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「珈琲屋」のキッチンから届くミートソースの良い香りに鼻をくすぐられながら小野の語りに耳を傾ける。
「飛ばされるのは規則性もなくいつも突然で、急に目の前の景色が変わる感じ。初めての時は本当にびっくりしたなぁ。その地球に違和感のないようにって配慮か分からないけど服も変わってるんだよ信じられる?」
私はただ頭を横に振る。これまでに会った転移者達の服は彼らの世界の物そのままだったし。服をそこに合わせて用意出来るなら私の元に来た転移者達にもぜひそうして欲しかった。毎回のように近所の服屋に走ったりして大変だったのに。
「ここではこのスーツだったりカジュアルな感じだったりだけど、今までには戦隊ヒーローが変身した時のピタッぴたな服みたいな世界もあったりして、あれはちょっと恥ずかしかったね」
戦隊ヒーローのスーツは確かに自分が着ると思うと恥ずかしいかも。有名な猫型ロボット漫画でたまに触れられる未来の世界も一様にそんな格好が描かれるがそういう世界線も存在するという事か。
「もちろん持ち物も自分の物は何も持ってない。だから警察手帳も今は無いから刑事って証明は出来ないんだけど。いつも、ああまた飛ばされたって思ったら自分の格好を確認してコイツをポケットなんかから探し出すんだ」
そう言って上着の内ポケットから見覚えのあるガラケーを取り出した。いつも会計に使っているそれは太陽の様な派手な模様が施されている。てっきりステッカーが貼られていると思ったがプリントされているというかガラケーそのものの柄のようだ。
「これが僕達の必須アイテム。古い通信端末みたいでしょ?使い方はほぼそれと一緒なんだけど、基本は受信専用って感じ。着信すると同時に目の前に転移者が現れる。現れるって言っても着信に気を向けた次の瞬間にはいるって感じ」
「着信で指示が出されるんですか?」
言っていてそうだとしたら一体誰に?という疑問も同時に浮かんだが話が混乱しそうなためとりあえずそれは飲み込んだ。
「転移者の居場所が分かりずらい時にはそうだね。どこそこに向かって、どこそこに連れて行けって。一応耳に端末は当てるけど、耳っていうより頭に直接言葉が浮かぶんだよ。千歳ちゃんも経験した事あるでしょ?」
頭に響く言葉と聞いてユエや朔のような神と呼ばれる存在との意思の疎通方法が思い出される。だいぶ慣れたがとても不思議な感覚のあれの事だと思って私は頷いた。
「端末を耳に当てるから聞いてるって感覚なんだけど多分いつもダイレクトに脳に指示を受けてるんだと思う。着信に出るまでもなく、コイツがそうだなって気づく事がほとんどだからね。それでこっちに行けば良いんだなって」
転移者に気付けるって事はシルヴィア達にも気づけたと言う事か。彼らは雄真を手伝って店に立っていた事もあるから常連なら見かけた事もあるだろうし。だから最初から転移者と私達が接触してると知っていたのかもしれない。でもこれまで関与してこなかったのは、彼らに対して何の指示も与えられなかったからだろうか。
「転移者はすんなり後について来てくれるんですか?」
私はとりあえず話の流れを乱さないような質問をする。
「ほとんどの場合はね。大抵訳が分からないって顔してるから、帰してあげるからついて来てって言えば『あ、はい』って。ただ言葉が通じないと厄介だよね。人間っぽいけどなんか違うようなのとかもいるし。身振り手振りでも上手くいかなかったり、不足の事態になったりしたらこの端末で指示を仰いだり出来るんだ」
転移者の中には言葉が通じない者もいるのか。これまで私の元に来た転移者達は幸いにも言葉が通じたが運が良かったのかもしれない。
「指示を仰ぐって言っても端末を耳に当てると何を言われるでもなく同業の協力者が現れて何とかなるって感じ」
「時空のおっさんに同僚がいるの!?」
驚き尋ねる私に「おっさんはやめて」と小野は顔を覆って泣くような仕草をする。そうされると心苦しさは覚えるがその呼び方しか知らないのだから仕方がない。すみませんと言いつつ私が呼び方に困ってるとまあ良いよと気を取り直して小野は話しを再開した。




