12.怒涛の猛アタック
翌朝、なんとかベッドから起き上がった僕は、重い頭を抱えながら朝食の準備を進めていた。
昨夜のことが頭から離れず、結局ほとんど眠れなかったのだ。
(あ〜……顔を合わせづらすぎる……。
糸田川さん、起きてこないでくれないかな……)
そんな僕の祈りも虚しく、ガチャリとドアが開いて糸田川さんが起きてきた。
青白かった頃が嘘のように顔色が良く、心なかすっきりと晴れやかな顔をしている。
「おはよう、向井くん」
「お、おはようございます……。
体調は、もう大丈夫なんですか……?」
「ああ、おかげさまで心身共にかつてないほど健やかだよ」
そう言って糸田川さんは、爽やかな笑顔で僕の前に立つと、僕の目をじっと見つめ、何の躊躇もなく言い放った。
「向井くん、僕と付き合ってくれ。
いや、むしろ結婚してほしい」
「……はい?」
突然の言葉に、僕は味噌汁を注ぐ手をピタリと止めて呆然とした。
「い、いきなり何言ってるんですか!?」
「昨夜、あのような初めての事態を経験し、改めて自分の身体的反応と心の動きを整理してみたんだ。
そしてD専用のデータバンクや論文で検索した結果、僕のこの感情は『恋愛感情』であるという結論に至った」
「調べるなよそんなこと!?」
Dらしいと言えばDらしい、糸田川さんの独特な恋愛感情の気づき方に、僕は思わず心の声を口に出してしまう。
そんな僕のツッコミをものともせず、糸田川さんは話を続ける。
「この世界では同性同士の法的な婚姻も認められている。
だから君さえ良ければ、僕は君と結婚したい」
淡々と、けれど本気そのものの瞳で求婚してくるイケメン探偵。
僕は顔を真っ赤にしながら「とにかく、朝ご飯食べましょう!」と無理やり会話を打ち切るしかなかった。
──────
しかし、糸田川さんのアタックはそれだけでは終わらなかった。
その日の午後、二人で買い出しに出かけたときのことだ。
「向井くん、荷物はすべて僕が持とう」
「えっ、でも結構重いですよ?」
「Wに重いものを持たせるわけにはいかない。
……いや、違うな。
好きな人に苦労をさせたくないんだ」
サラリと恐ろしい台詞を口にしながら、糸田川さんは僕の手から重いスーパーの袋を軽々と奪い取る。
さらに、休日の商店街の人混みに差し掛かると──。
「おっと、危ない」
すれ違う人とぶつかりそうになった僕の肩を、糸田川さんがすっと引き寄せる。
引き締まった胸板に背中が密着し、頭上から低く心地よい声が降ってくる。
「離れないように、僕のそばにいてくれ。
……大切な人を、誰にも傷つけさせたくないからね」
「っ……!?」
人混みの中で自然に肩を抱かれ、至近距離から熱い視線を注がれる。
通行人の女性たちが「きゃー!あの二人すごくお似合い!」「ドラマの撮影!?」とヒソヒソと黄色い声を上げているが、糸田川さんは周りの視線なんて意にも介さず、ただ僕だけを見つめている。
(な、なんだこの甘々な状況は……!?
昨夜のあの経験で、何かが完全に吹っ切れちゃってるじゃん……!)
ドックン、と胸が大きく跳ね上がる。
昨夜、彼のアレを自分の手で助けてしまったという背徳感と、今こうしてストイックでカッコよくなった男からストレートに愛を注がれている事実。
(……僕、もしかして……糸田川さんのこと、恋愛的な意味で意識しちゃってる……?)
ただの『WとD』の関係を超えて、一人の男性として糸田川さんにときめいている自分に気づき、僕は自分の顔が爆発しそうなほど熱くなるのを止められなかった。




