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4話 稽古場

遅れてすみません。

 「……それでは、なにか?」


 パールとかいう女騎士が、悠に向けて爆弾発言をぶっ放した後。


 「貴様は、言語が分からないままにあんなことを言ったというのか?」

 「そうですよ。ていうか、流石に会ってすぐの人に告白したりしませんて」


 誤解も解けて留置所から出された悠は、座談室でパールとお茶を飲んでいた。

 悠の一言に、パールは大きくため息をつく。

 

 「まあ確かにその通りだが……。今、貴様は普通に私と話せているが。これはどういうことだ? 何か魔法でも使ったのか?」 

 「勉強したんですよ。隣の部屋の囚人さんと話したりして」悠がなんの気無しに言うと、パールは口に含んでいたお茶を吹き出しそうになった。

 「……ごくん、たった一晩の勉強で、ここまで流暢に……っ!? ……いやでも、嘘をついているようには見えないし……」


 事実そうなのだからそりゃそうだろう、と悠は思った。

 流石に全くの新言語を習得するのは彼でも骨が折れたが、それにしても一晩で習得できる難易度だった。とはいえ完全に習得したとは言えないので、細かい部分はこの先学んでいけばいいだろう、ということだ。

 パールはこん、と小さく咳払いをすると、悠に向き直ってぽそりと言う。

 

 「その、貴様は、これからどうする気なのだ?」

 「え? どうって……」

 「い、いや別に。私には関係のないことなのだが! ただその、ちょっと気になっただけだ、忘れてくれ……」


 顔を赤くしてうつむくパールに、悠は頬をぽりぽりと掻く。

 そして思った。

 言われてみれば、特に何もプランがないな、と。

 とりあえず衣食住を確保する、充分な装備の獲得など、この世界で生きていくための目処は立っている。しかしながら、最終目的である魔王を討伐するための目標は立てられていない。

 昨日の熊との戦闘で、この世界の生き物がどれだけ強いかも身にしみている。死を避けるためにも、最低限、あのような生き物と戦える戦闘力は身に着けなければならないだろう。

 悪くは思われていないだろうから、この女を利用させてもらおう……悠は、笑顔を浮かべてそう考えた。


 「いや、実は故郷の辺境の村を出てきたばかりで、プランがなくてですね。とりあえず強くなろうと思ってるんで、騎士団の稽古を一緒に受けられたりしないですかね……?」

 「こちらとしても勘違いして牢獄に入れてしまった身だし、それは構わんが……我々の稽古はキツイことで有名だぞ。耐えられる自信はあるのか?」


 キツイ訓練。その言葉は悠にとって、何度も聞き覚えのある言葉だった。

 そして、それは彼にとって特に何の問題にもならない。


 「全然大丈夫です。いけますよ」

 「そうか。それじゃ、今からでもやってもらおう」

 「えっ」


 パールは悠の肩をがっしりと掴み、無理やり立ち上がらせる。

 そしてぐいぐいと、どこかに向かって押されながら歩いていく。

 悠は抵抗せず、パールの顔を無表情で見ながら言った。


 「えっ」

 「えっ、ではない。今、稽古場ではもう稽古が行われている。貴様も参加しろ、歓迎するぞ!」


 満面の笑みを浮かべるパールに、悠は正面に向き直る。

 ……ああ、これやるしかないやつだ。

 そう思いながら、全体重をパールに任せて歩いていく悠であった。




――



 「紹介する! こいつはユウ・ツルギ。今日から一週間、騎士団見習いとして諸君と稽古をする者だ」


 アルフィール騎士団とは、パール・グレイスが団長を務める騎士団のことである。

 基本的に町の警備を仕事とし、たまにモンスターと戦ったりする。団員は現在20人ほど。そこまで大規模でもないが、町では慕われる集団だ。

 その稽古場に、悠は連れてこられていた。

 騎士団だけあって、やはり強面の男たちが揃っている。そんな彼らに顔をガン見され、悠はそっと目をそらした。

 場違い、である。


 「田舎から出てきたらしいから、諸君とは気が合うと思う! こいつの成長を、全力でサポートするように! 以上ッ!」

 『押忍ッ!! 姐さんッ!!』


 先ほどまでの冷静沈着なパールはどこへやら、今は自分の2倍は身長が高い男集団に指示を出している。

 体育会系のノリは、ニートのような生活を送っていた悠にとって苦手すぎるものだった。

 できることなら速攻で帰りたかった。ここに来る前にこの事を知っていれば、その頭脳の全てを行使してでも帰っていた。しかし、言ってしまったものは仕方ない。


 「さあユ……ツルギ。彼らは皆、私の自慢の精鋭たちだ。存分に稽古をつけてもらえ。私は仕事に戻るが、何か困ったことがあればいつでも言ってくれ」

 「ありがとうございます……」

 

 悠が礼を言うと、パールは満足そうに頷く。

 そして稽古場を出、もと来た道を戻っていった。

 男たちは再び稽古を始め、剣と剣のぶつかり合う音が響く。

 ひとり取り残された悠のもとに、1番近くに居た緑髪の青年が歩いてきた。鎧も着ておらず軽装、ピアスをはめた、優男と言った感じの風貌だ。


 「やあ、ユウくん。僕はアルミール。この騎士団の副団長をやっている者だ。稽古場では総督を務めてるんだ、よろしくね」 

 「……よろしくお願いします」


 手を差し出してきたアルミールの手を握り返し、悠は顔をしかめた。

 柑橘系の匂い。イケメン特有のものだ。

 手はすべすべしていて、正にモテ男オーラを放っている。彼女2・3人は泣かせてそうなヤツだ、と悠は勝手にレッテルを貼る。


 「ユウ。こいつは一見優男に見えるが、実力はここでも桁違いだ。それでいて四六時中剣を振ってるような剣術バカだから、教わればかなり強くなれると思うぜ」

 「よせよガルベス。僕なんてパールさんに一度も勝ったことがないんだからさ?」


 優男だが副団長なだけあり、中々に強いようだ。

 アルミールとガルベスの会話を聞き流しながら、悠は剣置き場の剣を一本取り出す。

 固くて重い、無駄な装飾は一切入っていない簡単な剣。しかしその輝きは、悠がこれまで一度も見たことがないものだった。 

 閉じこもっていた悠にとって初めてで、どこまでも素晴らしい輝き。 

 初めは格好良いものでもなかったけど、今では少し、あの女神に感謝していた。


 (異世界、来たんだな。俺)

 

 そう実感し、声には出さないながらも、静かな感動が悠の心を包んだ。


 「ユウくん、早速稽古を始めよう。まずは基本の型から」

 「――はい」


 剣を一本携えて、アルミールのもとに悠は走った。

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