8話 隠された試験
こんにちは。
そこは、先ほどまで悠たちがいた暗い部屋とは正反対の場所だった。
所々に三角コーンが置かれてはいるが、体育館とは似ても似つかない。だが屋外かと言われると、そうは見えなかった。
悠は周囲を見渡す。
そこにあるはずの教室の天井も、もちろん青い空もない。空の代わりに色とりどりの波がうねる、亜空間、と呼ぶのが正しいような場所だ。
悠のいた日本では、どの科学者を持ってしても亜空間の存在は立証されていなかった。勿論悠も。しかしフシギと、彼はそれが亜空間であると理解できた。
「え……? えと、リズ先生? こちら側からの合格者って、どういうことですか?」
「ルミくん。君は相変わらず、成績はいいのにポンコツだねえ。いいかい、君たちをあそこに閉じ込めたのは僕さ。あの部屋自体が、そこの彼に光輝館へ中途入学する最低限の資格があるかどうかの、試験だったんだよ」
リズと呼ばれた眼帯の女教師が、髪を手でとかしながら言った。
白衣を着たその女教師に、悠はツバをごくりと飲み込む。
悠、この異世界に来て何度目かの興奮。
(ボクっ娘お姉さん! ここに来て新ジャンル開拓だ……!)
リズの発言ガン無視で、そろそろ怒られたほうがいいのではないかと言うぐらいに男子の思考をする悠に、何かを察したらしいルミがドン引きする。
だがリズの容姿は、彼をここまで興奮させるのに相応しいものだった。
純白の白衣に漆黒のシャツ、そしてその豊満な胸は、胸元につけられたネクタイを浮かび上がらせている。
化粧もしていない様子であるのに、その顔は恐ろしく整っており、眼帯というイレギュラーなアイテムでさえも、彼女の美しさを強調するキーアイテムとなっていた。
しかしいつまでも興奮してもいられない。悠には目的があるのだから。
「っていうことは、試験は終わったってことですね。ちょっと簡単だった気もしますけど」
安堵の息をもらしながら言うルミに、どの口が、と言いそうになるのを、悠はリズの胸を見ることでこらえた。
リズは苦笑しながら、悠に言った。
「……どう思う? ユウ・ツルギ」
「まあ普通に考えて、これで終わりってことはまずないでしょうね。もしあそこを出ることが合格条件なのならこんなトコに連れてくる必要もないし、何より簡単すぎます」
悠はそう言い、リズの隣で眠るドラゴンを見上げる。
「正解だよ。正直なところ、君の合否は測りかねている。魔法を使わず出られる裏ルートは相当緻密に作ってあったし、設けた制限時間内に見つけられるようなものじゃないから、ここから出るやつがいたら面白いなーくらいのお遊びルートだったんだよ。……だがどうだ、君は制限時間を一分と使わず、裏ルートを見つけてしまったじゃないか。いやあ本当に、困ったよ」
「……それにしては、随分余裕の表情ですね? リズ先生」
悠が指摘する。
そう。隣に眠ったドラゴンを見上げるリズは、ニヤリと笑っていた。
「次が最終試験。そもそもお遊びルートから出たやつが居ても、こいつで振り落とされることになってる」
リズが手を振り抜いた。
すると、リズの手にはいつの間にか、小石が握られていた。
リズは勢いよく、その小石を――。
「ギャウッ!?」
巨大な体躯を丸めて眠りにふけっていた、ドラゴンに投擲した。
「なっ!? ちょっと待って下さい、こいつって……!?」
「ぎゃああああおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」
ルミが言い終わる前に、ドラゴンは天高く吠える。
鼓膜が震え、悠の身体が少し後ずさる。……咆哮のみで。
「『ファイアドラゴン』。通常冒険者が10人隊を組んで討伐する、危険度Aのモンスターだ。このモンスターの特徴として――」
リズが、唸りで威嚇するファイアドラゴンに手をかざした。
そして小さく何かを唱えると、彼女の手が眩く輝く。そしてその光は球形を形取り、ドラゴンに向けて勢いよく放出された。
が、ドラゴンの首筋に着弾したところで、四散する。
「物理攻撃への耐性及び、中級未満の魔法の無効化。……つまり、魔法でのみ倒せるモンスターだ」
「や、やっぱり……!」
「ユウ・ツルギ。最終試験だ。君には、このモンスターを単独で無力化してもらう」
「……」
悠は無言で、目の前にそびえる巨体を見上げる。
大きく鋭い、刃のような歯がいくつも並んでいる。その紅い目は鋭く悠を捉え、離さない。その眼光に、ルミは怯えながら後ずさった。
悠はしばらく、そのモンスターを見つめる。
そして、言った。
「了解。……じゃあ、やらせてもらうぞ。リズ先生」
その表情は、これまでない程に、闘気に満ちていた。
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