2話 王として
よろしく。
「そんな訳で、王になりたいんですけど」
「……貴君、もしや阿呆ではあるまいな?」
そんな間の抜けた会話が交わされるのは、勇者ユウ・ツルギこと鶴城悠の所属するヴァハロア国・王城。
その日、悠はヴァハロア王に謁見していた。
用件は1つ。国をつくり、王としてその国を支配すること。
この世界において、国の立場は強大だ。単なる地域の隔たりに収まらず、国という言葉は『個』としての力を持つことを意味する。
国ならば国家規模の軍事力を持つ権利を持ち、周囲の国との外交によって同盟国となる事も出来る。個人では動かせない金額も動かせる。いわば、自由度の向上が見込めるのである。
魔王を倒す事は人類の悲願であるが、今のままの悠では非力すぎ、不可能である事も分かっていた。それ故の突飛な目標である。
だが当然、周囲から見ればただのバカである。ヴァハロア国王はため息をついて悠に言った。
「……あのなあ。国を治めるというのは、恐らく貴君が思っているよりずっと大変なのだぞ? 常に命を狙われるわ、書類仕事で休みが潰れるわ、民の為に散財すればその民に政治を叩かれ……貴君は10代だろ? とても子供に務まる仕事では……」
「分かりますよ。それでも、俺はならなきゃならないんです」
悠の本心だった。
跪く悠の、その熱意が籠もった視線に何かを感じたのか、ヴァハロア国王は目頭を抑えながら話し出す。
「……国を造るために必要なものは大きく3つ。国民、領土、金だ。それに加えて、独立国1つに了承されて初めて国として独立できる。何度も言うが、決して学院生の力で成し得ることではない」
「詳しく聞かせてください。それぞれ大体いくつぐらい必要なんですかね?」
「国民は10000人。領土は1000アドモス程。そして金は……城の建築費など諸々含めて、白金貨100枚か」
悠はこの世界についてよく知らないが、こういった単位などの情報は、牢屋の中で学習していた。
広さの単位、アドモス。1アドモスがおよそ10平方kmなので、1000アドモスとなればおよそ10000平方kmとなる。
そして金の単位。この世界には一般に流通しているものに、銅貨、銀貨、金貨、白金貨がある。
日本円換算すると、銅貨が1円。銀貨が100円。金貨が10000円――というふうに100倍となっていき、白金貨となれば100万円である。それが100枚――つまり、およそ1億円。
まあ当然ではあるが、やはりかなり難しい条件だ。領土はそこまで広くないので、何とか得られそうなものではある。しかし、問題は資金と国民。1億円なんて普通に働いて稼げる金額ではないし、国民も同様だ。この前の褒賞で金貨1000枚は得ているが、焼け石に水だろう。
悠がそんなことを考えていると、ヴァハロア国王が真剣な目で言い放つ。
「……貴君が魔術の創生に成功したという事はもう耳にしている。私は貴君を認めているし、君のような才覚溢れる少年が目的を持ったなら、私とて応援したい。しかし国を創るとなれば話は別だ。国を創るという事は、同時国民の幸福に責任を持つという事。貴君では、他人の人生を背負うにはまだ早すぎるのではないか?」
ヴァハロア国王の言葉に、悠は俯いたまま顔を上げない。
(そうだよなあ……)
当事者しか言えない言葉は、やはり心によく響く。
国王として国を治めてきたヴァハロア王の言葉だからこそ、悠は黙考する。
国民の生活を背負う。これはゲームではなく、現実なのだ。間違えれば人が死ぬし、自分だって死ぬ。責任が付き纏うのは明確だ。
だが、悠には目標がある。
アルミールのような被害者を、もう出さない事。魔王を倒し、この世界を救う事。
悠ならば王にもなれると、アルミールは言った。
ならば、すべき事は1つ。
悠の決意は固い。若かろうと、悠も男だ。
「背負いますよ。自分の人生、投げ捨ててでも」
悠は顔を上げ、力強く言い放った。その瞳には、強い意思が宿っている。
ヴァハロア国王は一瞬目を丸くしたが、直ぐに微笑む。もはや何も言うまい、といった表情だ。
「分かった。貴君の心意気、胸に響いたぞ。……資金は私が援助する。国民、領土を得て、再び私のところに戻ってこい。それが出来たなら、我がヴァハロア国は貴君を王と認める」
「ありがとうございます、王」
王に頭を下げ、悠は王城を出た。
国民、領土。到底簡単な事ではないが、悠は必ず成し遂げるだろう。
彼を送り出すヴァハロア国王は、何故かそんな予感を察知して、静かに微笑んでいた。
――
方針は定まった。
王になるため、今必要なのは2つ。国民となる10000人と、領土1000アドモス。
悠は寮の談話室で、メモを前に考える。まず何から手をつけて行くか。
「困ったよなあ。また魔石の供給が絶えそうなんだろ?」
「教材でもらえるヤツだけじゃ、どうにも足りないし。でも仕方ねえな。あそこらへんは戦争に資源をぶっ込んでるから、他国に輸出する余裕なんて無いだろうし」
隣のソファで会話をするのは、同じクラスの男子生徒。
――戦争。
悠の中で、何かが形になって行く。
これは大きなヒントだ。そんな気がした。
悠は彼らの近くに寄り、肩を叩いて言った。
「悪いんだが、その話詳しく聞かせてくれないか?」
「え? ……あ、ああ。この国の近くのヤイグとローゼンって2つの国、長年戦争してんだけどさ。最近、また大きな戦争が起こりそうらしいんだよ」
「『魔の森』がある土地の奪い合いでな。あそこは魔石が採れるから、どちらの国もノドから手が出るほど欲しいんだろう」
「……そうか、分かった。ありがとう」
礼を言って、悠は席を立つ。
悠の頭脳ではもう、国を造るビジョンが浮かんでいた。
少し浮足立つ足で、悠は自室へと戻っていった。
王としてどうするか。
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