4.パラレルワールド
こんなとんでもないことになっている最中に何だけど、この辺りで自己紹介をしておこうと思う。
僕の名前は向井 希。
都内の某私立大学に通う、ごく普通の大学生だ。
好きなものはミステリ全般。
小学生の時に某有名ミステリアニメにハマり、そこからマンガ小説ドラマ映画などのミステリを読んだり見たりしまくって、今では立派なミステリマニアだ。
子どもの頃はミステリの主役である探偵や刑事に憧れて、自分も大人になったら探偵や刑事になりたい!と思っていたけれど、成長するにつれて現実の探偵は事件解決なんかしないことや、刑事になるのもチビで体力も人並み以下の自分には厳しいという現実がわかってきて、早々に諦めてしまった。
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そういうわけで警察官になろうとは思わないものの、警察官や警察署に憧れはあったのだが、まさかその憧れの場所にこんな形で来るとは思ってもみなかった。
パトカーで渋谷署に連れてこられた僕は、小さな会議室に案内される。
「どうぞ、座ってください」
僕をハチ公前広場からここまで連れてきた警察官にそう言われ、僕の左手を握ったままの男の方をチラッと見たが、手を離してくれそうになかったので、諦めてそのまま椅子に座る。
男も僕の方に椅子を引き寄せつつ、隣に座った。
「改めまして、渋谷署の溝口と申します。
あなたのお名前を教えてもらってもいいですか?」
「あ、向井希といいます」
「向井さんですね。
ちなみにそちらの方は、 糸田川 久智さんです」
溝口さんは僕の手を握ったままの男も紹介してくれたが、それは別にどうでもいいと思う。
「さてと、では色々と説明しますね」
そう言いながら溝口さんは大きめのディスプレイに接続したパソコンを操作してパワーポイントで作られたらしい「異世界転移者用解説」という表紙の画面を呼び出した。
「まず大前提として、この世界は向井さんが生まれ育った世界とは別の世界です」
溝口さんがそう言いながら出した次の画面には大きく「異世界」「パラレルワールド(平行世界)」と書かれていた。
「ああー、パラレルワールドかー」
それを見た僕は思わず納得の声をあげる。
パラレルワールドとはSFなんかで見かける、元の世界に平行した時空に存在する、元の世界とちょっとだけ違う世界のことだ。
この世界が異世界という割には普通の日本にしか見えないと思ってたけど、パラレルワールドならそれもあり得る話だ。
「あ、パラレルワールドご存知ですか?
それは話が早くて助かります。
向井さんの世界では異世界とパラレルワールドは別物らしいですが、こちらではパラレルワールドは異世界の一種という扱いです」
「と、とにかくここが別の世界だということはわかりました」
信じたくはないけれど、モザイクに囲まれて渋谷に移動したことや、その時の周りの人の反応から考えても、そのことは受け入れるしかない。
「それで、僕は元の世界に帰れるんでしょうか?」
「いえ、残念ですが……。
この世界には毎年世界中で数人から数十人の異世界転移者がやって来るのですが、今まで元の世界に帰った──というか、やって来た時と同じような不思議な現象を伴って消えた人はいません。
記録がある限りでは、みなさんこちらの世界で亡くなっています」
「えっ、そ、そんな……」
はっきりとそう言われ、さすがにショックを隠しきれない僕に、溝口さんは慌てた様子でフォローを入れる。
「元の世界に帰るのは無理ですけど、異世界転移者は国が保護していますから生活の心配はありませんよ。
それに僕たち警察や、そちらの糸田川さんも出来る限り向井さんの力になりますから」
(……いや、国や警察が力になってくれるのはありがたいけど、この変な人の力を借りるのはちょっと)
反射的にそんなことを思ってしまい、そのおかげでちょっと冷静になれた。
ショックはあるけれど、元の世界に帰れないというならば、今はとにかく溝口さんの説明を聞いて、この世界のことをきちんと把握すべきだろう。
「取り乱してすいませんでした。もう大丈夫ですから、お話を続けてください」
「わかりました。
この世界は向井さんの世界とほとんど変わらないのですが、一つ大きな違いがあります。
それはDとWの存在です」




