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小野の説得に徐々に鈴木は落ち着いていった。そして声もなく頷き晴翔君の帰還を遂に了承してくれた。そこからは鈴木と川村の涙が落ち着くまで小野や同僚さんの役割や体質の違い、異なる世界線の事などを説明してやった。
少しずつ鈴木達からも話をしてくれるようになって、これまでどうしていたのかなどを知る事が出来た。鈴木は私と同じ沿線を通勤に使っていたが、晴翔君を連れて来てからは川村の元に居たから地下鉄には乗らなくなっていたらしい。今度こそ側に居ようと、そして家族の関係の修復を図ろうと仕事も思い切って辞めたそうだ。晴翔君を鈴木が見ていられるため川村は職場に復帰し、晩のおかずにパート先の惣菜の残りを良く持ち帰っていたんだとか。亡くなった晴翔君はピーマンが嫌いで食べられなかったそうだが、目の前の晴翔君はピーマンが好物らしく美味しそうに食べるのを見ては違うんだと思ったと。それでも笑う晴翔君を見るとこのままでいたいとも思ってしまったと。
「すみませんでした。その、俺、とんでも無い事を、、皆さんにも失礼な態度で」
「私も。このままじゃダメだって頭では分かっていたのに。引き返せなくなってて、本当にすみませんでした」
二人は揃って頭を下げる。一時はどうなるかと思ったが晴翔君の帰還を受け入れる気になってくれて良かった。
「それじゃあ、、」
「でも、一晩だけ!あと一晩だけ待ってもらえませんか?」
「この子と約束したんです私達。プラネタリウムで見た星を一緒に探そうって。この子とした約束を果たして、ちゃんとお別れがしたいんです」
二人は「お願いします」と先ほど以上に深く頭を下げて見せる。何処かの駅に閉じ込められている小野の同僚さんを思うとすぐにでも連れて行ってやるべきなんだろうが。
「どうするんですか?小野さん」
「んー、逃げたりされても困るしなあ」
「逃げません!絶対。そうだ!俺の身分証預けますから!」
「いやいや、それは流石にまずいでしょう」
「はあ、仕方ないなあ。雄真君、連絡先の交換だけお願い出来る?」
「うっす」
鈴木と川村の住所をメモし、雄真と鈴木が連絡先の交換をする。その場で連絡が付くかもしっかりと確認した。
「明日の地下鉄の始発に必ず間に合うようにお願いします。それ以上は駅に閉じ込められてる奴を待たせるわけにはいかない。もし約束を守ってもらえなかったら、、」
「分かってます!必ず、始発に間に合うように行きます!」
「絶対ですよ」
駐車場に着いて一度解散となる時に、念のため車のナンバーも控えさせてもらった。再度明日の再会を約束してそれぞれの車に乗り込むと私はやっと緊張を解く事が出来た。
「もうすっかり夕方だねー」
「そうっすね。ワイナリー行けるけどゆっくり出来ないだろうな」
「仕方ないわね。でも何処かでお酒は買って帰りましょうよ」
「だな。小野さんはウィスキー派ですよね?」
「んー?そうだけど、明日は早いし今夜はいいよ」
明日は始発に乗り込む事になっている。あれだけ鈴木達に念を押しておいてこちらが寝坊で遅刻なんてするわけにはいかない。でも、私達も三人で過ごす最後の夜なのだ。私と雄真は後部座席の小野の方へ振り向く。
「付き合ってもらいますからね!小野さん」
「送別会に酒無しとか許さないっすよ」
キョトンとしてすぐに小野は破顔した。
「まったく、これだから呑兵衛は」
帰り道、以前雄真がシルヴィア達と訪れた施設へと立ち寄った。地元の土産品や農産物を購入出来る所で勿論地酒も数多く揃っている。新鮮な食材と酒を仕入れて私達は「珈琲屋」への帰路に着いた。




