表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/27

5話 天音

宜しくおねがいします。

 「しばらくこの国に滞在するのなら、拠点をつくらなきゃダメよね。ユウ、アテはあるの?」

 「ねえ、勝負しましょ」

 「そうだなぁ……。アルミールさんの分で金には困らないけど、場所のアテはねえな。取り敢えず、地図に載ってる宿片っ端から行くか」

 

 カフェで休憩し、軽く腹ごしらえを済ませた悠一行は、ローゼンの町を散策していた。

 悠から見て、王都だけあって人も多いが、何だか活気がないような気がしてしまう。道行く人々の表情は皆暗い。何だか悠達の気も滅入ってくるような感じだ。

 だが、それとこれとは別である。夜泊まることになる宿は、明るい昼のうちに探しておかねばならないだろう。


 「国王様になるために、まず何から手を付けるんですか? ユウさん」

 「ねえ、勝負しましょ」

 「俺の計画としては、『魔の森』があるっつー土地を貰おうと思ってんだよな。だからまずは、その『魔の森』らへんの視察だな。て言っても、せっかく他国に来たんだから観光してからだけどな」


 悠自身、別にそこまで焦る必要もないと考えていた。

 学院の休みは1ヶ月分とってあるので充分に時間はあるし、ある程度アクシデントを想定して計画を立てても後1週間近くは余裕で休める。

 というか初めての旅行、それに女子も居るのだ。何としても楽しまなくてはならない。同行者を楽しませた上で自分も楽しむのが、デキる男のやり方なのだ。

 シャルにパペットを買ってから、ルミ達のスイーツ。そして予てから悠が考えていた、この世界にオトナの本が存在するかどうかの調査。これは女子達を連れていくわけにはいかないので、1人で行うつもりだが。

 と、計画が膨らんで行く悠に、アリシアが困惑顔で話しかける。


 「……あの、ユウ」

 「ん? どした?」

 

 アリシアの指が、悠の直ぐ後ろを指した。




 「この子、どうするの?」

 「ねえ、勝負しましょ」

 「安心しろ、直ぐどっかに捨ててくる」

  

 悠の背中にぴったりと張り付き、伸ばされる手を避けて抵抗する少女――名を、日ノひのもと 天音あまね

 悠と同じ日本で産まれた、バリバリの地球人である。

 その彼女が、何故かこの異世界にいる。悠は強引に引き剥がそうとするが、天音はその華奢な体つきに似つかわしくない腕力で悠の服に張り付き、更に抵抗した。


 「おいてめえいい加減にしろよ!? 日本でも散々勝負したろ、せっかく転生したのに何でまた同じ目に遭わなきゃいけないんだよ!?」

 「はん、私は貴方との勝負じゃなきゃ満足できない身体になってしまったんですぅ! 私を捨てるんですか!? こんな身体にしておいて!」

 「卑猥な言い方すんな、将棋やらチェスやらだろ!!」


 ギャーギャーと言い争う2人を、通行人はヒソヒソ話をしながら眺める。

 とはいえ天音が悠の背中にひっついて居ること、そして天音の身長もあって、傍から見れば親子喧嘩にしか見えないのだが。

 天音の恰好が漆黒のゴスロリと、この世界では珍しいものであるせいもあるかも知れない。


 「俺は死んだの! 研究所のモルモットな鶴城悠はもう居ない、今は勇者ツルギなんだよ! 俺のセカンドライフを邪魔すんなアバズレ!!」

 「そうやってまた何かの主人公みたいな事言って、チートな能力で僻地を開拓しながら美少女嫁とイチャイチャ平和に目立たず暮らすつもりなんでしょ! それで目立たずとか言っといて、目に見えた活躍を見られちゃったりして『やれやれ……』とか言っちゃうんでしょっ!?」

 「妙に細かすぎるし、無駄に詳しいのやめろ! それにどっちかと言えば、俺は積極的に目立っていくタイプだよ!」

 

 悠の反論に、天音は傍らで他人のふりをしていたルミ達に目を向ける。

 そして、勝ち誇ったような顔で言った。


 「……眉目秀麗な女の子を集めてハーレム気取っちゃってるようだけど、甘いわね。こいつらなんかより、私の方がよっぽどスペック高いわよ。いい? 私はね……」

 「なあアリシア、お前ってどんなスイーツが好きなんだ? そう言えば、聞いてなかったよな」

 「えっ……べ、別にあたしは……あんたが一緒にいてくれるなら、それで……」

 「聞いてよぉ!! 何イチャイチャ見せつけてくれてんのよ!!」


――


 「ふーん。じゃ、大体俺と同じ経緯でこの世界に来たって訳か」


 町を歩きつつ悠がそう言うと、天音はこくりと頷いて手の中のコロッケをかじった。

 ほくほく顔で天音がかじるコロッケも、彼女自身が広めたものらしい。この世界に来てから散見される日本の『異物』は、大体が彼女の手によって拡散されたのだという。


 「これでも私、この国では賢者と呼ばれて讃えられているのよ。……まあ最近は戦争のせいもあって、それどころじゃないんだけれど」 

 「戦争……」悠が反応を見せた。

 「貴方も知ってると思うけどね。……もし戦争が起きたとしても、私はあくまで中立の立場。いい加減に戦争ばかりで飽き飽きだから、どちらかの国が負ければ、この国を出ていくわ。別にそこまで思い入れもないしね」


 つまらなそうな表情で最後の1口を口に放り込んだ天音は、ため息をついて呟くように言った。

 賢明な判断だ、と悠は思う。

 短期間に戦争を繰り返すような2国では、生き残っても未来はない。今のうちにローゼンに見きりをつけ、別の国で頭脳を活かすのもいいだろう。 

 そんな事を考えていると、天音がからかうように悠にくっくいて囁く。


 「だから、貴方の国へ行こうかしら」

 「よく見たらここら辺っていいところがいっぱいだよな、俺ここに住みたくなってきたわ」


 神速の手のひら返しを見せた悠に、天音はクスリと笑いかけた。


 (顔はいいしドキドキしたけど残念だったな。俺がロリコンだったら即墜とされていただろう)


 「……でもね。私だって、一応年頃の女の子なのよ。思い入れがなくとも、救える命を見捨てようとは思わない。……同じ場所から来た仲間が何か企んでるのなら、それを止めるのは私の仕事」


 すっくと立ちあがった天音が、悠の正面に立った。

 吸い寄せられるような漆黒の瞳が、悠を捉えて離さない。それは端から見ているルミ達も同様だ。

 雑踏の中で、呼吸音がよく響く。


 「どういうことかって言うと」


 天音が悠に笑いかける。しかし、それをただの笑みと解釈した人間は、おそらくその場にいなかっただろう。

 眼が笑っていない。真っ黒の瞳を爛々と煌めかせ、悠を見つめる天音。悠の放つ威圧感とは別の、冷気に近い感覚が場を支配していった。


 「貴方が()()()()()()()()()()()()のなら、私は全力で対抗するわ……そういう話よ、悠」

 「……だとすれば好都合だろ。勝負ができて良かったじゃないか、賢者様?」


 笑みの下で――静かに睨み会う悠と天音に、話しかけられる者など誰1人いない。

 天音の真意も、悠の真意も、知っているのは彼ら自身だけだ。

応援宜しくお願いします。

総合ポイントが増えているのを楽しみにさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ