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12話 天才、閃き

 「ユウ、言っておくけど。あんたはホントに、ほんっとーの大馬鹿よっ!」

  

 悠がガランに、堂々の宣戦布告をした後。

 放課後の光輝館には、殆ど人が居ない。多くが町に出、遊びに行っているからだ。

 そんな静かな光輝館にて、ルミと悠、そして顔を前髪で隠して俯くシャルは、談話室で共に過ごしていた。

 ソファーに座り、クッキーをぽりぽりかじりながら、悠はルミに言い返す。

 

 「何だよ。ただ、あんな奴らに言われただけで出場を辞めることはねえって言っただけだろ」

 「それだけじゃないでしょ、あんたがしたのは宣戦布告! この学園内だけじゃなく、外部にすら多大な影響力を持つ公爵家の跡取り息子、ガラン・ルーミスに喧嘩を売ったの!」


 ルミが大声で騒ぐ中、悠は興味なさげにまたひとつクッキーを口に運んだ。

 ――ルーミス家。ヴァハロア王国でも知らない者は居ない程に、強大な権力を持った貴族家である。王国建国時から内政に携わる由緒ある家系でありながら、その周囲には禁術の使用や利を狙った非合法ポーションの取引など、黒い噂が絶えない。

 しかし腐っても貴族。その跡取り息子であるガランも当然、その権力で学院内での地位を確立していた。

 ルミも実力はあるが、やはりただの学生。権力に抗う術はないので、ガランは彼女の唯一の苦手の対象だった。

 

 「あんたは頭だけはいいと思ってたのに、どうやら間違いだったみたいね! もしあいつに何かされても、あたしは関係ないからね」

 「……あの……すみません、わたしのせいで。今からでも、ガランさんに謝って……」


 弱気な声で言うシャルに、悠は笑みを向けた。


 「その必要はないから気にすんな。お前のせいじゃないよ、悪いのはあのガランとかいう金髪だ。それにもし何かあっても、関係ない風を装っているこいつにはちゃんと責任とらせるから安心してくれ」

 「な……だからあたしは関係ないって言ってるでしょ!」


 シャルはそんなやりとりに微笑むが、また縮こまり、うつむいた。

 だが、悠はそんな彼女の肩にぽんと手を置く。


 「大丈夫だよ。勝てば良いんだ勝てば」

 「だからそれが難しいから言ってるんでしょうが! あいつの得意属性は風と雷、強属性の筆頭! あいつだけじゃない、取り巻きだって相当の強さを持ってる! 魔術が使えない2人で、どうやって……」

 「出来るさ」


 悠は、ただ一言、それだけ言い放った。

 たった一言なのに、ルミは一瞬、気圧されたように感じた。悠が放った得体の知れない何かに押されるように、後ずさる。

 だが、シャルは違った。悠の力強い言葉に、頬を紅潮させてその顔を上げた。

 ――不可能なんてねえんだ。

 悠の中で何かがそう言った。


 「ルミ、力を貸してくれ。シャル、一緒に訓練だ」


 悠の言葉に、2人は静かに頷いた。



――



 「まず、シャルが魔術を使えない原因を突き止めよう」


 リズの協力で異空間へと来た悠たちは、向かい合って話していた。

 悠は、勝つために自分たちがするべき事を考えた。その結果が、シャルの強化だ。

 悠が魔法を使えないことは前提条件。それは変えられないので、悠が強くなることは実質不可能だ。

 だがシャルは違う。シャルはこの世界の人間だ。少なくとも悠と違って、魔術を使う素質は持ち合わせるはず。

 ならば、シャルが魔術を使えない原因が必ず存在する。それを克服すれば、ガランに勝利するためのカギを得られるのだ。


 「シャル、魔術が使えないっていうのはどういうことだ?」

 「……魔術を使おうとすると、何かの力に妨害されるんです。魔術の大小に関わらず、魔力を込める段階には行けるのに……その先には、行けないというか」


 しどろもどろになって慌てふためくシャルを宥めつつ、悠は今日習ったことを思い返した。

 魔術の使用には段階がある。

 まず魔術とは、空気中を漂う『魔素』と呼ばれる物質をエネルギーに変換。炎や水などの魔法として放出する技術のことである。

 魔力とは、魔素が変換されたエネルギーの事。シャルが言っているのは、魔素を変換することは出来るが、それを放出することができないという事だ。

 魔素を変換出来ているかどうかは、体内を流れる魔力の流れで分かるらしい。こればかりは、悠には良くわからないが。

 悠は顎に手を当てながら、シャルに静かに言った。


 「試しに、何か使ってみてくれないか」

 「え。……は、はい」


 シャルは、手を組み、祈るような体勢をとった。


 『太古の魔よ、そして海の神ポセイドン。そのチカラを以て、聖なる水を我に与え給え』


 シャルの眼前に、水球が練り上げられていく。

 異空間を漂う魔素が収束し、どんどん巨大化する。やがて彼女の身体をも超える大きさになった。

 ルミが後ずさった。ごくりと生唾を飲み込む彼女の額には、脂汗が浮かんでいる。


 「ちょ、ちょっと? どんな大魔法を使うつもりなのっ?」

 「……大魔法?」


 悠が呟いたのと、シャルが叫んだのとは丁度同じタイミングだった。


 「『ウォーターボール』!!」


 水球が、霧散する。

 耳を塞いで居たルミが、ゆっくり目を開け、呆けた顔をした。


 「ウソ……今の、初級魔法? 絶対に上級魔法か何かじゃ……」

 「ど、……どうですか? わたし、ちゃんと出来てました?」

 

 悠は思考を開始した。魔術についてインプットされた情報をもとに、最適な攻略法をシミュレーションしていく。

 彼女の魔術に感じた違和感。肥大化していくそれは、きっと何か理由があるものだ。


 (……魔術は、精密かつ超高度なプログラム。なら、きっと……)

 

 悠の中で、何かが弾けた。

 悠はその勢いのままに、シャルに問う。


 「……シャル。魔術についての過去の文献とか、どこかにあるか?」

 「え? えと……。どの時代まであるかはわかりませんが、光輝館の3階の図書室に、研究用の文献があったと思いますが……」

 「ありがとう」


 悠は礼を言い、異空間から出るためのドアに手をかけた。

 そんな悠に、ルミが黙っていられないとばかりに声をかける。


 「ちょっとユウ、訓練はしないの? 見た感じだと、彼女は訓練して魔術を使いこなせれば絶対に強くなれるんじゃない?もう模擬戦は1週間後なのに、勉強してる暇ないでしょう?」

 「確かに余裕はないけど、決して意味のない事じゃないはずなんだよ」


 そう返した悠の言葉は妙な説得力を含んでいた。ルミは面食らったように口を開いて黙りこむ。

 ……悠とて、これが確実な方法とは言い切れない。この世最高峰ともいえる彼の頭脳でなくとも、この世に『絶対』や『確実』が存在しえないことは理解できるはずだ。

 しかし、やらないよりはまし。彼はただひたむきに、勝利を求めていた。


 「……はっきり言うよ。シャル、お前には一生、()()は扱えない」


 そんな悠はシャルを振り返り、真剣な面持ちでそう言い放つ。 

 シャルは何かを言いかけ、俯く。当然のことだ。彼女の脳裏を諦めがよぎった。

 覚悟は出来ていたのだ。むしろ希望をくれた悠に、感謝してもしきれなかった。


 「……はい」


 ――だが、悠の言葉はそれで終わりではなかった。


 「……だってお前は、もっと別の次元に居る存在なんだからな」

 「え?」


 悠の口から不意に放たれた続きの言葉。しかもそれは、シャルにとってあまりに予想外で、突飛なものだった。思わず生唾を飲み込んで、悠の精悍な表情に見入る。

 別の次元という言葉の意味は分からない。けれど、何故だかはっきり分かった。

 彼ならば、きっと。……変えてくれる。

 

 「お前が持つ才能は、()()()()()じゃ活かせないんだ」

 「そ……それって、どういう……」

 「まあ見てろ。俺が、お前をもっと強くする。……約束だ」


 悠の力強い言葉に、未だ困惑している様子のシャルは。

 押されるように、頷いた。

 

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