3.
バラバが控える部屋のドアを叩く音が聞こえ、侍女のザザルが確認して返事をすると、ドアがゆっくりと開かれる。入ってきたのは、王弟のドルド・ガルメレであった。
「貴方は……ドルド殿下!?」
「やぁ、バラバ嬢。突然、申し訳ないねぇ」
「ご無沙汰してます。ドルド殿下」
申し訳ないと言いながらも全く悪びれる様子はなく、柔らかな笑みを浮かべる王弟ドルド・ガルメレ。秀麗で端正な顔立ちの若者に見えるが、これでも妻子ある身だ。そんな者が何故訪問してきたのかとザザルは疑問に思う。
「ドルド殿下、いったいどうされたというのですか? 何か問題でも起こりましたか?」
ザザルは訝しむが、手早くドルドに茶の用意をする。ドルドは真っ直ぐにバラバを見つめる。ゆっくりとソファに腰をかけてティーカップを手に取る。
「いや、バラバ嬢から手紙をもらったのさ。それで目を通してから、ずっと直接会いに行きたかったんだけれど、なかなか時間を作れなかったんだよ。こんな形で押しかけることになってしまって申し訳ないが……バラバ嬢、例の件は本気か?」
「……はい、構いません」
「そうか。それならそれでいい。君が納得しているなら、私には言うことはないがね」
「……そうですか」
「あの手紙の君の頼み――メバチス領の治療院の設立計画を私が引き継ぐことだったが、間違いないね?」
「はい」
「え?」
ドルドの言葉にザザルは一瞬耳を疑った。辺境のメバチス領の治療院の設立、それは次期王太子妃になるバラバの仕事になる予定だったはずだからだ。
「……バラバ様っ! メバチス領の件はバラバ様が任されるはずの仕事だったではありませんか! それをドルド殿下が引き継ぐ!? いったいどういうことなのですか!? 私は何も聞いていません!」
「ザザル、落ち着いて」
「おや? 専属侍女にも秘密だったのか。ダグバのことはそんなに行き詰まっていたのかい? 君が私達のような上級貴族に差し向けた密偵は優秀だったけど、あんな手紙を出すようでは確かな事実を掴み切ることができなかったんだね」
「……」
ドルドは気の毒に思っているような口ぶりである。バラバが使ったバツーバ伯爵家の密偵の存在に気がついていたようだが、何も気にしていないようだ。
「私のことを責めないのですか?」
「ダグバの変わりようは酷い。君が探りをいれる理由は分かるよ」
バラバはダグバの心変わりには何者かが誘導していると考えていた。ダグバの変化は突然過ぎて不自然に思えてならない。きっと首謀者がいるはず、その首謀者を探すために有力な貴族達に密偵を使って探っていたのだが、密偵達はその影も見つけることもできず、真実は何も掴めなかったのだ。




