如として真顔になり、自分自身の滑りっぷりに激しい怒りをぶつけた。だが、すぐに何事もなかったかのように話を続ける。
「で、復讐物語なわけ。いろいろあるたびに返り討ちに遭っちゃって……。それで、この建物を作っちゃったの。私が。そうなのよぉ。一緒にベッドインして、魔王様を倒せるほどの人材を募って……ついでに、そこの勇者様もいただいちゃおう作戦よ」
成立しない会話、加速する裏オプション
ショウゴはさらにユウサクに体を密着させ、ネネやマカロニを蔑むような目で見やった。
「あー、だめだめ。最近、私、女はダメなの。不潔じゃない、女って。……私、男の竿が好きなのよねぇ……」
「……は?」
ユウサクの思考が停止する。
「だから、そこの貴方。私と一緒にベッドインしない? 今ならタダで、してあげるわよぉ。ういんく. すりすり」
耳元で囁かれる生々しい勧誘。ユウサクは全身に鳥肌を立て、震える声で呟いた。
「……ひどい。会話が全く成立しない……」
だが、ショウゴの暴走は止まらない。
「ねぇ、このお店の『裏オプション』、体験しちゃう……? あなた、兵士じゃないわよね……?」
ふぅぅぅ、と耳元に熱い吐息を吹きかけられる。ユウサクがゾクゾクとする生理的な不快感に身をよじった瞬間、下半身に異常なまでの「解放感」が走った。
「あ、あれ……?」
いつの間にか、ユウサクのズボンが魔術的な手際で脱がされていた。ショウゴは奪い取ったズボンを旗のように振り回して笑っている。
「いやああああああ!!」
ユウサクは羞恥心と恐怖が限界を突破し、下半身裸のままソファを飛び越えて店外へ脱出した。
勇者の里の牧歌的な昼下がりに、シャツ一枚で、まだ皮を被った状態の「ぞうさん」をゆらゆらと左右に揺らしながら爆走するユウサク。
「キャアアアアア!! 変態よ!!」
「なんて汚らわしいものを見せるの!!」
それを見た女性陣の悲鳴が里に響き渡る。
理想を求めすぎない里であっても、公道での「ぞうさん」露出は法に触れる重罪だった。
「違うんだ! これには深い事情が……!」
ユウサクの弁明も虚しく、騒ぎを聞きつけた里の兵士たちが一斉に彼を取り囲んだ。
「公然わいせつ罪の現行犯だ。大人しくしろ、不届き者め!」
ユウサクは半裸のまま、屈強な兵士たちに担ぎ上げられ、見物人の蔑みの視線を浴びながらどこかへと連れ去られていくのであった。
乙女のフリーズ
しかし、店内に残されたヴァレリアは、ユウサクが社会的に死んでいく様子など一切目に入っていなかった。
彼女はただ、ショウゴが座っていた場所を虚空を見つめるような瞳で見つめ、顔を真っ赤にして固まっていた。その指先は膝の上で、落ち着きなくもじもじ、もじもじと動き続けている。
「……はぁ。ショウゴさん……格好いい。なんて、なんて素敵なの……」
高い道徳心、剣の達人、そしてあの眩いばかりの美貌。
普段、筋肉の鍛錬と物理演算のことしか考えていなかったはずのヴァレリアの脳内は、今やピンク色のネオンと同じ色に染まりきっていた。仲間の危機も、勇者の威厳も、今はただショウゴという劇薬の前に霧散してしまっていたのである。




