第三巻 第一章 (高位者に自分の務めの知識は必須)(将軍に戦術と戦略の知識は必須)
第三巻
第三巻 第一章 (高位者に自分の務めの知識は必須)(将軍に戦術と戦略の知識は必須)(名将に必要な性質)
栄光を熱望する人達もソクラテスからの同様の助けを得た。
ソクラテスは、各々の場合に応じて、栄光を熱望する人達の中の、各々の目的への忍耐強い勤勉さを促した。
それを示すのに役立つ次の話のように。
ディオニュソドロスがアテナイへ来た、ある時、ディオニュソドロスが「将軍の全職務を教える事ができる」と主張したのを、ソクラテスは聞いた。
そのため、ソクラテスは、共にいた人達の一人である、ある若者に話しかけた。
その若者は、将軍職に就くのを熱望していて、その望みをソクラテスに知られていた。
次のようにソクラテスは話した。
「将軍に成りたいと努めている全ての人は、将軍職の職務を学ぶ最もわずかな機会をも捨ててしまうのを、恥じるべきである」
「そのような(将軍職の職務を学ぶ機会を捨ててしまう)人は、彫刻の技術の習得無しに彫像する仕事を引き受けた詐欺師よりも、国家によって罰金や処罰を受けて当然である、と私ソクラテスは言わなければいけない」
「戦争中は、戦争に付随する全ての危険と共に、国家の全命運を将軍に委ねる事を考慮すれば、将軍職の職務への、成功に比例して大いなる恩恵が、失敗に比例して大いなる不幸が、結果として生じるのは、当然でしかない」
「『将軍職に選ばれるために労苦している一方で将軍職の諸々の職務を学ぶのを怠った将軍志願者は、高額な罰金刑を受けて当然である』と同意しませんか? と私ソクラテスは若い、あなた様に求めます」
これらのような諸議論によって、その若者が将軍職の職務の諸々の教えを受けに行くように、ソクラテスは説得した。
その若者が、将軍職の職務の講義の受講を終了した後、戻ってくると、ソクラテスは、その若者に戯れで冗談を言い始めた。
「私達の若い友人である、あの方を見てください。ホメロスがアガメムノンの威厳の有る態度について話しているように、同様に、あの方にも態度に威厳が有ります」
「将軍に成るために学んだ人のように、あの方も、より威厳が有る動きをしているように見受けられませんか?」
「もちろん、」
「ちょうど、仮に(今だけ)竪琴に触っていなくても、竪琴の演奏を学んだ人は竪琴の奏者であるように、」
「また、ちょうど、(今だけ)実践していなくても、医学を学んだ人は医者であるように、」
「そのように、ここにいる、この時から、目の前にいる、私達の友人も、今では、仮に将軍の選挙で一票も得票できなくても、永遠に、将軍であろう」
「逆に、仮に全ての人々が愚か者を指定しても、ええ、ええ、学が無い愚か者は将軍にも医者にも成れない」
(ソクラテスは、その若者の方を向いて、次のように、話を続けた。)
「仮に、いつか私達の誰かが(一部の部隊の)指揮官として(若い、)あなたの下に(部下として)いるであろう事に備えて、聞きかじった戦略や戦術の知識のいくつかを私達に伝えると、教師は、何を、将軍職について教える出発点と思っていましたか?」
「どうか私達に教えてください」
すると、次のように、その若者は話した。
「将軍職の職務の教師は、初めから終わりまで、同じ事だけを教えてくれました」
「将軍職の職務の教師は、戦術だけを教えてくれて、他には何も教えませんでした」
(次のようにソクラテスは応えた。)
「まさか、しかし、(戦術、)それは、将軍職の微細な一部でしかない」
「将軍は、戦略物資を供給する用意をする必要が有ります」
「(また、)将軍は、食料を兵士達に供給する用意をする必要が有ります」
「(また、)将軍は、策略において頭の回転が速いといった、実用的な資質にあふれている必要が有ります」
「将軍の目から逃れるものは何も無い必要が有るし、また、将軍に我慢し切れない思いをさせるものは何も無い必要が有る」
「将軍は、賢明である必要が有るし、即座の機転が有る必要が有るし、寛大さと激しさを同時に合わせ持つ必要が有るし、誠実さと老獪な巧妙さを同時に合わせ持つ必要が有る」
「将軍は、番人の役割を果たす必要が有るし、略奪者の役割を果たす必要が有る」
「将軍は、現在は、まるで浪費家であるかのように物惜しみしないでいても、さらに次には、まるで守銭奴であるかのように物惜しみできる必要が有って、将軍の気前の良さと、貪欲なまでの制限は、相並び合う必要が有る」
「将軍は、守備においては鉄壁であり、攻撃においては非常に命知らずで大胆である必要が有る」
「これらの資質と、多数の他の資質を、軍事の優れた長官である、優れた名将に成るつもりが有る人は、所有している必要が有る」
「人には、諸々の資質は、神から与えられた生まれつきの才能としてか、知恵によって、学ぶ事によって、存在する必要が有る」
「疑い無く、戦術も、戦術家に成るためにも、大いなる物である」
「なぜなら、戦場で適切に指揮されている軍隊と、それと同一の軍隊でも無秩序な軍隊は、全く、全く違うからである」
「ちょうど、山のように転がされているタイル、煉瓦、木造部分、石は全く役に立たないが、それらをある決まった順序で配置すると、上と下には陶器製のタイル、石といった崩壊したり腐敗したりしない物を、上下の二つの中間には煉瓦、木造部分を、建築学の原理を考慮して、配置すると、最後には役に立つ所有物、つまり、居住場所(、家)を得られるように」
(次のように、その若者は応えた。)
「その例えは、とても的確です、ソクラテスよ」
「なぜなら、戦いにおいても、最も優れた人達を前と後ろに整列させ、それらの最も優れた人達と共に、中間に平均以下の人達を整列させて、前の人達が中間の人達を先導できるようにし、後ろの人達が中間の人達を押し進ませる事ができるようにするのは、戦術の法則なのです」
次のようにソクラテスは話した。
「もし将軍職の職務の教師が、(兵士としての)良し悪しを見分ける事を教えていたのであれば、疑い無く、とても良いです」
「しかし、もし、そうでなければ、学んだ戦術は、どこで役に立つのか?」
「最良の(本物の)硬貨を上と下にし、最悪の(偽造)硬貨を中間にして、たくさんの硬貨を積み上げて配置する事を教えられても、先に偽造硬貨と(最良の)本物の硬貨を見分ける事を教えられていなければ、到底、役に立たない。そうですよね?」
次のように、その若者は話した。
「ええと、いえ、(神に)誓って、将軍職の職務の教師は、兵士としての良し悪しを見分ける方法を教えてくれませんでした」
「そのため、(兵士としての)良し悪しを見分ける務めは、私達、将軍志願者達(や将軍に成れる力が有る人達)にかかっているはずです」
次のようにソクラテスは話した。
「ええ、では、将軍志願者達の中で、どうしたら諸々の失敗を最も善く回避できるか、私ソクラテスと、若い、あなたは、考えてみましょう」
(次のように、その若者は応えた。)
「私は、その用意ができています」
次のようにソクラテスは話した。
「ええ、では、考えてみましょう!」
「『私達が略奪者で、私達に課された職務が、金塊を奪い去る事である』と仮定しましょう」
「仮に利益に最も貪欲である者どもを前衛に配置するのであれば、私達の軍隊の配置は正しいですよね?」
次のように、その若者は話した。
「私も、そうだと思いますが」
次のようにソクラテスは話した。
「では、立ち向かうべき危機が存在する場合は、どうですか?」
「栄光に最も貪欲な人達で前衛を構成するべきでしょうか?」
次のように、その若者は話した。
「そうですね」
「いずれにしても、栄光に貪欲な人達は、称賛や栄光のために危機に立ち向かうでしょう」
「幸いにも、このような(栄光に貪欲な)人達は、隅に隠れていません」
「栄光に貪欲な人達は、どこにいても異彩を放って目立つので、見つけやすいです」
次のようにソクラテスは話した。
「しかし、教えてください、将軍職の職務の教師は、一般的な軍隊の配置方法や、特に、(軍隊の)各種戦術的配置をどの場合に、どのように適用し応用するかを教えてくれましたか?」
次のように、その若者は話した。
「そのような事は何も教えてくれませんでした」
次のようにソクラテスは話した。
「しかし、同一の進軍配置や、同一の戦闘配置が、不適切に成ってしまう無数の状況が必ず存在する」
次のように、その若者は話した。
「将軍職の職務の教師は、全ての細かい区別について話さなかった、と私は断言します」
(次のようにソクラテスは応えた。)
「将軍職の職務の教師は、各種戦術的配置の適用、応用について、教えてくれなかった。そうなんですね?」
「神よ!」
「また将軍職の職務の教師の所へ戻って、将軍職の職務の教師に、しつこく質問しなさい」
「もし、将軍職の職務の教師に本当に知識が有って、恥という感覚が全く失われていなければ、あなたから金銭を受け取っていながら、あなたをむなしく(世の中へ)送り出した事を恥ずかしく思うだろう」




