表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/27

3話 謎の展開

 「おい、起きろ!」


 鉄格子に囲まれた空間。

 その外側から掛けられた声に、黒髪の青年は欠伸をしながら言った。


 「あと10分……」

 「五月蝿い、これでもう5回目だろう! いい加減に起きるのだ! 今日はお前の取り調べの日だぞ!」


 黒髪の青年……鶴城 悠は、騒ぎ立てる看守を手で制し、眠い目を擦りながらむくりと起き上がる。

 看守は満足そうに微笑むと、朝食を持ってくると言ってその場を去った。

 ……何故こんなことになったのか。

 その原因は、今から約一日前の出来事に遡る。


 

――



 「――」


 悠が鎧の集団に連れてこられたのは、街に入って真っすぐ行った所にある大きな建物。

 例のごとく、看板らしきものに書かれた字は彼には読めない。強制的に異世界に来て言語の心配までしなければならないとは、と、悠は心中でため息を吐いた。

 ここがよくあるファンタジー世界だと云うことから考えると、自分は何かしらずしらずのうちにしでかして、自警団的な奴らに捕まったのだろう。

 そんな予想を立てたものの、意味をなしそうにない。


 「―」

 「――! ――?」


 (分からんな)


 あいも変わらず、鎧男たちの会話がひとつも理解できない悠。

 まあ言語が違うのは仕方ないとして、この場はどう切り抜けようか。悠は黙考する。

 とりあえず彼等の会話を分析してみることにした。


 (組み合わせて成立するタイプか、英語の様に単語ごとに基本的な発音が決まっているタイプかは重要だな)


 暫く聞き耳を立てていた悠だが、なんとなく法則性を見出すことに成功した。

 どうやら英語に近い、単語ごとに発音が決まっているタイプらしい、という考察。

 まあ間違いがあるかどうかは、実際に話してみれば解るだろう。

 そう思い、悠は近くの全身鎧の人を呼ぶ。


 「――?」

 (くぐもってて良く聴こえないけど、「何だ?」 的な意味合いか?)


 先程の会話の中で出ていた、初めて、という単語と、出来ない、という単語、そしてその他のおおまかな文法を組み合わせ、悠は言葉を発する。


 「――。――――」

 (私は言葉をうまく話せないのですが、……って、伝わるかな?)


 心配しながら、とぎれとぎれの文を話し終わった悠。途端に静かになった周囲を見渡す。

 鎧の男たちは呆然とした目でこちらを見つめており、全身鎧の人も何も言わずに悠を見つめている。

 だが、暫くその状態が続いた後、全身鎧の人は急にガタガタっと椅子を蹴りながら後ずさり。


 「――ッ! ――――!?」


 何やらまくし立て、悠の方を指差すと。

 それを合図に、今度は困惑した表情の鎧男たちに、またもや悠は取り押さえられた。



――






 で、今に至る訳である。

 幸い悠が言葉を理解できていない事は彼等にも伝わったらしく、日本語で書かれた辞書を渡された。

 どうやら、何処かの親切な日本人が作ってくれたらしい。つーかそこは女神がやれよと、悠は心の中で悪態をつく。

 文法まできめ細やかに書かれたそれのおかげで、『バク語』……この世界の公用語の習得には苦労しなかった。若干のぎこちなさはあるものの、隣の独房の人と簡単な会話も出来るようになったので、情報も得ることが出来たのである。

 

 「朝食だ。今日はパンとトメイトゥスープだぞ」


 トマトスープという発音に謎の改変を加えてきた看守に『ありげぃとぅございます』とバク語で返し、朝食を受け取る悠。さながらアメリカかぶれの勘違いボーイのようだ。

 未だに何故自分が囚われているのかは解っていないが、とりあえず出された食事を口に運ぶ。

 

 「美味いな」


 悠が想定していたより美味しかった。

 パンは地球のものと近いほどに柔らかく、トマトスープは酸味が良く効いていて、その上温まる。更におかわりも自由という、なんかやらかしたにしては随分な高待遇である。


 

 腹も膨れた所で、先程の看守が呼びに来た。手錠をはめられ、牢屋の外に連れ出される。 

 来た時通った道を戻り、悠は自分が捕まった部屋に連れてこられた。

 促されるままに椅子に座ると、机を隔てた正面には、見覚えのある全身鎧。


 「さて、お前には色々と聞きたいことがあるのだが」


 そこで、悠は少し違和感を覚えた。

 鎧を着込んでいるからか声がくぐもって分かりづらかったが、よく聞くと、男にしては高い声のような……。

 

 「まずは昨日の、私への無礼について。……伺おうか、客人」


 全身鎧が兜を脱いだ。

 美少女だった。

 悠は驚愕する。地球でも見たことのない程の、端正な顔立ちである。

 これ以上無い、人形の様に整った顔。若いながらも、キリッとした眉と悠を真っ直ぐ睨む目は、第一印象では近寄りがたい感じを与える。長い金髪は後頭部のところで縛られ、ポニーテールを形作っていた。

 ゴクリと生唾を飲み込み、悠は声を出した。


 「ぶ、無礼?」

 「そうだ。貴様は昨日、私に対して随分と無礼な事を言ってきただろう」


 悠の記憶には無かった。

 そもそも、昨日は言葉を喋れなかったのだ。無礼なことを言おうにも、単語を知らなければ意味がない。

 

 「分からないんですが」

 「……ふん。あくまでもしらばっくれるか。……仕方あるまい。オニキス、言ってやれ。こいつが昨日、私に対して何と言ったかを」

 「嫌です」


 オニキスと名指しされた、金髪美少女の隣で微動だにせず立つ鎧男は、表情を一切変えること無くそう言った。 

 金髪美少女は一瞬ぽかんとしたが、直ぐにキリッとした表情に戻る。


 「……テレス。ではお前だ」

 「丁重にお断りさせていただきます」

 「……サ」

 「このサリー、遠慮しておきます。パール様ご自身で言って差し上げては」


 名前を言い切る前に断られ、俯いてプルプルと震えだすパール。

 耳まで真っ赤にしたその姿にもう威厳は無く、只の年頃の少女である。


 (ずっとこんなならいいのに)

 

 子供のような思考に時間を費やす悠。

 パールは無理やりにキリッとした眉をつくると、悠に向けて震える声で言った。

 

 「……ってくれと」

 「え?」

 




 「付き合ってくれと、言ったではないか! どう責任を取るつもりだ、貴様ッ」

 「言ってねえよ!!」


 鶴城 悠。

 この世界に転生してから、初めての怒鳴り声を上げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ