6話 見据える未来
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申し訳ありません。
鶴城悠は、宿の自室で、思考に耽っていた。
天音と別れてからは特に何もなく、宿をとって夕食を済ませた。そしてそれぞれが別の部屋に荷物を下ろし、今に至るわけである。
鋭い目が手に持たれた地図を捉え、その情報を読み込んでいく。地形や光輝館の図書室で学んだある程度の歴史的知識から、その地の歴史を頭の中で動かしていく。高度な思考は、最早神の領域まで達するほどだった。
悠の思考を邪魔するものは居ないが、強いて言うなら、先ほどの天音の言葉。
一体、どこまで読んでいるのか。悠にとって頭脳の面で脅威になる人物が現れたことは、間違いなく不利益になる。
もし天音が敵対したのなら……と考えると、ため息が出てきた。
「ねえ……ユウ」
声がした。
察するに、ルミ・ホワイトの声だ。しかしながらいつもの強気な頼りになる声と違い、少し低く、弱々しい。
悠は集中を中断して、いつもどおりの声音で返事をした。
「ルミ、何か用か?」
「……入っても良い?」
断る理由もない。悠は扉を開け、ルミを招き入れる。
もう日暮れも近い、風呂には入ったのだろう。そう思いながら、悠は自然な流れで胸元に目を向ける。
桃色のワンピースに純白のフリルがついたルミのパジャマは、いつもの彼女とは違った、女の子らしい印象を与える。頬を赤らめキョロキョロと周囲を見渡す姿はまさに、初めて男子の家に入った中学生女子である。髪の毛をかき分け突き出た茶色のウサ耳は、へなり、と弱々しく垂れていた。
悠が手で促すと、ルミはありがと、と小声で言い、椅子に座った。
「部屋に入ったって事は、なんか話しづらい用件か?」
「うん……。あの、さ。さっきの、『賢者』さんの事なんだけど」
俯きながらのルミの言葉は予想通りで、悠はひとつため息をついた。
天音に関する用事には碌なものが無い。悠は内心悪態をつく。
それでいて、ルミがこんなに落ち込んでいるのだ。
「戦争を起こすって……どういう事?」
「……別にどうもしねえよ、心配すんな。あいつが勝手に言ってるだけだ」
悠はそう言って否定するが、ルミはなおも俯いたままだ。
「あの女の子、あんたの知り合いでしょ? それでいて、私なんかより頭がいいし、多分あんたと渡り合える」
「……何が言いてえんだよ」
「あの子の言ってること、正しい気がしてならないの」
ルミの肩は、細かく震えていた。
空調は完璧だ。理由は分かった。彼女は心配なのだ。
悠が、友人が。皆を心配しているからこそ、今こうして、直接問いただしに来ている。
悠は真剣な面持ちで、ルミに言い放った。
「率直に言う。俺は今、戦争を起こそうと考えている。それは紛れもない事実だ」
「……ッ」
ルミは声にならない声を上げ、顔を背けた。
当然の事だ、と悠は思う。この年齢で戦争を起こそうなんて馬鹿げているし、何より方法すら無い。見知らぬ地で戦争を起こすからと兵を募って、一体何人来るだろうか。
だが、そんな事は関係ないのだ。悠にはある秘策があった。
「でも、俺が起こすのは戦争じゃない」
「……え?」
まあ普通に意味が分からなくて当然である。
悠の言葉に、ルミは唖然とした。そんな彼女に、悠は手に持った地図を見せる。
「この地図によると、近くにハリベル村って言う村があるらしいんだ。で、そこにはヤイグの兵舎がある。かつて建てられた和平の証拠らしいが、まあハリボテだ。実際はそこに住む村民たちを支配し、搾取しているだけ」
「……どこでそんな情報を?」
「想像だよ。だが、行ってみる価値はあると思わないか?」
悠の笑みに、ルミは困惑しながらも頷く。実を言えば、彼の言葉の意味も分かっていないのだが。
悠は未来を見据えていると、ルミは信じていた。
彼が王になると言ったからには、この行動にも何か意味があるのかもしれない。そう思わせる何かが悠にはあったから、彼が戦争を起こすと言おうと、彼女は応援するつもりだった。
しかし、悠のいやらしい笑みを見ていると、少しだけ猜疑心を抱く。
悠は地図を畳むと、すっかり暗くなった空を見て言った。
「俺が起こすのはストライキ。それも誰も傷つけない、平和なヤツだ」
「……本当にそれならいいけど……」
ルミはため息をつき、部屋の扉に手をかけた。
時刻はもう夜。部屋に帰って日記を書こう、と、悠の方を振り返ると。
「ありがとうな、心配してくれて」
……慌てて扉を閉めたのは、真っ赤になった顔を悠に見られたくなかったからなのか。
自分でも分からないままに、ルミは顔を隠しながら自室へ逃げ戻った。
頑張りたいと思います。




