3.は? 運命の人?
(は? 運命の人? 何それ?)
突然わけのわからないことを言われて最初は困惑したものの、そのうち男の異様にギラギラした目付きと僕の手を握る力の強さに何だか怖くなってきた。
「あの、何のことかわかりませんが、とにかくこの手を離してもらえませんか?」
「嫌だ」
僕の当然の要求に、男は即答する。
(ええー、嫌ってそんな……)
困って味方になってくれそうなさっきのおばちゃんの方を見ると、おばちゃんはさっきの僕に同情している様子はどこへやら、何やら微笑ましいものでも見るような表情で、困っている僕に「良かったわね」とでもいうように微笑んでうなずいてみせる。
おばちゃんも僕の味方になってくれなさそうで、ますます困っていると、また「はいはい、ちょっと通してください」と声がして、誰かが人ごみをかき分けてきた。
また変な人が来るんじゃないかと身構えていると、新たにやって来たのは制服を着た警察官だった。
(助かった! 警察ならこの変な人をなんとかしてくれるよね)
そう思って事情を説明しようと僕が口を開くよりも早く、その警察官は僕の手を握っている男の顔を見て「あれっ」と驚いた声をあげた。
「えっ、糸田川さん?
なんで警察よりも早く来てんですか?」
どうやら男と警察官は顔見知りだったらしい。
糸田川と呼ばれた男は、僕の両手を握るという変態行為をしているにも関わらず、堂々とした態度のままで警察官に答える。
「それは勘……いや、運命だね」
「あ、そうですよねー。
D予備軍が異世界転移の現場に駆けつける理由なんて、運命以外にないですよね。
じゃあこの人が糸田川さんの番ということで間違いないですね。
おめでとうございます」
なんだか訳の分からないことを言っているが、どうやらこの警察官も男の味方らしい。
あまりの状況に途方に暮れそうになったが、それでも相手は警察なんだから僕が困っていることをちゃんと伝えれば助けてくれるはずだと思い直す。
「あの!
助けてください、さっきからこの人が僕の手を握って離してくれないんです」
僕がそう言うと、警察官は困った顔になった。
「えー、あなたがそうおっしゃる気持ちはわかるんですが……」
そう言うと警察官はわざとらしく咳払いをした。
「とにかく、署の方で詳しいことを説明しますからご同行願えますか。
……その手を握ってる人は、しばらくすれば落ち着くと思うので、申し訳ありませんがもうちょっと我慢していただくということで」
「ええっ、我慢ってそんなぁ」
「いやー、すみませんねぇ、まあとにかくこちらへ」
口先だけで謝る警察官にうながされ、公園の外で待っていたパトカーに乗せられて、僕は男に手を握られたまま、警察署まで連れて行かれることになった。




