11話 天才、宣戦布告
おなかすいた
「えー、それではホームルームを始めます」
静かになった教室。
先ほどまでの争いや喧騒は影もなく、皆がリズ・アストラの言葉を聞いている。
悠の席は1番前の、廊下側の角。彼は頬杖をつきながら、隣の席のルミに小声で話しかけた。
(なあ、ホームルームって何やんの?)
(朝と帰りの時に1回ずつある、先生の話を聞く時間だよ。ていうか、あんたホントに何も知らないんだね……)
悠はうるせえ、と言い返し、リズの方に向き直る。
「まず、今日から入った転入生の紹介から。……ツルギくん、前へ」
リズの言葉に、悠はため息をついた。
当然である。さっき魔術が使えないことを明かし、皆に笑われたばかりなのだ。更になめられるような事を言えば、完全にガランに下だと見られるようになる。
天才でマイペース、人の悪口は基本的に気にしないタイプの悠とて、あまりからかわれるのは勘弁だった。これからの学生生活に支障が出てはたまらない。
「俺の紹介は先生にお任せしますよ」
よって悠、リズに委託。
自分では発言せず、他人に委ねることで、余計なリスクを回避する。例えるならばつまらないギャグしか出来ない高校生が、転校先の挨拶で1発目からド滑りするのを回避するために先生に紹介してもらうのと同じである。
そのような場合なら当たり障りのない事を言うだけで済むものの、悠の場合は違った。先ほどの発言があって、クラス全体の空気は悠に敵対的なものとなっている。魔術が使えないことを明かしたのはちょっとミスったかもな、と悠は思う。
そしてリズもそれを察したらしく、特に何も言わずにため息をついた。
「……そこの彼はユウ・ツルギ。17歳だ。彼は先の試験において、僕が用意したトラップルームから見事脱出。更にその頭脳で、魔法を一切使わない、ファイアドラゴンの無力化に成功した。……何だか彼について良くない空気が漂っているようだが、彼はそれなりに実力者だよ」
生徒たちが、ファイアドラゴンの無力化、と聞き、顔色を変えてザワザワしだした。
だが、ガランの睨みに、すぐ縮こまって黙る。
(このクラスのボス格はガラン。まあ、当然だわな)
悠はため息をつき、自分に対する悪意の視線がそう簡単に変わらない事を察した。
魔術が使えない、というのは、この世界において非常に大きなハンディになる。生徒の誰かが言っていたが、この世界に産まれた者は、子供ですらも魔術が使えるのだ。
悠の場合は、別世界の人間である故に、魔術を使うための器官が備わっていないのではないかと予想していた。ならば当然、魔術など使えるわけがない。
皆が使えるものを、自分だけが使えない。たとえそれ以外の部分が優れていたとしても、なめられるのは仕方がないことだ。加え、ここは魔術学院の魔術専攻なのだから。
(ツルギくん、すまない。僕じゃこの空気は変えられないみたいだ)
リズは内心で悠に謝罪し、ため息をついた。
リズとて、悠の実力は把握している。それどころではない。根っからの研究者気質である彼女は、悠の頭脳に並々ならぬ好奇心を持っていた。
だが、彼女も教師である手前、あまり1人の生徒に肩入れする訳にはいかない。
なので、話を変えた。
「えーと、先ほどの放送でも言ったけど、『学館対抗・最強決定トーナメント』が、もう2週間後に迫っています。……君たちは初めてだと思うので、先に説明しておくと」
リズが言うには、こうだ。
2週間後に開催されるのは、各学館で代表選手を決め、トーナメントによってその年の最強の学館を決めるイベント・『学館対抗・最強決定トーナメント』。
代表選手は各学館で男女混合10人ずつ。そしてその代表選手を決めるための予選がある、という事だ。
「最強の学館を決める大会である以上、その出場者には当然強者が選ばれることとなる。故に、予選の方法は生徒同士の模擬戦だ」
「センセー、質問だ」
椅子に偉そうに座り込んだガランが、やる気なさそうに手を挙げる。
そしてニヤリと笑うと、舌を出しながら言った。
「魔術専攻に居ながら魔法が使えねえどっかの2人も、予選に参加させてやるのかぁ? ちょっとそりゃあ酷な気がするんだけどなァ?」
2人。
その数字に、悠は引っかかった。1人は自分だとしても、他にも魔術が使えない奴がいるのか?
悠が振り向くと、そこには縮こまる少女がいた。
白い髪を長く延したその少女の顔は、前髪でよく見えない。だが、肩が小刻みに震え、耳が真っ赤になっていることは分かった。
……この子も、魔法が使えないのか。
悠は、直感的にそう察した。
「……大会に出る権利は、皆に等しくある。当然、本人に辞退の意思がない限りは、予選にも参加してもらうよ」
「だろうな、センセーならそう言うと思ったぜ」
落ち着いて答えたリズに、ガランが挑発するように頷く。
(ここをこう動いて、こうパンチを入れて、更に追い詰めてタイキックを……)
リズは一見興味ない風を装ってはいるが、内心でガランをぶん殴っていた。
「ちょっとレットーせー、先生がこう言ってるよー? 少しでもアタシたちが大会に出やすくなるように、辞退したらぁ?」
ガランの隣に座る金髪ギャルが、前の席の女子生徒とくすくす笑いながら言った。
悠はといえば、別に腹も立たなかった。自分の意思でやめるなら別だが、彼らの言葉に左右される気はない。第一、生徒同士の対抗戦なんて学校の代名詞みたいなものを逃すわけがない。
……だが、彼女は違う。拡大していく『魔術が使えないゴミは大会に出るな』の風潮と、ザワザワ声により、白髪の女子生徒が耐えられず恐る恐る手を挙げた。
「……なんだい、シャルくん」
「あ、あの! ……わたし、その、大会、辞退し……」
挙げられていたシャルの手を、悠がそっと掴んだ。
そして、そのまま机に下ろす。困惑するシャルに、悠はニヤリと笑いかけた。
「まあ待て、シャル……でいいんだよな?」
「え、あの、なん……」
「俺だけが出るとか、勘弁してくれよ。魔術が使えない仲間がいるんなら、一緒に出てくれた方が心強いじゃねえか」
悠は、黙って事の成り行きを見守っていたリズに言う。
「リズ先生。模擬戦の形式は?」
「本戦と同じ、二人一組のチーム戦だ。チームメイトは各自で決めてもらう。一応、戦う相手はこちらで決めさせてもらうが……」
リズは笑った。こいつならこうすると思っていた、とでも言う風に。
「君たちに望む相手がいるのなら、まあ決めさせてやる」
悠とリズは、お互いにニヤリと笑い合う。
シャルは……涙目で困惑していた。嫌な予感が彼女を襲う。
「え、あの、その……」
「ガラン、だったっけ」
ガランの方に向き直った悠は、その指をビッと突きつけた。
いよいよ喧騒が深まる。ランもキースも、固唾を飲んで悠達を見守っている。
悠は、額に青筋を浮かべたガランに言い放った。
「勝負だ。模擬戦の相手、頼むぞガラン!!」
「いいぜ雑魚が、掛かってこいよ! お前、後悔すんなよ?」
「え、ええええええええええっ!?」
シャルの悲痛な叫びが、教室にこだました。
いよいよ悠VSガラン! お楽しみに!
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