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小野にとって私の話した事はどうやら無駄な手掛かりではないようだった。
「千歳ちゃんが見たのはこの世界線の晴翔君だったのかもしれない」
「どういう事ですか?」
「僕の世界にあって、この世界にないものがあるって話は理解してくれたよね?」
私も雄真もただ頷く。例えばこの世界はスカイツリーが造られた世界線だが、造られなかった世界線も存在するという感じだとちゃんと理解出来ている。
「それは物質に限った事じゃない。人や動物も同じだと言ったら分かるかな?」
「別の世界線にも俺や千歳が居るって事っすよね」
「そう、悲しいと思うかもしれないけどその逆もね。それは僕も同じだ。ちなみに同じ世界に同じ人間は存在出来ない。だから僕はいろんな世界に飛ばされてきたけどこれまで別の世界線に生きる僕に会った事は無い」
「小野さんが生まれなかった世界線という事?」
「そう。それかもう既に存在しなくなった世界」
「それって、、」
「要は死んでしまった世界ってこと。実際に自分の墓を見た事もあるよ。別の世界線の事だし、僕は生きてるわけだし特になんとも思わなかったけど。その世界の知り合いに僕の姿が見られてたとしたらきっと幽霊を見たとか言われてるんだろうね」
これまでこうして生きて来れてるわけだけど、命を落としたかもしれないタイミングもきっとあった。未曾有の大震災だって体験してる。信じられない犠牲者の数になんで私は生きてるんだろうって思う事もあった。自分が存在しない世界線を想像して不思議には思うけどその可能性があることも当然と思えた。それでも幼い命でそれを考えるのはとても心が締め付けられた。
「それじゃあ、千歳が見かけたのはこの世界に生きる晴翔君だった。異世界の晴翔君が今この世界に居るって事は千歳が見た晴翔君は、、」
流石に雄真も全てを言葉にする事は出来なかった。小野も静かに頷くだけで話を先に進める。
「誘拐犯は生前の晴翔君を知ってる人物だと考えられるね。例えば、親とか」
「社畜さんが、、」
確かに社畜さんと晴翔君は一緒にいた。その時はとても幸せそうに見えたけど普段の社畜さんはいつも疲れて不健康そうで。いつ異世界転移が起こってもおかしくないなんて不謹慎ではあるが妄想した事もあった。それでもこの世界に留まり続ける事が出来ているのはきっと大切な存在が居るからだってところまでセットで。
「誘拐犯がその千歳の言う社畜かは分からないけど、大きな手掛かりかもしれないな」
その背景を想像すればせっかくの手掛かりも無邪気に喜べず、言った雄真も神妙な面持ちだった。
「帰してあげなくちゃね」
この世界で晴翔君を失った人達の悲しみは計り知れないだろう。でも晴翔君を偲んで話しかけてあげる事が出来る。逆に迷い込んだ晴翔君の世界は晴翔君を失った事に気づかない。代わりの晴翔君を得た誰かは、亡くなった晴翔君に声をかけてあげれなくなってしまわないか。
「そうだな」
私の言葉に雄真も同意してくれた。小野は再度私達に問う。
「協力してもらえるんだね?」
「「はい」」
私達は必ず晴翔君も小野さんも同僚さんも彼らの世界に帰してみせる。




