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店に着くとバックヤードに荷物を下ろし照明やBGMを整える。それまで受付け付近で小野は大人しく店内を見渡していた。
「素敵なお店だね」
「ありがとうございます」
お客様がリラックス出来て自分も心地良いと思える装飾やインテリアにはこだわった。それだけに小野の感想は嬉しい。
「じゃあ小野さんこっちに座って下さい」
「はーい」
小野のコート類を預かると席へと案内して早速ケープをセットする。
「カットだけで良いんですよね?ご希望はありますか?」
「お任せでー」
「今更ですけど、髪型変わっちゃって大丈夫ですか?帰還した時騒ぎになりません?」
「仕事終わりの帰宅中だったから大丈夫。帰りに散髪行ったって職場には言えるからねー。ちょうど周りにも人は居なかったから平気。僕的にはもう二年も同じ髪型だからさー、ガラッと変わりたい気分かも」
そう言われれば腕が鳴るというもの。刑事は派手すぎなければ髪型も自由らしいからイメージを大きく変えてあげようと張り切った。小野の今の髪型も悪くはないがやや重い。骨格からしてもっと軽いのも似合うと思っていたのだ。雑誌などでイメージや好みを確認し小野の世界のトレンドの傾向も把握しつつカットを進めた。
「どうですか?結構バッサリいかせてもらいました」
ワックスでセットして仕上げ、後方から合わせ鏡で全体を確認させると小野は顔を輝かせて喜んでくれた。
「おお!ここまで短いのは久々だけどすごく良いよ!流石だね、ありがとう!」
「いえいえ、喜んで貰えたなら良かったです。うん、短いの似合いますね!」
そうかなぁとまんざらでもなさそうに小野は照れていた。
「実は僕の奥さんも美容師だったんだ」
「そうなんですか?」
「うん。生前は良く切って貰ってたんだけど、彼女も僕の髪は短く整えることが多かったなあ。こうやって短くするのはその頃以来だ」
「そうなんですね。きっと似合うだろうなって思って切ったんですけど、一番小野さんに似合う髪型を知ってる方と意見が一致してて良かったです」
「本当、ガラッと変わったのにしっくりきてるんだから不思議だよ。本当にありがとう」
何気にお任せでと言われると緊張するものだが、それだけに心から満足して貰えた時の達成感はひとしおだ。私も誇らしい気持ちで一杯になりながら小野からケープを外す。
「お疲れ様でした」
「お疲れは千歳ちゃんでしょ。しかも営業前にこんなにしっかり仕事させちゃって、なんか申し訳なかったな」
「良いんですよ!喜んで貰えて私も嬉しいんですから」
「そう?でもやっぱりちゃんと支払いをさせて貰えないかな?」
「それは本当に結構です!」
出所不明のお金は受け取れない。もしかしたら時空のおっさん業に対する賃金から払われているのかもなんて考えもしたが、それでも確かなものではないから受け取る訳にはいかなかった。
小野も気が済まないと言う様子ではあったが私が頑なに断るので諦めてくれた。それから帰りの時間を確認すると今日も小野は寒空の広がる街中へと消えていった。




