3話 静かなる始まり
「これから俺、王になる為にローゼンとヤイグって国に行ってくるわ。もうヴァハロア王には許可とってあるし」
休み時間に鶴城悠の机を、美少女3人が囲うのは、もう日常茶飯事となった。
ルミ・ブラウン、シャル・ホワイト、アリシア・グレイス。このクラスでも特に整った顔をしている3人は、不意に悠が放った言葉に固まった。
元々、常識など当てはまる相手でないのは解っているが、それでも驚くものは驚く。急に王になるなどと言い出し、それをヴァハロア王に認められるなど前代未聞のことである。
1番初めに我に帰ったのは、元々それなりの名家の出身であるアリシア。
「まま、待って、ちょっと整理させて。……えと? 王になる、っていうのはどういうこと?」
「そのままの意味だよ。資金はヴァハロア王が援助してくれるから、領土と国民を用意すれば俺は晴れて国王だ」
「……もうそんなに話が進んでたんですか……」
以前シャルには、悠の口からその旨は話されていたのだが、流石にこうも進みが早いのは予想外だったようだ。ため息を吐き、今や毎日のように共に過ごしているクマのぬいぐるみを抱きしめる。
アリシアに関しても、そこまで驚いた様子は無い。まあ現実を受け止められていないだけかもしれないが。2人とも、悠が冗談で言っているとは微塵も考えていないようだ。
と、未だに現実に戻ってこられていない少女が1人。
「あのー、ルミさん? 死んでる?」
「……ハッ! 我ながらうかつだったわ……って、生きてるわよ! そうじゃなくて、色々と理解が追いつかないっていうか、急に王様とか言われても心の準備が……」
「お前じゃないよ、王様は俺だよ?」
もはや悠の言葉になど耳を貸していないルミがブツブツと呟く中、シャルが小さく手を挙げる。
「あの、いつ出発になるんですか?」
「ん、学院にはこれから長期休みを申請する予定だから、出られれば明日だな。とはいえ、取り敢えず初めは情報収集だ。直ぐに帰ってくる」
「入学して1ヶ月も経たないのに、王になるから長期休み……はあ、あんたと居ると本当に驚いてばっかりなんだけど……」
アリシアが疲れた顔でそう言うと、シャルも苦笑しつつ、ですね、と賛同する。
悠としては別に驚かせている自覚はないのだが、やはり王となると驚くものか、と考える。とはいえ彼の場合、普段の行動がもう常識外なため、今更あまり変わらないのだが。
アリシアはしばらくコメカミを押しながら熟考した後、うーん、うーんと唸り、やがて頬を赤く染めながら小声でごにょごにょと。
「……ゆ、ユウ! その、あ、あたしも……」
「あ、そうだ。シャル。お前のぬいぐるみ、随分気に入ってるみたいだし、あんまり戦闘では使いたくないだろ。一緒に来ないか? ローゼンにはパペットの専門店があるらしいし」
「えっ」
勇気を出した言葉を最後まで言い切る前に中断されたアリシアは、間の抜けた声を出す。
シャルは俯き、もじもじとしながら、小さく返事をした。
「……はい」
「あ、じゃあ私も連れてってよ。ローゼンにある有名店のスイーツ、一度食べてみたかったのよね」
「えっ」
先ほどまで不気味に呟いていたのが嘘のようないつもの笑顔で、そう言い放ったルミ。
アリシア、孤立無援の背水の陣。
真逆の自分だけ取り残されている状況に、焦りを隠せない乙女アリシア。しかし、見た目と中身のギャップが凄まじく純情な彼女に、この状況で自分から連れて行ってほしいなどと言う勇気は無い。
それ故に、懐から鏡を取り出した。
「あ、あー……髪型が崩れちゃってるぅー……」
少しでも気を惹こうと呟いてみるが、悠達は意にも介さず談笑を続ける。
いよいよ涙目の顔が鏡に映り始めた彼女に、悠がアホ面で声を掛けた。
「アリシア。お前、なんか行きたいトコあるか?」
「スイーツやさん!!」
思わずそう叫んでしまったアリシアは、皆の視線が集まったのを見るや、赤面しながら縮こまるのだった。
――
「いい加減に限界でございます、国王様! ヤイグの王の乱暴狼藉、見過ごしてはおけません!」
豪華絢爛な装飾が施された巨城がそびえ立つは、ローゼン王国の中央部。
ローゼン王国。初代国王が魔術の発展へ力を注いだ功労者だった事に由来するのか、魔術により繁栄する国。
至るところで魔術を利用した商売が見られ、その輸出品は所謂『魔道具』。正に、規模、そして名実ともに、魔術大国と評して間違いない国だ。
そのローゼン王国は、普段のような平和な日常とは程遠い現状だった。
「今日は関所が3ヶ所破壊されました。ヤイグは侵攻の意思を持っています! このままでは我が国は一方的に蹂躙されるのみ!」
「……しかし、双方『魔の森』からの魔石の採取が不可能な現状、敗北するは間違いなく魔術で戦う我らだ。どうにかして交渉で済ませなければ……」
「交渉は不可能です! 金で動く蛮族が多いヤイグにそんなものは通用しません! 何卒、ご英断をッ」
ローゼン国王が、立派な顎髭に静かに手を当てて冷や汗を流す。
熱弁する宰相の言っていることも正しいが、彼としては、どうしても開戦するわけには行かなかった。
これまでもローゼンとヤイグは、幾度となく戦争を行ってきた。この2国が互角だったのは、ローゼンに魔術の威力を増幅したり、魔力を肩代わりしてくれる魔石というアイテムがあったからだ。ヤイグはローゼンと対称に、剣術、格闘術によって発展してきた血生臭い歴史。単純な兵力ではローゼンに一歩勝るのだ。
そして今の状況では、魔石を採取していた『魔の森』にうかつに入れない。今回はその土地の奪い合い故に。
ならば敗北は必定。国の長として、損害を考えれば、負け戦に兵を投じる訳にはいかない。
(どうにか……何か、無いものか……この状況の、打開策は……っ)
虚空を睨みつけてうなりながら、ローゼン国王は思考する。
――鶴城悠、仲間と共にローゼン王国へ出発間近。




