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晴翔君達が見えなくなるとアナウンスも無くドアが閉まる。そして油を差し忘れたかのように不快な音を立てながら車輪が動きだし車体が移動を始めた。私達は元の席に戻ると再び不思議な窓に目を向けて電車に揺られる。
「晴翔君も同僚さんもこれで帰れるのよね、良かった」
「小野さんももう行っちまうのかと思いました」
「僕は次で降りるんだよ」
「小野さんの世界の駅に着くって事?」
次で降りるって事はそこは小野の世界と言う事かと思ったが、私の問いに小野は首を横に振った。
「いや、そこも異世界駅だよ。僕も言ってみれば今は迷い転移者だからね。別の同僚が待っててそこから転移スポットに連れて行ってもらう事になるんじゃないかな」
「そうなんですね」
先程から外は明るくずっと海岸線を走っているようだった。晴翔君が降りた駅までの夕闇のような鬱屈とした風景とは正反対で貼り付けたような異様な明るさがまた奇妙な感じがした。
「この先僕が降りたら君達の世界の本来の駅に着くはずだ」
小野が降りた後の事を話し始める。それまでのいつもの雰囲気と変わって真剣な表情はどこか緊張して見えた。小野と別れたら後は自然と帰るだけなのに、しっかりと聞かせておきたいって話し方はどうしたのだろうか。
「ただ乗ってれば着くんですよね?」
「うん。でも今は普通の電車じゃないんだ。絶対に油断はしないで。しっかり自分を持って、知ってる駅以外で絶対降りちゃダメだよ」
「大丈夫ですよ!それに、もし降りちゃっても小野さん達が帰してくれるんですよね?」
異世界駅へ降りてしまった瞬間に迷い転移者になる。その後は小野の同業者が現れて帰すと前に言っていた。それを聞いていたからあまり怖がらずこの状況を楽しんでいられるのかもしれない。
「そうだけど、必ず帰れる保証は無いんだよ。僕みたいに役割を放棄する奴が担当かもしれないし、晴翔君のように何者かに別の世界に連れ込まれる可能性もある。晴翔君は運良く見つけてあげられたけど、それは奇跡みたいなものなんだよ!」
危機感の薄い私に少し口調を厳しく小野は言った。以前も同じように注意された事があったがその時は自分を過信して適当に流してしまい、その後その愚かさを身に染みて味わう事になった。私は今度は小野が真剣に注意してくれるのだから、しっかりと受け止める。
「十分に気をつけます。小野さんの注意を絶対に忘れません」
私の様子に小野はいつもの調子に戻ると笑顔で「よし」と言ってくれた。
程なくして電車が停車する。またトンネルに突入するんじゃ無いかと思っていたが晴れ渡る海岸線上に石畳が敷かれただけのホームの前に今度は音もなく電車は動きを止めた。スッと小野が立ち上がる。遂に小野との別れの時が来てしまった。




