16話 不安と謎
「ガラン……」
もう何組目かの模擬戦が執り行われ、だんだんと悠たちの戦いも近づいてきた頃。
ガランの胸に擦り寄るアリシアは、『テレパスグラフィック』に映った模擬戦の様子を無表情で観戦する彼に問うた。
「そういえばなんだけどー。何で1戦目であいつらと戦う事にしたの? 確実に本戦に出られるように、何回か勝ち抜いた後でも……」
「はっ、そんなん当たり前だろ。魔術が使えねえ落ちこぼれ2人組が、万が一でも俺らに勝てるわけがねえ。なら予選で蹴落として、格の違いってのを見せつけるのが1番いい」
ガランは許せなかった。
天才教師と揶揄されるリズの試験を身一つで突破したという悠。その実力を、学院全体でも1・2を争う実力を持つ自分が買い、学院での派閥に入れ、仲間にしようとしてやったのに。
悠は魔術が使えなかった。誰でも使えるはずの魔術が使えないなど、そもそも人間として数段劣る。
そんな奴に、あろうことか宣戦布告を受けたのだ。今まで、そんな不愉快な奴には会ったことがなかった。
許せない。自分をバカにした悠が、誰よりも。
ならばコテンパンに負かし、実力を見せつけた上で、パシリにでも何でもしてやる。
アリシアに情報を集めさせ、自分に反旗を翻そうとしていると名前が出た人物を、タイマン勝負でこれでもかと云うほどに叩き潰す。
今日までガランは、そうして邪魔な人間を潰してきた。今回の戦いは、衆目のもとでそれを行えるチャンスだ。
「……ふーん。ねえ、ガラン。あたしはね、今回の戦い、あたしたちが負けるんじゃないかと思ってるんだよねー」
「あ? ……テメー、俺があんな雑魚どもに負けると言ってんのか?」
ガランがアリシアを睨んだ。
アリシアは笑み、ゆっくり首を横に振る。
「ううん、そうじゃない。……ここだけの話、あたし、見ちゃったの。あいつらが禁術を使う、って相談をしてるトコ」
ガランの目つきが変わる。
禁術。それは、王国のみならず、この世界全土で使用を禁止された魔術だ。
その原因は様々。人の命を贄として使用する魔術、概念自体を作り変える事のできる魔術……どれもそれ相応の、人道に反した危険なものだ。
悠達がそれを使おうとしているとなれば、話が変わってくる。禁術の中には、アイテムによって使われるものも存在するため、魔術が使えない者でも使うことが出来るのだ。
いくらガランとて、その危険さは承知している。生唾を飲み込むのに時間がかかった。
「それ……センコーに言わなくて良いのか?」
「もしそんな事をすれば、あいつらはきっとそれを使う。そうしたらこの国が危ないんだよ。……だからガラン、お願い。あいつらがもし勝ってしまったら、あたしと一緒にあいつらを止めて」
「……おう、分かったよ」
ガランは決意した。
何処までも卑怯な悠たちを、必ず再起できないほどにぶちのめす。そうして、自分が国を救うのだ。
……アリシアは、ガランの胸の中で蠱惑的な笑みを浮かべた。
その笑みの裏側に何があるのかなど、ガランは気にしても居なかった。
――
悠たちの戦いまで後1試合となった。
悠たちは控室として使われる会議室にて、魔術の最終確認を行っていた。
悠が見守る中、シャルは手を振り抜き、時にはタクトを操る指揮者のように芸術的な動きで、巧みにクマを操る。
輪くぐりや、悠が創ったプログラムにより無作為に動き回るカカシへの攻撃など、コントロールを重視する訓練。当初は当てるどころか歩く操作すらままならなかった彼女も、今や悠の想像以上の成果を見せている。
「よし。それじゃあ次は、カカシを4体に増やしてやってみよう。実戦は2人相手だし、流石にここまでは出来なくてもいい。でも、もし出来るなら……」
「出来ます。大丈夫です、ユウさんに教えてもらったこと、無駄にしませんから」
自信を持ってそう言い放つシャルに、悠は若干逃げようとしていた自分を恥じながら頷く。
悠の手によりスイッチがオンになると、電磁波によって宙に浮いたカカシが動き出した。縦横無尽に会議室を飛び回るカカシを、シャルは冷静に見つめる。
シャルの手が動いた。振り抜かれた手に呼応し、ぬいぐるみは近くのカカシと距離を詰め、爪を当てる。カカシの腹部は切り裂かれた。
それと同時に振り向き、予め予測していた位置にきたカカシにぬいぐるみが飛びつく。頭部に捕まったぬいぐるみは、カカシの推進力を利用し、捕まっていたカカシを切り裂いてジャンプ。
丁度、一瞬だけ縦に重なったカカシ。
シャルの目はそれを見逃さない。勢いよく、両手を掲げる。
ぬいぐるみは、目にも留まらぬ速度で一閃。
カカシは、見事に2体同時に倒れ伏した。
「どうですか、ユウさん!」
「いや……なんつーか、お前やっぱ天才だよ。たった2日でここまで成長するとは……」
悠は素直に称賛した。
嬉しそうにはにかむシャルの頭にぽんと手をやり、切り裂かれたカカシを見つめる。
「ひゃっ!? ユユユユウさん!? ……その、こんなところで、そんな……」
……違和感。
何か、違和感を感じた。今目の前にあるカカシから、いや、もしかしたら他のものからも同様に。
悠はカカシに触れ、撫で回す。突然の行動にシャルが驚くが、悠の脳内はそれどころではなかった。
(……やっぱ、な)
カカシの目から見つかったのは、極小な金属質の物体。
しかし悠には分かった。
これはカメラだ。この世界では、魔力が電力の代わりとなっているようだが。
そういう装置を造り魔力の質を調べれば、誰のものか分かるのかもしれないが、今の彼にそんな時間は無い。時間は迫っている。
『ユウ・ツルギ、シャル・ホワイト。そしてガラン・ルーミス、アリシア・グレイス。模擬戦開始の時刻です、至急リズのもとに来るように』
リズの声に、シャルは目を輝かせた。
「わわ、始まりますよ! ……緊張しますけど、頑張りましょう! ユウさん!」
「……ああ」
言い知れぬわだかまりを残しながら……。
悠とガランの対決が、今始まる。
次こそついにガランVS悠。
お待たせしました。




