17話 強者と強者
バトルシーンって難しい。
リズの魔術により、悠たちは異空間へと飛ばされた。
ぬいぐるみをしっかと抱きしめ、キョロキョロするシャルには、迷った子犬のような可愛らしさがある。悠は彼女を眺めて目を保養しつつ、周囲を見渡した。
リズがいるのもあって、ファイアドラゴンと闘った時と同じ、よくわからない光景が広がっているが、悠にとって更によくわからないのは彼らの対戦相手。
「……おい、テメエ。どの面下げてここ来やがった」
ガランが睨んで来ている。悪態をついて、地面にツバを吐き捨てた。
教室にいる時のような、舐め腐った視線とは違う。明らかな敵意の視線。少しでもこの狂犬に隙を与えたなら、一瞬で悠の頭を殴り潰してしまいそうだ。
何かあったのか、と、悠は思う。確かに開始時はいつものような余裕で悠たちを見下していたのに、ここまで直ぐに変わったとなれば、何かあったとしか思えない。一応殺人はルールで禁止されているが、このガランにはそんなものは通用しなさそうだ。
とはいえ、魔術によってここの様子は中継されている。流石に衆目の中で殺しをするような愚行はしないだろう、と悠は踏んでいた。
「ガラン、今は抑えて。闘いが始まってから、ね?」
「……お、おう。そうだな」
ガランに耳打ちするアリシア。小声を意識したのだろうが、将棋とオセロの片手間に足でやっていたFPSゲームによって五感が研ぎ澄まされている悠に、そんな事は通用しない。
それに加え、悠はアリシアの妖艶な笑みを見て、言い表しようのない違和感を覚えた。
顔、仕草、その豊満なスタイルと、何もかも初日に見たアリシアと同じはずなのに。まるで別人のような感覚。
……正直に云うなら、あの女はもう少しバカそうな感じだったな、という勝手な決めつけである。あれだ、イメージ的に言うなれば、夜の街で引っ切り無しに男を捕まえる女子高生と、かつての教養高い遊郭の女郎のような差だ。
「……では、これよりユウ・ツルギ、シャル・ホワイト対、ガラン・ルーミス、アリシア・グレイスの模擬戦を始める。僕、リズ先生が監視してるので、ルール違反は即バレだから気をつけるように」
リズの言葉に、予め引かれた線に沿って、悠たちは対峙する。
「後悔すんなよ雑魚。立てなくなっても、精々そこの落ちこぼれ女に看病でもしてもらうんだな」
「ふん、もう既にルミに老人の介護レベルの手伝いをしてもらっている俺を舐めるな。そうなっても今と余り変わらない」
「――シャル、だったっけ。すぐ終ると思うけど、宜しくね」
アリシアは笑い、シャルに右手を差し出す。
――自身の魔術が、彼らに通用するのか。
シャルは、直前になって不安を覚えていた。やはり生来の自信のなさというものは、そう簡単になくせるものではないらしい。
付け焼き刃で、悠が作ってくれた魔術を活かせるのか。正面に立つアリシアの、恐らく自分を見てすらいない瞳を見て、シャルの目にじんわりと涙が浮かぶ。
どんどんと沼に入り込んだシャルの耳に、勝負など気にも留めていないと言った風の声が入る。
「色々終わったら、一緒にスメブラやろうぜ。ルミも入れてな」
悠はそう言い、シャルの手を握って笑んだ。
別に下心なんて無い。もちろんこれは追い詰められたシャルをリラックスさせるための演技であって、ホントにシャルを落とそうとか考えていない。
だが、シャルは悠の顔を驚いたように見て顔をほんのり染め、無邪気に笑った。
「ありがとうございます、ユウさん」
そして、悠の手を離し、アリシアの手を握る。
「負けません」
「……ああ、そうこなくっちゃね」
シャルとアリシアが、自信に溢れた表情で、握手を交わす。
……どくん。
ガランの心臓が波打つ。何かの違和感が彼を襲うが、自分でも何が気になっているのか気づいていないようだ。
同時、悠はアリシアを見て、やはり何かに気づいていた。
しかし、疑問を持つことはない。今は模擬戦に集中しなくてはならないのだから。
「では――初めッ!!」
リズの声と同時に、ガランが跳ねた。驚くほどの跳躍力で、またたく間に高くまで昇っていく。
そして、天高くで剣を抜き、悠めがけて急降下し始めた。
(おいおいマジかよ、思いっきり人外の動きだろあれ)
思ったより敵が強くてこの時点でビビる悠。先ほどシャルにイケメン風の励ましを見せた彼は何処へやら、今は初っ端会心の一撃を入れられた人みたいに固まっていた。
そして、力、体力など、単純な身体能力ではこの場の誰にも勝るガラン。彼の狙いは、兎に角火力の高い攻撃を連発すること。
悠とリズは魔術が使えないはず。ならば当然、体術、剣術の方向で攻めていくしかなくなる。そうなれば、彼の得意分野だ。こうして飛び跳ね攻撃、飛び跳ね攻撃を繰り返して行けば、アリシアの支援魔術も、自分でバフをかけるという手段もある彼が、魔術も使えない相手に負けることはない。
例えるなら重量級ファイター対、軽量級ファイターハンデありの対戦のように、一度でも攻撃を当てさえすれば相手を詰ませられるのだ。数撃ちゃ当たる戦法が通用するなら、当然そうする。
(ろくに運動もしてなさそうなアイツに避ける術はねえ……。女1人になれば後は楽だ)
ガランの攻撃が、勢い良く地面へと突き刺さる。
衝撃波が伝い、リズは少しその身を後方へ。若干恐怖を感じつつ、戦闘の様子を引き続き見守る。
まあ今のが当たっていれば普通に死んでいる威力だったが、彼にそんな攻撃が当たるわけはないと、リズは見抜いていた。
「ててて……勢い良すぎて固まってたぜ……でも、まあ」
悠は当然、立っている。
それも、ただ立っている訳では無い。ガランの渾身の一撃を、しっかり防いだ上で、だ。
「センキュな、シャル」
「当然、です。ユウさんが創った魔術なんですから……!」
ガランは驚愕した。
深い理由ではない。というかそこまで考えられない程に、彼の頭は混乱している。
……こんな落ちこぼれが、攻撃を防いだ。最大威力、空からの急降下の、実戦ではとても使えない攻撃を。避ける事が普通の攻撃を、正面から。
しかも、剣など使っていない。ただ悠が持つのは、大きな爪のみ。
若干震えつつ悠が手に持ち構えているのは、クマのぬいぐるみ。
その鋭利で巨大な爪が顕となって、ガランの攻撃を防いでいた。それも、人体ではありえない程の力で。
悠を守るため、咄嗟にシャルが飛ばしたのだ。それを見越していた悠は即座にぬいぐるみを掴み、防御手段として使った。本来であれば避けても良かったのだが、早いうちに見せておいた方が、悠としても都合がいい。
バカな、と、現実を受け入れられていないガランは呟く。こんな小さなぬいぐるみに、剣の天才と持て囃された自分の攻撃が。
舐めた目でなど見られない。よもやこれが禁術か。
思考を巡らせるガランに、特に驚いていない様子のアリシアが言った。
「ガラン、大丈夫。あたしが支援するから、あなたも支援魔術を自分に掛けて、さっきの攻撃を繰り返して。固い防御を着実に崩していけば、隙が出来るから」
「お、おお……」
余りにも落ち着きすぎているアリシアに少し違和感を感じつつ、ガランは言われた通りに自分に身体能力の強化魔術を掛けた。
アリシアは悠に向けて、3発の炎の初級魔術を放つ。悠はそれを躱し、更に距離をとった。
悠はアリシアを睨み、シャルを庇うように立つ。
お互いに、打つ手は分かりきっている。悠はアリシアを、ガランはシャルを、という風に、遠距離攻撃が使える相手を狙うだろう。となれば、いかに相手を思惑通りにさせないかが重要視されてくるのだ。
故にこの闘い、現在不利なのは悠の方である。ガラン達が豊富な魔術により、多数の攻撃・妨害選択肢を持つのに対して、悠達の攻撃手段はクマのみ。ガランたちが2人ともシャルを狙ってくれば、防ぎ切るのは難しいだろう。
ガランがニヤリと笑い、跳ぶ。してくる攻撃は分かっていると言えども、ガランのそれはやはりどうしようもなく強力だ。
「シャルっ!!」
「はいっ!」
シャルによって、空中にいるガランめがけてクマが跳ぶ。
そして悠は、初級魔術を弾幕のように放つアリシアに向けて走った。
模擬戦はまだ続く。
強敵相手に、悠達はそれぞれの方法で、正面切って立ち向かう。
リズの好奇の目はしっかりと、アリシアの魔術を全弾避けながら走る悠を捉えていた。
(どちらが勝つか……か。考えても無駄だろうが、たぶん、今回もツルギくんが何とかしてしまうんだろうな)
その予想が、当たるのか外れるのか。
この場に居るものは、未だ誰も知らない。
宣伝ばかりでなんなので、もう少し自重しようと思います。
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