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最後の来店予約客を見送り店内の清掃やレジ締めを済ませると、小野と約束した時間が近づいていた。私はしっかりと店の施錠を済ませ建物の表へ出ると既に小野が待ち構えていた。日も沈み出勤時に比べて気温も下がっていたからマフラーがあっても寒かろうと案じていたが小野は全然平気そうだった。
「お待たせしました。コート、買ったんですか?」
「お疲れ様ー。ううん、これ雄真君の」
「雄真の?」
「昼過ぎ珈琲飲みに行ったら用意してくれてたんだ。千歳ちゃんと同じで僕が寒そうだったからって。本当に二人共優しいんだから。お陰で凍えずにすみました、ありがとう」
雄真は目つきは悪いが面倒見が良く基本優しい。彼の性格なら上着もなく外に出る小野を放っておけなかったのは当たり前か。黒いコートにグレーのマフラーはなかなか良く纏まっていた。
帰りも小野はスマートに荷物持ちを引き受けてくれ私は身軽に「珈琲屋」へと帰り着けた。
「雄真君ただいまー」
「うっす、千歳もお疲れ」
「こんばんは」
「うーん良い匂いだね!」
「今日は寒かったんでビーフシチューにしたっす」
雄真飯といえばミートソースだが毎日それでは飽きてしまうだろうと、こうして食事を共にする時は献立にはバリエーションをつけてくれる。本当に見た目によらずまめな奴だ。
「ワインが飲みたくなっちゃうわね」
「千歳は平日は飲まないもんな。小野さんはいけるっすか?酒」
「うん。結構好きー」
「じゃあ俺らはワインで、千歳は水な」
「ちょっと!ズルいじゃない!一杯だけ、付き合ってあげるわよ」
仕方ねーな、と雄真は意地悪に笑うがカウンターにしっかりグラスが三つ用意されてるのは見えている。
「もうお腹空いたよ、早く準備しよ」
小野の号令で私達は食卓の準備に取り掛かった。煮込まれたビーフシチューに合わせてバゲットとサラダにはエビフライも添えられ、まるで洋食屋さんだ。熱々のシチューは外から帰った体を温めてくれワインとも良く合った。一杯だけと自分に掛けた制約を破ってしまいたくなる。
「それで?帰りも社畜さんには会わなかったのか?」
「うん。彼と会うのは時間外の来店に対応したりして遅くなったり、世間一般に休みの夕方だったりだから。最近はお客さんの引きも早いから残業しないし」
「気にしてなかった時って良く見かけてた気がするけど、認識したり会おうとすると遭遇しなくなったりするよな」
「あるあるだよねー」
「そういうものなのかしらね。そもそも会社員と出勤時間も微妙に私ってズレてるし。朝彼を見かけたのも店外出張とかで早出した時ぐらいだし」
話ながらも男性陣のグラスはペース良く空になっては満たされてを繰り返す。私は残り数口を大事に飲んでると言うのに。
「早めに出かけてみるってのはどうだ?別に朝食の準備は早められるぞ?」
「僕もそうしてみたいと思うんだけど、千歳ちゃんは開店まで時間空いちゃうと大変だよね?」
「それは全然。早い時間の方が遭遇する可能性も高いですし、時間の余裕もある分、なんなら始発駅に足を伸ばして何台か様子を見ても良いかもですね」
私の利用する駅は始発駅の次だ。朝の電車で社畜さんを見かける時は既にその中に居るから彼の乗り込む駅は始発駅のはず。朝小野は始発駅を張ってみる事も検討していたし早速実行してみても良いと思う。
「千歳ちゃんと雄真君がそれで良いなら僕は助かるよ」
小野がそう言うので明日からは少し早くここに集合する事に決まった。話も纏まって丁度皿も空になり後片付けと思ったのだが、他二人はグラスを満たし続ける。ボトルにはあと一杯分が残る程度だった。これでは最後の一杯を二人は譲りあって埒があかなくなるだろう。仕方ないから私のグラスに最後の一杯を注いで楽しんだ。まったく、平日は飲酒を控えているのに。




