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14話 願い叶うとき

情景が浮かぶ文章にするため、過去話をかなり修正しました。試験のところに謎解き要素とか入れたので、もしよければ見に行ってやって頂けると幸いです。

 リズが創った異空間に、いつものメンバーにシャルを加えた4人は集まっていた。 

 悠の言葉に異様なまでに動揺していたリズだったが、今はもう収まったのか、不敵な笑みを浮かべながらシャルを見ている。かたやシャルはというと、リズの視線に怖気づきながら、手に持つくまのぬいぐるみを抱きしめていた。

 かわいい。

 悠は無言でそう思う。白髪おずおず系美少女は悠のタイプなので仕方ない。悠は紳士、好む範囲が広いのだ。


 「……それで、ツルギくん。彼女が見せてくれる魔術とは、一体全体どんなものなのかな?」

 「あ、あの、ユウさん。わたしも、その、いきなりは自信が……」

 

 リズが見る先が悠に変わり、シャルは弱音を吐きつつ涙目で悠の袖をそっと掴んだ。

 当然である。悠が創っていた魔術はオリジナルで、未だ誰にも見せていないのだから。

 だが悠は、シャルなら()()を使いこなせると確信していた。それ故に、笑みで答える。


 「シャル。そのクマのぬいぐるみは、俺がさっき渡したものだな? どこか気になるところはあったか?」

 「は、はい。とっても可愛いと思うのですが……その、某所某所で少しゴツゴツしてるのが、ちょっと気になります」

 「はは、ありがとう。実を言うとそれは、ルミの部屋にあったものを、デザインはそのままに俺が改造したものだ」

 「ちょっ!?」

 

 悠の衝撃の告白に、ルミが涙目でぽかぽかと肩を叩く。


 「何言ってくれてんのよ! あああああたし知らない! こんなぬいぐるみ知らない!」

 「それじゃあこれはもらってもいいな。後で直して返すつもりだったんだが」

 「そ、それは困……じゃなくて、べ、別に!? それは私のものじゃないし勝手にすれば!?」


 ルミのぬいぐるみは正直なところとってもキュートで、気の強い彼女が持つようなものではない。しかしそういうタイプの少女が実は裏で可愛いもの大好き、というのは良くあることなので、悠は別に驚いても居なかった。 

 こっそり部屋に侵入して勝手に盗ったことは内緒だ。

 悠は涙目で変わり果てたぬいぐるみをチラチラ見るルミに苦笑しつつ、シャルに紙を渡す。何かの文章が書かれたその紙には、何度も消した跡が鮮烈に残っていた。


 「これを唱えてくれ。あ、ぬいぐるみはちゃんと持ってな」

 「は、はい! ……えと……」


 シャルが、目を瞑った。

 3日前、初めて悠達の前で魔術を実演した時もやっていたことからして、精神統一の一環らしかった。魔術を唱える時の彼女は幻想的な雰囲気で、まるで神事を執り行う巫女のように美しい。

 リズは気づいた。先ほどまでと何かが違う。シャルが常に持て余し、漏らしていた魔力が、手のまわりに集まっている。


 (これは……どういうことだ? コントロールすらままならなかった彼女の魔力が一点に……ユウくん、いったい何を?)


 考えながら、リズはルミの顔に視線を戻した。


 「『いのちの芽吹き、星の銀河。たった今ここにて、創生の儀を執り行う。創られし小さないのちが宿りし後に、かの者我を救うだろう』……。


 眼を開けたルミは、思い切り声を張りあげた。

 これまでの全てを、このぬいぐるみに込めるかのように。


 


 「――『マリオネット』!」




 その瞬間。

 彼女が持つクマのぬいぐるみが、淡い光を放ち始める。それはまるで命の誕生を祝う星のように、ゆっくりと、蒼くぬいぐるみを包んでいった。


 (バカな……魔力反応ッ!?)


 リズが感じ取ったのは、紛れもない魔力。

 それも、先ほどまで何も感じなかったぬいぐるみからだ。

 ……悠の言葉が、真実であった事を悟る。

 同時に、リズの全身を興奮が駆け巡った。それはエネルギーとなって、彼女の頬を紅潮させる。


 (ああ……ッ……僕は今! 新たな魔術の誕生に立ち会っているっ!)


 ……薄々皆感じてはいたが、彼女はちょっとこだわりが強いタイプの変態だった。

 リズの興奮に呼応するように、クマのぬいぐるみがシャルの手から離れる。そして、地面にぽとんと落ち……。

 ることはなく、立った。ぬいぐるみが。


 「ぬいぐるみが……立ってる!?」

 「お、ちゃんと成功してるみたいだな」

 「ウソ……わたし、魔法を!?」


 シャルが手を祈りの形に組み、笑みを浮かべる。

 今まで見せることのなかった、心からの笑顔。シャルが、魔法をどれだけ使いたがっていたのかが感じ取れた。悠の心は癒やされ、思わず笑みを浮かべた。

 ルミはシャルとともに喜びながら、クマに目をやる。


 「でも悠、これって何のまじゅ……!?」


 ぬいぐるみが、手を合わせてぴょんぴょん跳ねている。

 ……ルミは、恐る恐るシャルを見た。


 シャルも、手を組んで、その場でぴょんぴょんと跳ねていた。

 ――悠が当然のように言い放つ。

 

 「『マリオネット』。モノを遠距離で操る魔術だ。術者の魔力に呼応して、術者と同じ動きをする」

 「え……えええええええええええええええええええええええええ!?」


 ルミの叫びが、異空間に響いた。

 当然、ではある。悠がたった3日で完成させたのは、この世界で長年研究されてきた『操作する魔術』なのだから。

 この世界の魔術は、操作することが出来ない。魔術は魔法陣と呼ばれる、高度な式によって完成される故に。

 魔術ごとに、決まった結果以外を出すことが出来ないのである。

 しかし、悠の創った魔術は異なる。術者が動けば、対象も動く。これがどれ程大きな文明の発展なのか、そこにいる誰にも図り知れなかった。


 「ちなみに、意識すれば意識だけで動かすことも出来るぞ。シャル、細かい使い方は俺が教えるよ」

 「あ、ありがとうございます! 本当に、ありがとうございますっ!!」

 「ちょ、ちょっと待ちたまえツルギくん! 君の創った魔法陣、明らかに普通の人間じゃ使いこなせないものじゃないか!」


 悠のメモを見ていたリズが、困惑しながら叫んだ。

 リズが云うのは、魔術を使うための消費魔力があまりに大きすぎる、ということだ。

 通常、魔術は1回の使用ごとに一定の魔力を消費する。これは魔術が魔術である以上消えない理であり、常識である。

 ところが悠の『マリオネット』は、()()()()()()()()()()()魔術。普通の人間が体内に溜めておける魔力量では、すぐに使い切ってしまう。


 「それが、シャル(この子)の持つ才能なんですよ。……シャルは、魔術が使えないんじゃない。シャルに適合する魔術が、この世に存在しなかっただけです」

 「ど、どういうことだい?」

 「見ていて分かりました。初級魔法のはずのウォーターボールが、俺から見ても余りに巨大なものにまで変化していた。魔術に使われる魔力は常に一定、という理のせいで、シャルはこうなっていたんです。()()()()()()()()()()()()()。それが、シャルの魔術の不発の原因です」


 悠は、シャルの手を握った。

 温かく大きな男の手に、シャルは思わず顔を真っ赤に染め上げる。真っ白な髪の毛と正反対だ。


 「母数が多ければ、同じ量を込めたつもりでも、当然魔力は多くなる。しかし、魔術は正しい魔力量でなければ正常に発動しない。なら当然、失敗する」

 「じゃ、じゃあ、何故『マリオネット』は正常に発動するの!?」

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだよ。魔力の調節が必要ない上、溜めておける魔力が多いシャルは再び魔力を集める回数が少なくて済む」

 「……あ……」


 ……シャルにとって、魔術が使えないのは『当たり前』だった。

 幼少期から、彼女は周りと違っていた。いくら頑張っても、一流の家庭教師に教わっても、一向に魔術は成功しなかった。

 この学院に入ったのは、もしかすれば、自分を変えてくれる人に出会えるのではないか、という希望からだった。けれど、やっぱり魔術は使えなくて、諦めていた。

 悠に出会うまでは。

 最初は、魔術が使えたことに喜んでいた。しかし、『マリオネット』を使って分かった。

 極限まで練り上げられた術式。そして、()()()()()()()()()()()()()感触。

 悠が創ってくれた、自分だけの魔術。


 「……う。……うぅ……」


 涙が、シャルの頬を伝う。

 気づけば、シャルは泣いていた。歯止めのきかない涙がぽろぽろと垂れる。


 「あ……ありがどう、ございまず……! ユウざん……!!」

 「……全然。どうせ暇だったし」

 「……あんた、もうちょっと気のきいたこと言えないの?」




 やがてワイワイし始めた3人を見て、リズはふっと笑った。


 (学生時代に戻りたいなぁ……)


 そんな彼女が報われる日も、きっといつか来るのだろう。

 悠の努力も、明後日の模擬戦できっと報われるのだから。

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