15話 模擬戦は波乱の予感
ちょっと進みが遅いですね。
もう少し頑張ろうと思います。
いよいよ模擬戦当日、である。生徒たちは、校庭にて集まっていた。
悠を入れて、光輝館、黒鉄館、緑華館の総勢1092名が一堂に会するのは、今日が初めてだ。悠は周囲の喧騒をよそに、シャルと魔術の確認を行っている。
『マリオネット』が完成してから2日、悠達は、出来る限りの事はやって来た。
この魔術はその自由度の高さ故に、逆に自在に動かすにはある程度の修練を要する。幸い悠という魔術の創者本人がいるため、この2日間でシャルと悠は、ぬいぐるみのコントロールだけを練習してきた。
弱点を克服したシャルは、悠も驚くほどにメキメキとその腕を伸ばしていったのだ。そのおかげで、たった2日の修練でもうある程度の小回りも効くようになっていた。
さて、伝統の中での模擬戦のルールは、俗に云うトーナメント形式である。
2対2のタッグバトル。教師が許す範囲であれば、何を使ってもいい実戦形式だ。ちなみにこのルールは、生産専攻の生徒との釣り合いをとるための救済措置である。
学年ごとに行われ、ある程度実力の釣り合う相手と組まれている模擬戦だが、やはり完全に実力差がない状態で戦いを始めるのは難しい。特筆して強いチームが何グループか存在する。
その中でも特に――悪い意味で注目を集めるのは、男と女の混合タッグ。
「ちぇ、最後かよ。どうせ俺らが勝つんだからァ、もっと早くやりたかったぜ」
「まあまあ、仕方ないじゃん! 雑魚どもの戦いを見て楽しむのも良いってもんでしょ」
ガラン・ルーミス、アリシア・グレイスたちは、余裕を全面に出してベンチの上に居座っていた。
どちらも貴族家の跡取りであり、武勲で身を立てた家の血を継いでいる。ガランは剣術、アリシアは魔術をそれぞれ得意としている事は有名だ。
特にアリシアは、幼い頃に魔術の大会で最年少優勝を果たしている天才児。その実力は国王直属の魔導師団からも買われており、卒業後はその道に進むことが決まっている。
だが、ガランも負けてはいない。幼い頃の剣技大会では、自分の2倍も図体がある剣士たちを相手に勝ち抜き、準優勝を勝ち取った。その力の及ぶところは剣だけにとどまらず、学院でも10人しか使いこなせない最上級魔術の使用が可能だ。
驕り、増長してしまうのも仕方ないほどの腕を、彼らは持っている。
……そして、その対戦相手は。
「……すみませんユウさん、わたしもう帰っても良いですか? 緊張で、は、吐きそう……」
「奇遇だなシャル、俺もそうしようと思ってたトコなんだ。よし、今ならこっそり帰ってもバレないだろ。帰って一緒にゲームしようぜ」
「ちょっと!! 何帰ろうとしてんのよ!」
周囲の圧倒的格上タッグをいくつも見、完全に心を折られたシャルと、当然のように帰ろうとする悠、そしてそれを引き止めるルミ。
ルミを除いたこの2人が、ガラン達の対戦相手だ。
先の努力は何だったのか、帰ることに一切の躊躇がない悠。別にこれも、ガラン達に中途半端に喧嘩を売っちゃったけどあまりに怖いウワサを聞きすぎて当日になって怖気づいたとか、そういうのではない。単に、緊張で声も上手く出ていないシャルを気遣ってのことである。
「シャル、あんたは良心だと思ってたのに! 当日になってやっぱりやめましたなんて、通るわけないでしょうが!」
「ち、ちが、わたしは、その……」
「やめてやれよ。シャルは俺が巻き込んだんだ、いじめたら許さないぞルミ」
悠の強い言葉に、ルミは直ぐに頭を下げる。
明らかに悠が悪いのになんか和解した感じになっているこれは、最早彼の才能の1つである。
「ご、ごめん、言い過ぎた……」
「今度から気をつければいいよ。……さあシャル、行こうぜ」
「メリカですか? それとも、スメブラですか? わたし、戦闘力結構高いですよ」
「言わなくてもあんたら帰る気ね! シャル、魔術が使えるようになってメンタルが強くなったのはいいけど、それは明らかに間違った方向の進化よ!」
『はーい、お前ら五月蝿い。全員、朝礼台にちゅうもーく』
ルミの声に被って、放送が響く。
気だるげな印象を受けるその声は、教師としてはあまりに相応しくない。しかし、生徒たちの喧騒はどこへやら、もう既に校庭は静まり返っている。ルミすらも何も言わない。
何かあったのか、と、悠は思う。それ程の異常さだった。
朝礼台の上に立つのは、短い茶髪にローブを着込んだ、正に魔術師風の若い男性教諭だ。失礼ではあるが、彼のどこに生徒たちを一瞬で静寂に包むほどの威厳があるのか、悠には分からなかった。
『えーそれじゃ、これから『学館対抗・最強決定トーナメント予選』を始める訳だけど。特に言うこともないんで、早めに始めて早めに終わらせてね。俺は寝るから』
そう言って軽く一礼すると、その教諭は一瞬にしてどこかに消えた。
……何だったんだ。
生徒たちの意見が、一致する。
先ほどの教諭が去ってから、苦笑しながら出てきたのは、茶髪のボブヘアーにこれまたローブを着込んだ、まっとうに魔術師風の女性。
『あはは、ありがとうございましたー……えーと。じゃあ、戦闘に関するルール確認は必要ないと思うんで、簡単にいろいろな説明だけ。戦闘は、リズ先生が出してくださる異空間で行われます。決勝に勝ち残った5組が本戦出場。まあ、色々なお偉いさんが見に来る試合に出られますので頑張って』
……悠の心を不安の雲が覆った。
この学院統率取れてないけど大丈夫か、いやそれ以前に、もう帰ってゲームしちゃおうかな。
しかし、逃げ出すわけにはいかない。隣に立つシャルは、もう覚悟を決めているようだった。こいつ裏切りやがってと悠はシャルを睨みつける。
そんな悠をちらりと見たシャルは、くすりと笑うと。
「……勝ちましょうね? ユウさんっ」
「あ、うん」
からかうようなシャルの笑顔に、悠は一瞬で絆された。
色々とありがとうございます。




