2章 1話 純情少女
今日は2話投稿。
頑張るぞ。
日差しが強く感じるのはいつものことだが、その日は特に、起きた瞬間に眩しく感じた。
休日ではあるものの、この寮は喧騒とは無縁だ。魔術を専攻する人に、朝から騒ぐような奴がいないのである。
何より陽キャ共の騒ぎ声を朝から聞かされた日にゃ、俺は間違いなく普通に引きこもる。その日は何もしないで寝ると思う。
そういった要素も一切ない。そして俺が起きた時眩しく感じたのは、太陽のせいでもなかった。
「……よ。ゆ、ユウ」
「……余裕?」
眩しいのはアクセサリ。
そいつの腕にはめられた、ゴテゴテした装飾達だ。
色とりどりのそれは窓から差す朝の光を反射して、これまた鮮やかな輝きを放っていた。まあ実質太陽のせいだ。
ピンク色のパーカーにスカートというフラットな服装ながらに、突き出たいい感じのバストは、更にその少女のきらめきを補強していた。さっきからなんかいい匂いもするし。
「違う! ユウ、って呼んだの! 合ってるでしょ!?」
「まあ合ってるが……朝から何の用だ、アリシア」
金髪美少女に起こされる、なんてシチュエーションが、まさか俺が生きてる間に起こるとは。全く、人生というのは分からないものだ。
自らの非を認めずに逆ギレした少女――アリシア・グレイスは、腕を組みながら俺が寝るベッドの傍らに立っていた。
起きた時女の子に顔を覗き込まれるのも初めてだし、今日は良いことがありそうだ、なんて思いつつ、俺はむくりと起き上がる。
「決まってるでしょ。……あれよ、あれ」
「あれとは?」
「だから! 言わなくても分かるでしょっ!」
目を瞑って、やけくそ気味にそう言うアリシア。
言葉足らずにも程がある。だがまあ、なんとなく用は察せた。
この前、学院対抗・最強決定トーナメントとかいう謎大会の予選にて。色々あって爆弾を取り付けられていたこのアリシアから、爆弾を取り除いたのが俺だ。
爆発までギリギリのところで取り除いたし、別に褒められるようなことでもない。その道のプロであれば、もっと楽に出来ただろう。何よりこの少女は泣いていたし。流石に恐怖までは取り除けなかった。
であれば、俺を責めに来たのだろうか。仕方ないが、来るなら朝早くじゃなくてもいいような。
「あれだろ、この前の件だろ」
「そう。……一応聞くけど。あんた、今日用事ある?」
「あると思うか?」
「え……そ、そんな即答しなくても……。あるでしょ? 友達と町に買い物とか、その、……ホワイトさんと出かけたりとか……」
この少女は俺を侮辱しているのだろうか。もしくはこうやって煽る事が目的だったのか?
俺にそんな用事ができようもないのは明確だ。現にシャルとルミは2人で出かけていて、俺は誘われもしなかった。
シャルに関しては、俺に告白まがいのことを言っていたのにこの有様である。自嘲しか出てこないよ。
「……ごめん。あんまりこういう話しないほうが良かったね……」
素直にぺこりと頭を下げるアリシア。
何だか調子が狂う。初めに会った時はバカにしてくるわガランに侍ってるわ、良くいる遊んでるタイプのjkにしか見えなかったのに、こう素直に謝られると普通の女の子に見えてくる。
これが演技だとすれば相当の熟練度だが、流石にそこまで器用じゃないだろう。これが彼女の素なのかもしれない。
だが俺のような非リアには気を使われる事の方が辛いのだと言うことを、後で教えてやらなくてはならないな。
「それで、結局何の用だよ」
「……あのさ。初めに会った時、私さ。あんたの事、バカにしてたじゃん?」
「してたな」
俺は即答した。
しかし気を悪くする様子を見せず、アリシアは笑う。
「で、さ。あの後、あの緑髪のヤツに眠らされて、捕まって。起きたら何も見えなくて、動けなくて、怖かった」
そうとぎれとぎれに話すアリシアの表情には、演技では誤魔化せない恐怖が宿っている。
年相応の反応だ。パニックになってしまってもおかしくはないだろう。アルミールは外面は優しそうだったから、より怖い筈だ。
だからこそ、俺には怒っているだろうな。もっと早く見つけられたはずなのに。
「それで……心細くて泣いて。自分でも、何やってんだろうな、って思った。で……絶対来てくれるはずないと思ってたあんたが、あの暗い世界から、私を助けに来てくれた」
「……そんな大層なもんじゃねえよ」
「……それでも。私、本当に嬉しかった。ありがとう。……だから、謝りたい。あの時、バカにしてごめん」
そう言って、さっきよりも深々と頭を下げるアリシア。その肩は、微かに震えている。
……むしろ謝りたいのはこっちなのだが、あまりそういうことを言うものじゃないか。怒っていない事が分かっただけでも良かった。
アリシアの気持ちは嬉しいし、素直に受け取っておこう。
「ああ。気にしてないよ」
俺も素直にそう言い、アリシアの頭にぽん、と手を置く。
その瞬間、アリシアはばっと後ろに飛び退いた。その顔をみるみる朱に染め、俯く。そして、頭をぽりぽりと掻きながら言った。
「だ、だからっ! 今日はそのお礼に来たの」
「具体的に何をするんだよ?」
「……そ、それはその、……あんたの好きにしていいよってこと」
恥ずかしそうに言うその姿は、アリシアが女子であることを再確認させるほどに可愛らしかった。
そして、俺は神速で顔をそむける。
……そういうことを言うもんでないぞ。俺みたいなモンスター童貞は勘違いしてしまうからな。
だが俺とて漢、チャンスには乗っかる。垂らされた釣り糸には堂々と食いつくのが俺の生き様だ。
今とて別に恥ずかしいとかではない。ちょっとアリシアの顔を直視していられなくなっただけだし、俺は度胸があることで有名なんだ。そう。こういうチャンスには遠慮なく乗っかるぞ。
「ぐぐぐ具体的にどどどどういうことをっ?」
ちょっと片言になってしまったが、これもテンパってるとかではない。
あれだ。パソコンとかがフリーズした時の真似だ。あまり真面目な話をしすぎると、小粋なジョークを挟みたくなってしまうのが俺だからな。
俺の堂々たる質問に、アリシアが顔を更に真赤に染める。さながらサウナに長時間居座る仕事帰りのOLのようである。
そんな特殊なシチュエーションの中で、アリシアが小声で言った。
「……そんなの、い、一緒に買い物とか、その……」
「よし。気持ちだけで充分だから帰れ」
その程度か、そんな見た目で。
まあアリシアは可愛いし出来ることなら俺も出掛けたいが、俺なんかといるのを見られれば彼女に迷惑がかかる。しかたあるまい。
それに、今日は俺にもやることがあるしな。
「ままま、待って……! てか、あんたがデートしようって……! それに、もしあんたがしたいなら、そういうことも……」
「そんな事覚えて……つかそれはそれで、強制してるみたいで嫌だよ! 可愛いんだから、もっと自分を大切にしろよな!」
「はうっ!? な、何言って……」
何度やるんだと言う程に、またもやアリシアがボッと顔を赤くする。
可愛いのは事実なのに、何を赤くなるような事があるのだろうか。あいつなんて毎日のように俺に可愛いって言わせてたぞ。
とはいえ、さっきから話してる限りこの少女は案外純情らしいから、それも仕方ないのかもしれない。
そんなことを思っていると、アリシアがそっぽを向いて言った。
「……ずるいし……」
「は?」
「……ううん、何でもない。まあいいし。今日は諦めるし」
しっししっし、獅子舞かよってレベルで連呼するアリシアの表情は――笑顔になっている。
俺は断ったのだが、何か笑うような事があったのだろうか。
「今度誘ったときは、断んないでよ。カワイイ子からの誘いなんて滅多にないでしょ?」
「分かったよ。ありがとな、アリシア」
俺の言葉に、少女はちょっとだけ耳を染めたあと。
「ありがとね、ユウ」
年相応の微笑みを見せ、俺のハートを射止めて去っていった。
アリシアが去ったあと。
俺は制服に着替え、襟を整える。目的のため、今日の俺にはどうしてもしなければならないことがあるのだ。
「王になるなら、王にやり方を聞かなきゃな……」
1人きりでニヤリと笑い、俺は自室のドアを開けた。
応援宜しくお願いします。
感想とかついていたら狂気乱舞します。




