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湯気の向こうから現れたのは小野と彼に手を引かれた男の子。背の高さから言って小学生くらいに見える。
「ここどこ?」
不安そうに少年はその場にいる誰にともなく呟いた。小野は目線の高さを合わせるように屈んで優しい声で答える。
「君がいるべきじゃない世界」
「どう言う事?僕友達とかくれんぼしてて、いつものとっておきの場所に隠れたのに、、こんな所知らないよ!」
小野の声は優しかったが何処か突き放すような言葉に少年は不安そうになる。状況を整理しようとしているのか、自分の行動を振り返るが混乱して興奮しているようだった。
「大丈夫、すぐに知ってる場所に帰してあげるから。大人しく一緒に来れる?」
「知らない人について行っちゃ行けないって言われてるし、、」
この子はとてもしっかり者のようだ。訳の分からない状況では普通優しそうな大人に簡単に着いて行ってしまいそうなものだが、与えられた教えを守ろうとしている。でもこうなると定められた場所まで連れて行くのは難しいのじゃないか。小野は手こずる事もあると言っていたが何も言葉が通じない相手に限った話ではないという訳か。私と雄真は手早く足湯から上がり身支度を整えながら小野と少年の様子を観察した。
「偉いねえ。ちゃんと教わった事が守れるなんて、凄いなあ。教えてくれたのはママ?」
褒められて嬉しいのか少年ははにかみつつ頷いた。
「そっかそっかあ。ママの事好き?」
これにもちゃんと少年は頷く。素直で良い子だ。
「一緒に来てくれないとママにもう二度と会えないよ」
小野の言葉に少年の顔には不安を通り越して恐怖の色が広がる。小野の言ってる事は事実なのだろうが少し少年が可哀想だった。
「一緒に来てくれないと、ママの元へ帰してあげられないんだ」
「でも、、」
少年も異常事態なのは分かっているのだろうが自分が居てはいけない世界だとか、もう親に会えないとか言われては怖いだけじゃないのか。怯えて小野の手を離れたがっているように見える。
「おい」
すると雄真が突然少年に声をかける。ただでさえ目つきが悪いのになんかいつも以上に不機嫌そうなのは気のせいだろうか。少年はさらに怯えるように身を縮こまらせている。
「ゼロになる前に一緒に行くって言え。さもないと、、」
「な、何、、?」
少年は一体何が起こるのか知りたがっているのに構わず雄真はカウントダウンを始める。
「十、九、八、、」
「え!?ねえ、何!?ねえってば!どうなっちゃうの!?ねえ!」
焦る様子の少年を気にもせず無常にも数字は減って行く。小野もしっかり少年の手を掴んで離さないしもう少年はパニック寸前で流石に見ていられず私は止めに入ろうとしたのだが、、。
「四、三、、」
「ちょっと雄真!」
「二、、」
「分かった!行くよ!行くから!もう分かったからあ」
残りのカウントが尽そうな所で少年は半べそで同行を了承した。それを見て「よし」なんて偉そうに雄真は言う。
「なになに雄真君!今の魔法!?凄ーい」
「姉ちゃんが良く甥っ子にやってるんすよ。言っても風呂入んない時とか寝ない時とか。ゼロになるのが何でか子供って怖いみたいなんすよね」
「へえ!良い事聞いた!これから子供にはそうしよう!」
小野が手こずるのっていつも子供なんだろうなと思う。口調は優しいくせに、それで笑って「帰してあげられない」とか、怖がらせるだけだというのが分かってない。雄真はカウントダウンという必殺技を繰り出したが、彼を知らない子がされたら恐怖でしかなかったと思う。すっかり泣き顔になってる少年が気の毒で、小野のお手並みなんか拝見してないでもっと早く止めてあげればよかったと少し後悔する。
「もう!二人ともただ怖がらせてるだけじゃない!」
私は少年の前に屈んで頭を撫でてあげた。
「ごめんね?もう怖くないよ。ママの所に帰ろうね」
すると少年は掴まれてない方の腕で涙を拭くと頷き、力の緩んだ小野の手を咄嗟に振り払って私の腕に縋ってきた。
「やっぱりこう言うのって女性の方が適任だね」
「小野さんは子供には大人と同じ言い方じゃダメだって学んだ方がいいですよ」
「優しく言ったよね?」
「かえって怖かったですよ」
「えー」と言ってる小野は本当に分かってない様子だ。きっと今後も子供には手こずるんだろうな。




