7-4
席を立って行ってしまいそうな鈴木を私は呼び止めた。
「亡くなった晴翔君は、どうなるんですか?」
「は?だから晴翔はこうして生きて、、」
「最後に手を合わせてあげたのはいつですか!?」
「そんなの、、」
鈴木は答えに詰まる。私は亡くなった晴翔君を思うと可哀想で仕方なかった。
「亡くなった晴翔君は、パパとママが自分のようなナニかしか見てなかったらどう思うと思いますか!?代わりがいればそれで良いんですか!?あなた達の大事な晴翔君をあなた達が無いものにしているって気づかないんですか!?」
私の言葉に鈴木ではなく川村の方が愕然とした。
「晴翔、、。どうしよう、私、、。あの子の供養、あれから何もしてあげてない、、」
「おい、夏菜子!しっかりしろよ!晴翔はここに居るんだ」
「違う、違うよ!ねえ、大ちゃん、私本当は気付いてた。この子は似てるけど違うんだって。でも認めるのが辛くて、、。でもこのままじゃ、晴翔は一人ぼっちになっちゃう。私達が目を背けてちゃ、あの子はどうなっちゃうの!?」
一瞬、鈴木は怯んだようだったが怒りに満ちた顔で私を睨み返してきた。
「お前が、お前らが余計な事を言うから!お前らが現れなきゃ、ずっと幸せな家族でいられたんだ!」
「本当に?それが幸せですか?」
「うるさい!大事な者を失くした事がないから分からないんだ!目の前に失ったものが現れたら、触れる事が出来たら、手を伸ばさずになんていられない!そんな気持ちお前らになんか、、」
「分かるよ!」
その時小野が声を上げた。強い眼差しを向けられて鈴木は一瞬たじろぐが何とか言い返す。
「何が分かるって言うんだ!」
「あんたの、その身代わりに手を伸ばすって気持ちがだよ!僕も震災で家族も親友の一人も失った。少し前に妻も殺された」
小野の話は私も雄真も衝撃だった。小野の奥さんは確か病死って前に言ってたと思ったのだが。
「ごめんね千歳ちゃん、雄真君。実は前は嘘ついちゃったんだよね。聞かされる方はしんどいだろうと思って。いや、違う。僕が辛かったんだ、守ってやれなかったから」
突然の告白にその場の皆が衝撃を受け、鈴木も少し落ち着き椅子に腰を下ろした。そんな鈴木をまっすぐに見据え小野は語りかける。
「だからね、よく分かりますよ鈴木さんの気持ち。自分が側にいたなら守ってやれたのにって自分を何度も責めた。何で大事な者も守れないで自分が生きてるんだって。そんな時目の前に失った者が居たなら僕だって手を伸ばしてしまう。今度こそ守るって。でもさ、それじゃダメなんですよ。だって、違うんだから」
鈴木は晴翔君を支えている方とは反対の空いてる手で目元を覆い唇を噛み締めてる。晴翔君の側にいてあげられなかった事を、守れなかった事を、きっと悔いて自分を責め続けていたんだ。
「僕も、もうずっと親友や妻の墓前に立っていません。彼らの居ない世界に何の未練もないと思っていたんです。でもそうじゃないって教えられました」
小野は一度私を見て再び鈴木に視線を戻す。
「語りかければちゃんと声は届くって。側に来て貰えれば嬉しいはずだって。居ると思えば居るんだそうです。彼らを無いものにしてるのは僕自身だって気付けました」
「晴翔、、晴翔、、」
「なーに?」
「違うんだ、ごめんな、ごめん、、」
「僕が帰れなくなったのは自業自得なんですけど、その子を連れ帰れば僕も元の世界に帰れるんです」
小野は鈴木と川村に向かって頭を下げた。
「駅に閉じ込められてる奴を自分の世界に、家族の元に帰してやって下さい。晴翔君を本当の世界に、家族の元に帰してあげて下さい。僕に、親友や妻の墓参りをもう一度させて下さい!」
そこまで言うと小野は顔を上げる。
「あなた達の晴翔君に、いっぱい話掛けてあげて下さい」




