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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第10章 欲望の守護天使

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第五話:湯煙の蹂躙、トカゲの狂宴

湯気の中に潜んでいた「何か」は、もはや気配を隠そうともしなかった。


 ――わさ、わさ。


「ひゃうっ!? な、なんなんですかぁ!?」


 浴槽の端でぷかぷかと浮いていたマカロニが、突如として裏返った悲鳴を上げた。白濁した湯の中から、ヌルリと湿った複数の手が伸び、彼女の小ぶりな胸を容赦なくもみしだいたのだ。


 湯の中から姿を現したのは、不気味な鱗に覆われた爬虫類系の人型種――トカゲ男だった。その卑屈な顔には下卑た笑みが浮かび、二股に分かれた舌をチロチロと出し入れしながら、恐怖に凍りつくマカロニの首筋を執拗になめ上げる。


「いやあああああ!!」


 マカロニの絶叫と同時だった。


 ――ドォォォォン!!


 凄まじい破壊音と共に、湯船が大きく揺れた。

 マカロニの背後にいた「トカゲ親父」の顔面に、凄まじい衝撃が走る。


 猛然と湯を割って立ち上がったヴァレリアは、自身の股間の裂け目をさらすことなど微塵も気に留めず、ただ獲物を屠るためだけにその豪脚を高く跳ね上げた。一糸まとわぬ全裸で放たれた正確無比な前蹴りが、トカゲ親父の顔面に深くめり込む。


「この、不潔なトカゲが……。死にたいようだな」


 蹴り抜いた姿勢のまま立ち上がる彼女の肉体は、修行によって鍛え上げられた鋼の筋肉に覆われていた。濡れた肌に生える銀色の産毛が、湯気に反射して神々しく、かつ猛々しく輝いている。


滑る足場、奪われる仲間


 だが、事態はそれだけでは終わらなかった。洗い場の奥や天井、そして湯の中から、ゾロゾロとさらに多くのトカゲたちが這い出してきたのだ。


「ヴァレリア、こっちにも来てるわ!」

 ネネが魔力を練ろうとするが、トカゲたちが放つ粘液と温泉の成分が混ざり合い、浴場全体が異常なほど「滑る」フィールドへと変貌していた。


 トカゲたちは、ヌルヌルとした長い舌を鞭のように伸ばし、標的をヴァレリアに定めた。


「おのれ……! ぐっ、足場が……!?」


 ヴァレリアが迎撃しようとするが、床がツルツルと滑り、自慢の剛力を踏ん張ることができない。トカゲたちの舌が彼女の四肢に絡みつき、その摩擦を奪っていく。

 その隙に、別のトカゲたちがネネとマカロニに群がった。


「ちょっと、放しなさいよ! 火球ファイアボール――きゃあ!?」

「ユウサク様ぁ! 連れ去られるぅ! 人権侵害ですぅぅ!!」


 抵抗も虚しく、二人はトカゲたちの物量に押し切られ、浴場の裏口へと連れ去られていった。


ヴァレリアの暴挙


 残されたのは、舌に絡み取られたヴァレリア一人。

 一匹の巨大なトカゲが、彼女を捕食しようと大きく口を開け、その頭部を丸呑みにせんと迫る。


「……持ち手が滑って、力が上手く伝わらんな。ならば」


 ヴァレリアは自分を喰おうとするトカゲの口の中に、迷わず両腕を突っ込んだ。

 そのまま、彼女はトカゲの上顎と下顎を、力任せにグイ――と押し広げる。


「どうする。このまま口を引き裂かれたいか、それとも大人しく吐き出すか、選ばせてやろう」


「ひ、ひいぃぃ!?」

 トカゲが恐怖で目を剥き、逃げようともがくが、ヴァレリアの握力は逃がさない。


 ――ベキ、メキッ!!


「あ……。勢い余って割いてしまったな」


 ヴァレリアの加減を知らない筋力によって、トカゲの亡骸が力なく地面に転がった。

 彼女はふぅと溜息をつくと、飛び散ったトカゲの体液を丁寧に洗い流し、再び何事もなかったかのように湯船にどっぷりと肩まで浸かった。


「……ふぅ。全く、変な邪魔が入ったせいで、百数える修行の邪魔を……」


 温かい湯が、戦いの熱を冷ましていく。

 ……十秒ほど経っただろうか。ヴァレリアは、ガバッと湯の中から顔を上げた。


「……はぁ!? ネネとマカロニが大変じゃないか!!」


 筋肉の限界を追求するあまり、脳への酸素供給が遅れたのか。ヴァレリアの遅すぎる叫びが、無人の女湯に虚しく響き渡った。

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