第十話:電脳の除霊、あるいは宗派の壁
名工ゴロの工房に、電子的な駆動音と鉄を打つ音が混じり合う。
ゴロはマカロニが持ち込んだ「電脳隠れ里・コードガクレ」の技術を、独自の解釈で大剣の鑑定……いや、「クリーンアップ」に応用しようとしていた。
「いいか、今のこの剣は、剣そのものの定義に『不純物』が混ざっている状態じゃ。物理的に研ぐだけでは、この黒いのは落とせん。ならば、中身の書き換えが必要になる」
ゴロは、剣の柄に刻まれた魔術回路に、無理やり外部端末から命令文を流し込んだ。
それは、聖剣から抽出された論理に基づく、冷徹な削除命令だった。
import time
while True:
# 剣の定義以外のオブジェクトをすべて検索
for entity in sword.get_contents():
if entity.type != "SWORD_DEFINITION":
# 1秒ごとに「削除」を実行するループ
delete(entity)
print("Foreign entity detected and deleted.")
time.sleep(1)
黒い影の「強制終了」
コードが実行された瞬間、大剣が激しく震動し、不気味な警告音のような鳴動を上げた。
一秒ごとのループ。逃げ場を失った「黒い影」が、一秒に一度、存在そのものを消去される苦痛に耐えかね、ついに柄から噴き出した。
「お、おい! 出てきたぞ!!」
ユウサクが叫ぶ。
噴き出した黒い霧は、工房の床を這い、徐々に実体化していく。
それは、かつて最強を求めて散った戦士の末路だったのか。
現れたのは、身長二メートルを超える巨躯の骸骨剣士だった。
ひび割れた重厚な甲冑を纏い、背中にはボロボロののマントを羽織っている。左手には亀裂の入った大盾、右手には黒く煤けた長剣。
骸骨の眼窩には青白い炎が宿り、カタカタと顎を鳴らして、地獄の底から響くような声を発した。
「……誰だ……我が最強への道を……邪魔立てするのは……」
圧倒的なプレッシャーが工房を支配する。その騒ぎで目がさめたヴァレリアは、上体を起こすと、その先をぼんやりと、ただ静かに骸骨剣士をながめていた。
マカロニの「化かし」と宗派の壁
「最強ぉ? 死んで骨になった時点で、あんたの負けなんですぅ!」
その重苦しい空気を切り裂いて、マカロニが自信満々に前へと躍り出た。
彼女は懐から、何やら古めかしい呪文の書かれたお札を数枚取り出す。
「死者よ、お前の居場所はもうここにはありません! 未練を断切って、さっさと自分の世界に帰りなさーい!」
マカロニは華麗な身のこなしで、骸骨剣士の眉間を狙ってお札を投げつけた。
お札は見事に骸骨の額にペタリと張り付く。
「決まったぁ……! んふっ、どうです、これが化かしの里に伝わる除霊術の――」
骸骨剣士は、止まらなかった。
それどころか、額のお札は何の効果も発揮せず、ただの紙切れとして「はらり」と床に落ちた。
「……?」
骸骨剣士は、何が起きたのか分からないといった様子で、足元に落ちたお札を無機質な眼光で見下ろしている。
「あ、あれ……? おかしいですねぇ。普通はこれで『あぎゃあぁあ!』って消えるはずなのにぃ……」
マカロニは震える手で、骸骨剣士の装備……その西洋的な重甲冑を二度見した。
「あーーーーっ!! これ、あっち(異世界)の騎士様じゃないですかぁあ!!」
マカロニは全力で後退しながら、顔面を蒼白にして叫んだ。
「宗派がちがいますぅうーーーーっ!! 東洋の除霊術、全然効かないタイプの人(骨)ですぅうう!!」




