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私が言葉を続けられないでいると僕は大丈夫だよと小野は言った。それも笑顔で。
「僕の身を案じる人も、僕が会いたいと思う人も元の世界にはいないからねー」
何となく察しがついてしまう言い方だ。ますます何も言えなくなってしまう。聞くべきか、話を変えるべきか逡巡していると小野は自分の身の上を語り出した。
「別に気にしなくていいから聞いてくれるかな?こちらでも震災があったでしょう?」
「この地方のって事なら十三年前の三月に」
「時期はズレるけど僕の世界でもあってね。僕の世界で言うともう十八年前か。秋の終わりで寒い日だったな。震災が発生してすぐに例年よりも早い初雪まで降ってさ」
こちらでは春に差し掛かっていたがやはり寒い日で雪が散らついていたなと思い出す。
「僕もこの辺に住んでたんだけどずっと海に近くて、親族もそうだった。高卒で警察学校出たてのその頃は交番勤めだった。僕はとにかく必死で、海水に浸かって避難誘導したりしながら家族の事が心配だったな」
当時の体験は沢山耳にしてきたが慣れる事はない。それでも話してくれる人がいるなら私はいつも黙って耳を傾ける。
「職業柄、遺体にはすぐ対面出来たのは良かったのかな」
辛くない訳ないのにこちらを気遣って笑って見せる。
「友人の多くも亡くしたんだけど、一番の親友の一人も逝っちゃって。子供の頃から高校までずっといつも三人で連んでたのに。秋だったから、そいつ友達と芋煮行っててさ。河原とか海に近いキャンプ場とかで芋煮やってた人がそれは多くて。そういった人の被害も多かったんだ」
津波で河口から川が上流へ遡るという現象も起きた程だ。川の堤防から水が溢れ、それゆえに海から遠い内陸の方での浸水被害も発生した。こちらでは春先の震災だったから考えもしなかったが芋煮シーズンだったらと思うとその被害はまた違っただろう。
「親族を失うのとまた違う感覚だったな、同い年の若い奴らの死ってのはさ。もう呆然としたよね。天涯孤独になって、友人の多くも亡くして当時はどうやって生きてたのかあんまり覚えてないかも。それでも時間ってのは進み続けて復興もしていって。それから僕は結婚して」
多くを失って、それでも新たな家族を得られたんだ。誰も居ないなんて言ったけど家族が居るんじゃないかと思ってすぐ、小野の次の言葉はなんともショックなものだった。
「嫁さんも少し前に病気で逝っちゃったけどね」
子供もいなし、だからもう帰れなくても大丈夫なんだなんて悲しい事を小野は笑って言う。
「僕ね、珈琲が大好きなんだけど」
掛ける言葉が見つからないでいると小野は突然話の流れを大きく変えた。




