第七話:筋肉の降臨、あるいは屈辱の終焉
後日、ネネはこの出来事を振り返り、どこか遠くを見つめるような瞳で語ることになる。
「……あんな快楽、初めてだったわ。これ以上の刺激をくれる男なんて、もう二度と現れないでしょうね。生物として、本能のままに感じきってしまった。最高の体験だったと言わざるを得ないわね」
混濁の限界
岩陰の繁殖場。
トカゲたちの粘液に塗れ、秘部から糸を引くネネとマカロニは、羞恥と快感の余韻が入り混じる思考の迷路にいた。
「産めぇ!? 何を言ってるんですかぁああ!! 産まない、あたしはタヌキであって卵生じゃないんですぅ!!」
マカロニが涙目で喚き、パニックを爆発させた、その瞬間だった。
――ズ、バァァァァン!!
洞窟の湿った空気を切り裂き、銀色の閃光が走った。
ネネたちを苗床として見定めていたトカゲの一匹が、一切の抵抗も許されず、脳天から股下までを「垂直」に両断され、左右に泣き別れて地面に転がった。
「修行の邪魔をするなと言ったはずだ。不潔な鱗どもめ」
そこに立っていたのは、一糸まとわぬ全裸のヴァレリアだ。
温泉の熱気で火照った鋼の筋肉。濡れた肌に美しく光る銀色の産毛。その手には、自らの背丈ほどもある大剣が握られていた。
圧倒的強者の蹂躙
「ひ、ひえぇぇ!? なんだこの全裸の化け物は!?」
仲間の死体を見たトカゲたちが、蜘蛛の子を散らすように距離を取る。
ヴァレリアは、己の股間の裂け目をさらすことなど微塵も気に留めず、大剣を肩に担ぎ直した。彼女の放つ威圧感は、生物的な本能で動くトカゲたちですら、即座に「自分たちは捕食される側だ」と理解させるに十分なものだった。
「……ま、待ってくれ! 我々はただ、一族の存続のために……! わたしたちは……」
リーダーの土下座に倣い、周囲のトカゲたちも次々と平伏していく。
さっきまでネネとマカロニを苗床として弄んでいた「支配者」たちの姿はどこにもなく、そこにあるのは、全裸の暴力に屈した卑屈な爬虫類たちの群れだった。
ネネとマカロニは、粘液まみれの身体で呆然と、大剣を担いだ銀髪の女騎士の背中を見上げていた。
ゲマの告白と、ヴァレリアの裁定
ヴァレリアは、どかっとその場に胡坐をかいた。
一糸まとわぬ姿のままで、大剣を膝に置き、平伏するトカゲを見据える。
「……言ってみろ。わけを。なぜこんな真似をした」
リーダーは震える声で語り始めた。
「……わたくしはゲマといいます。……わたしたちの一族の女たちが連れ去られて、もう何年も経ちます。そして、子がいないのです。跡継ぎがいないまま、わたしたちの世代でこの村は終わってしまう……。だから、お願いします! 卵を産んでください!! 誰に頼んでも、お金をいくら積んでも、誰も産んでくれないんです! だから、強引に……申し訳ありませんでした!!」
ゲマは声を上げて泣いた。一族の絶滅を止めるため、なりふり構わず、あらゆる手段を尽くした末の凶行.
だが、その悲劇的な告白を最後まで聞いたヴァレリアの手が、すかさず動いた。
――パァン!
軽く、しかし芯に響くようなビンタがゲマの頬を打つ。
「頼む生物を間違えている」
ヴァレリアの冷徹な一言。
ゲマは衝撃で吹き飛び、洞窟の地面をコロコロと虚しく転がっていった。
転がりながら、ゲマは何を思うのか。
(……やはり、哺乳類に頼んだのが間違いだったのか? それとも、頼み方のマニュアルに不備があったのか……?)
視界が回り続ける中、ゲマの思考は解決の出口を見つけられず、ただ物理的な回転に身を任せるしかなかった。
食堂での約束
「では、昼にそこの角の食堂で細かい話を聞こう。力にならないこともないが、まずはお前たちが『無害』だと判定してからだ」
ヴァレリアはそう宣言すると、ちらりと背後の二人に目を向けた。
そこには、トカゲたちの粘液に濡れたまま、いまだに恍惚とした表情を浮かべてぼーっとしているネネとマカロニの姿があった。
「……そうか」
彼女たちの様子に何かを察したのか、ヴァレリアは短く呟いた。
「では、解散!」
言い捨てると同時に、ヴァレリアは地面に転がっていたゲマの腕をガシッと掴み上げた。
「お前は私の話を聞け。……逃がさんぞ」
他のトカゲたちが逃げ去る中、リーダーのゲマだけは、全裸の女戦士の剛腕に捕らえられたまま、その場に取り残されるのだった。




