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普通の大学生がDWバースの世界にトリップしたら、速攻で探偵に運命の番認定されました【 BL・R15版】  作者: 鳴神楓


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7.食生活の危機

「ほら糸田川さん、手を止めないで!

 そこ、拭き掃除まだ終わってませんよ!」

「う、うん……!

 向井くんは手際が良いね……!」


 雑巾を手にタジタジになっている糸田川さんをハッパを掛けながら、二人掛かりの大掃除が始まった。

 雪崩を起こしていた本や書類をジャンル別に分類し、散乱していたペットボトルや紙くずをゴミ袋へ放り込んでいく。

 生活能力ゼロの探偵先生は、僕が指示を出すたびに「なるほど、素晴らしい手際だ!」と感心しながらオロオロと動き回っていた。


 数時間後。

 なんとか床が見え、ソファやデスク本来の姿を取り戻した部屋で、僕は大きく息を吐いた。


「ふう……!

 一応、形にはなりましたね」

「素晴らしい……!

 我が事務所が見違えるようだ!」

「喜ぶのはいいですけど、今後は維持してくださいね」


 時計を見ると、すっかり夕飯時だ。

 体を動かしたおかげで、急にお腹が空いてきた。


「お腹空きましたね。

 夕飯の材料とかあります?」


 そう言いながら、僕はキッチンの隅にある冷蔵庫の扉を開けた。

 しかし──。


「……え?」


 中にあったのは、整然と並べられた500mlのミネラルウォーターとゼリー飲料、プロテイン飲料。

 それからなぜか、カロリーメイトの箱とマルチビタミンのサプリメントが冷えているだけだった。

 肉も野菜も卵も、ソースやマヨネーズといった調味料すら一切入っていない。


「ま、まさか……糸田川さん、普段の食事っていつもゼリー飲料とカロリーメイトなんですか……!?」

「うん」


 堂々と胸を張って頷く糸田川さんに、僕は眩暈めまいがした。

 どうりで顔色が青白くて不健康そうなわけだ!


「もう! そんなんじゃ体壊しますよ!

 自分で作れなくても、外食するとかお弁当を買うとかあるじゃないですか!」

「それはそうなんだが……どうせ味がしないからね。

 何を食べても同じだと思うと、食べるのが面倒になってね」

「……はい?

 味がしない……?」


 首をかしげる僕に、糸田川さんは困ったように眉を下げた。


 詳しく話を聞いてみると、Dという生き物は「Wに世話を焼いてもらうこと」を前提とした本能を持っているらしい。

 そのため、W以外の人間が作った料理や市販の食べ物は、砂を噛んでいるかのように味を感じにくいという恐ろしい特性があるのだという。


(なにその超めんどくさい体質……!

 Wに養育されないと生きていけない赤ん坊かよ……!)


「なんて厄介な体質なんですか!

 ……もうっ、仕方ないから僕が何か作ります!

 近くにスーパーとかコンビニはありますか?」

「それなら、すぐ近くにミニスーパーがあるよ。

 一緒に行こう、向井くん」


 2人でマンションを出て、近くのミニスーパーへ行く。

 調理器具すら皆無だったため、カット野菜、豚の細切れ肉、卵といった切らなくていい食材と、レトルトのご飯、最低限の調味料に加えて、小さなフライパンと菜箸もカゴへ投入する。

 会計は糸田川さんのクレジットカードで済ませてもらい、僕たちはパンパンに膨らんだ大袋を両手に抱えて帰宅した。


 急いでキッチンに立ち、ちゃっちゃとフライパンを振るう。


「僕もそんなに料理が得意なわけじゃないですからね!

 味は期待しないでくださいよ!」


 そう言って完成させたのは、ごく普通の目玉焼きが乗った豚肉と野菜の炒め物と、液みそに乾燥ワカメと乾燥油揚げを入れてお湯で溶いたお味噌汁。

 ご飯は炊飯器がないのでレトルトをレンジで温めたものだ。

 かなり手抜きなので、どこまでが「Wが作った料理」扱いになるかはわからない。


「さあ、できましたよ。どうぞ」

「いただきます……!」


 糸田川さんは、まるで神前の供え物を拝むような神妙な面持ちで箸を取った。

 そして、肉野菜炒めをひとくち、口に運ぶ。

 次の瞬間──。


「ッ……!?」


 糸田川さんが、まるで電撃に撃たれたかのように固まった。

 目を大きく見開いてフリーズしたかと思うと、今度は猛烈な勢いで肉と野菜を口へ押し込み始めた。

 豪快にご飯をかき込み、お味噌汁をぐっと飲み干す。


「い、糸田川さん!?

 落ち着いてください、喉詰まりますよ!?」

「す、すごく美味しい……っ!

 美味しいというのは……こういうことなのか……!」


 なんと、糸田川さんの目からボロボロと涙がこぼれ落ちていた。


「他のDから『Wの作ってくれたご飯はちゃんと味がする』とは聞いていたけれど……これほどとは……!

 こんなに温かくて、味わい深くて、美味しい食べ物を食べたのは……生まれて初めてだ……っ!」


 糸田川さんは、号泣しながらご飯をモグモグと頬張り、僕の手を両手で包み込んで深々と頭を下げた。


「ありがとう、向井くん……!

 君は僕の命の恩人だ……!」

「大げさですよ!

 ただの炒め物とお味噌汁なんですから……!」


 あきれつつも、涙を流して自分の料理を「美味しい」と食べてくれる姿を見ていると、胸の奥がじんわりと温かくなってくる。


(まったく……手間のかかる名探偵(D)だなあ)


 泣きながらバクバクと食べていく糸田川さんを見守りながら、僕は密かに「明日は炊飯器とまともな調理器具を買いに行こう」と心に決めるのだった。


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