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温泉から上がり外に出るとそこには雄真だけが待っていた。
「小野さんは?」
「あー、なんか転移者の情報を受信したとかでどっか行っちまった。庭園内で待っててくれってさ」
「一人で大丈夫なのかしら?」
「帰還させる場所もそう遠くないらしいから大丈夫そうだったぞ。せっかくだし俺らは散策してようぜ」
小野がどこまで行ったのか分からないが少しだけ気になる。
「小野さんとは別の、世界線の違う転移者が気になるんだろ、千歳は」
「興味がないと言ったら嘘になるわね。でも一人で行っちゃったなら仕方ないわね」
そう言って庭園の散策ルートを私は歩き出した。つい昨晩までこの庭園は「秋保ナイトミュージアム」というライトアップイベントが開催されていた。色付いた木々をカラフルに灯し出し、現代的アート空間となるそのイベントは毎年テーマが異なり多くの人の目と五感を楽しませてくれる。
とても広い庭園は進むと区画ごとにその表情を大きく変える。石組みの景色だったり、竹林や梅林の広がる景色、美しい池やそれに映り込む空模様など、どの季節に来ても毎度新しい発見がある。敷地内には珍しく水田もあり、今は稲刈りを済ませ稲藁が乾燥のために干されていた。春先には水が張られた様子を、夏には緑の水田を、少し前であったなら頭を垂れる稲穂を見る事が出来ただろう。水琴窟の区画を過ぎた時には、誰かが水を差したのか澄んだ音色が時折り聞こえ私たちの行く手を清めてくれていた。
「良い音ね」
「ユエも気に入ってたな」
「涌谷のお茶屋さんにもあったんだったわね」
ユエの纏う気は金そのものであると知った私達はユエの力の回復を加速させるため金の気が集まりそうな所に狙いを定めて向かうようになった。涌谷は日本で初めて金が取られるようになった地で、雄真がユエを連れて行った事がある。そこでも水琴窟の音色を楽しんだと言っていたが思いがけずここでもその音色を聞くことが出来たのは嬉しかった。
「あった!足湯、入ろうぜ」
かなり庭園を進んだ頃、前方には湯気の立ち込める東屋が現れる。広い庭園内には二ヶ所、足湯場があって散策中に楽しめるようになっている。
「温泉に浸かってきたばかりじゃない」
「良いじゃないか別に。場所は違うけどシルヴィアとユエとも浸かったんだ。今日はそもそもあいつらとの追体験が目的だったんだからさ」
そう言われれば断る理由はない。足湯もこの時期心地良いのは間違いないし私は大人しく雄真の隣に腰を下ろして湯に足を浸ける。
「はあ。足だけでなんでこんなに気持ちが良いのかしら」
「本当だよな。日本に生まれて良かったって思うよ」
「シルヴィア達と入った足湯は温泉ではなかったのよね?」
「ああ、お茶で割られた湯だったな。香りが良かった」
足湯からは常にもくもくと湯気が立ち上り湯の温度と外気温の差を見せつけている。足を動かせば揺れる湯が立てる音は心地良い。足を出したり沈めたりしながら湯の音を楽しんでいると周りがとても静かな事に気づく。イベントも終わった平日、人気はないのだから当然か。
「あのさ、、」
不意に届く雄真の声は少し緊張しているようで、私の心臓がやたらとうるさくなる。
「その、こっち見てくんない?」
湯で遊ぶ自分の足に落としていた視線を、私はゆっくりと上げた。温泉上がりで火照った顔ももう落ち着いていたはずなのに多分血行が良くなったせいで赤くなってると思うから少し恥ずかしい。
視線を上げた先、湯気に霞む人影に私は目を見開いた。こちらを見る雄真の背後に突如出現したそれに彼はまだ気づいていない。その時不思議な音が耳に届いた。確か小野の持っていたあのガラケーが以前出した音だ。その奇妙な音に雄真も後ろを振り向いた。
湯気の向こうにもう一つ現れた人影が先に居た影に手を伸ばす。そしてその手を引いて近づいてくるとはっきりとその姿が確認出来た。
「雄真君、ごめんねぇ」
「いやいやいや!…てか、小野さんその子は?」
なぜか雄真に謝る小野は子供の手を引いていた。




