第97話 エピローグ③ ~☆♡星恋アンサンブル~
しばらく二人で夜空の星を辿りながら星座を作りあげていく。
「出来た――なんだと思う?」
「私も出来たよ。なーんだ?」
星座を完成させた二人がお互いの方へと顔を向ける。
そしてクスッと笑い合ってお互いの作った星座の形を頭の中で思い描く。
しばしの間、頭の中に出来上がったシルエットを無言で考え込む。
だがいくら考えても正解を思いつくことが出来ない。
「うーん、分からないなあ」
「私も分からないよ。ねえ、ヒント貰える?」
お互いにギブアップして隣を見ると、相手も自分の方を見つめてくる。
そして再びお互いに笑い合って
「ヒントか。うーん、それじゃあ……俺にとって凄く身近ってところかな?」
「怜にとって身近?」
これは怜にとってとても身近な存在を現した特別な星座だ。
「ああ。そうだ、桜彩もヒントをくれよ」
「えっとね……私にとって凄く身近ってところかな?」
すると桜彩からも怜と同じヒントが返ってくる。
「桜彩にとって身近ってこと?」
「うん」
思いがけずに被ったヒント。
しかしこれは本当に偶然被っただけなのだろうか。
怜も桜彩も頭の中で自分が出した星座の答えを思い浮かべる。
二人のヒントが共通しているということは、相手の出した問題の答えは――
「えっと……桜彩の作った星座、何か分かったかも……」
「うん……私も怜の作った星座が何か分かったかもしれない……」
お互いが恥ずかしそうに少し俯きながらそう口にする。
もしこれの答えが外れていたら恥ずかしいことこの上ない。
しかし、それが正答であることをなんとなくではあるが確信していた。
「そ、それじゃあ言うぞ……」
「うん……。私も言うね……」
「そ、それじゃあ同時に言おうか……」
「そ、そうだね。同時に言おう…………せーのっ」
そして二人は相手の顔をしっかりと見つめながらその答えを口にする。
「怜座……」
「桜彩座……」
「……………………」
「……………………」
「えっと……当たったか……?」
「うん……当たったよ……。その、私の答えは……?」
「当たり……」
「そ、そっか……」
「ああ……」
怜が作った星座は『桜彩座』、桜彩が作った星座は『怜座』。
二人が作った星座は何の偶然かお互いの星座だった。
その事実に嬉しく、恥ずかしく、むず痒く、様々な感情が胸の内へと浮かび上がる。
二人共今日は何度も顔を真っ赤にしていたが、それでも今が今日一番の顔の赤さだと確信する。
慌てて自分の顔を片手で覆う二人。
しかしそれでももう片方の手はしっかりと握られている為に完全に顔を隠すことは出来ない。
指の隙間から相手の方をちらりと見ると、相手の顔が真っ赤に染まっていることが見てとれる。
「は、恥ずかしいな……」
「そ、そうだね……」
「そっか、怜座、か……」
「う、うん……。怜も桜彩座を作ってくれたんだよね……」
「ああ……」
そして二人は顔を隠す手をどけて、空を見上げてお互いの作った『怜座』と『桜彩座』を見上げる。
先ほどまではまるでそうは見えなかったのに、今は並んで夜空に浮かぶその星座が本当にお互いの顔に見えてくる。
「えっと……あれとあれとあれで――怜座の完成だな。良し、覚えた。これからは夜空を見上げた時に怜座を探そう」
「えっ……ちょ、ちょっと待って! あ、あの……それ、すっごく恥ずかしいよぅ……。あの、怜、忘れてくれない……?」
潤むような目と表情で怜を見上げる桜彩。
これまでであればそれに流されたかもしれないが、今、この時だけはそのお願いにしっかりと首を横に振る。
「嫌だ。忘れない」
しっかりと桜彩の目を見返した怜はそう宣言する。
「うぅ……。そんなに私に意地悪するなんて……」
怜の返答に拗ねて泣きそうな顔になる桜彩。
「いや、意地悪とかじゃなくてな。前から桜彩が言ってるだろ? 二人の思い出を忘れるなんて嫌だって。だからさ、俺だって恥ずかしいけどこれも二人の大切な思い出だから。だからちゃんと覚えておきたいんだ」
「怜……。うん、そうだね。これも私たち二人の大切な思い出だもんね。それじゃあ私もこれから夜空を見上げた時に桜彩座を探すね」
にっこりと笑ってそう宣言する桜彩に対して恥ずかしくなりながらも怜は頷きを返す。
「ああ。それに怜座も桜彩座も隣同士だからさ。すぐに二つとも見つけられるかもな」
「うん、そうだね。ちゃんと隣同士だよね。今の私達みたいに」
そう言って握り合った手に自然と二人の視線が向く。
現実の二人も夜空に浮かぶ二人もしっかりと隣り合って。
「そうだな。昨日までにも何度か桜彩と手を繋ぐことはあったけどさ。でも、今日みたいに理由がなくても手を繋ぎたいって思うし、繋いでいるとやっぱり幸せな気持ちになってくる」
「うん、私もだよ。こうやって二人で手を繋ぐことがこんなにも幸せだなんて思わなかった」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ドクン――
(なんだ……? これ…………)
(なに……? 今の…………)
大きな波が二人の胸を打つ。
思わず空いた手を自分の胸に当ててしまう。
手のひらに伝わってくるのはいつもよりも遥かに早く刻まれる心臓の鼓動。
(この、気持ちは――)
(この、気持ちは――)
最近、ほとんどいつも二人で過ごしている。
出会った時はただのお隣さんで、それから徐々に仲良くなって、そして、自分の抱えていた闇を解決してくれた。
道を指し示す北極星のように、光で照らして――
『言葉では定義出来ない自分達だけの特別な関係』、それは、友人や親友、家族とも別の感情が――
(そう、だよな――)
(そう、だよね――)
『言葉では定義出来ない自分達だけの特別な関係』
確かにそれは間違いないだろう。
だが――そう思うことによって、今の自分の気持ちに蓋をしていた。
もしかしたら既に分かっていたのかもしれない。
ただ、この関係が心地良くて、ずっと気付かないふりをしていたのかもしれない。
これは、陸翔にも蕾華にも感じたことの無い、目の前にいる相手にしか感じたことの無い特別な気持ち。
お互いの瞳に相手の顔が映る。
二人共自分の顔が真っ赤になっているのも良く分かる。
それでも目を逸らさずに、相手の顔を見続ける。
(俺は――)
(私は――)
(桜彩のことが――)
(怜のことが――)
そう、この気持ちの答えは――
((好き、なんだ――))
今なら良く分かる。
この気持ちの名前は『恋』だったのだと。
「…………………………………………ははは」
「…………………………………………クスッ」
先程と同じように顔を合わせたまま思わず口から笑みが零れる。
そしてまた揃って夜空を見上げる。
頭上に広がる夜空は時間を忘れるほどに美しく。
「「あっ……!!」」
天を翔る一瞬の煌めき。
怜と桜彩が目で捉えた瞬間、静寂の闇へと消えていく。
「桜彩、今の見たよな!?」
「うんっ! 流れ星、だよね!」
桜彩も興奮気味にうんうんと頷く。
「ああ。運が良かったな」
「私、初めて見たよ。あ、でも願い事を唱えるのを忘れちゃったな」
「俺もだよ。だけど願い事を三回唱えるのにはさすがに無理があったな」
「ふふっ、そうかもね」
あまり残念ではなさそうにクスリと笑い合う。
そう、そもそも今の二人にとって、一番の願い事は誰かに、何かに頼るのではなく自分自身の手で掴むべきものだから。
願い事を叶えると言われている流れ星はもう消え去った後。
しかしそれは確かに勇気という夢のかけらを二人へと届けて――
一度繋いだ手を離し、身体の向きを変えて相手に対して正対する。
「桜彩」
「怜」
お互い真っ直ぐに相手の、想い人の顔と見つめ合って口を開く。
「俺、桜彩のことが」
「私、怜のことが」
胸の奥から想いが溢れ出す。
その想いをはっきりと自分の言葉に変えて、目の前の愛しい相手へと届ける。
「「好き」」
―――――――――――――――――
辺りが静寂を支配する。
一切の音が耳に届かない。
それでも、相手の言葉だけは――
たった二文字、されど二文字、それは確かに耳へと届く。
自分の抱えていた想いを相手に伝えて、そして、相手の抱えていた想いを伝えられて。
その言葉の意味を理解した二人の目から涙が零れ落ちる。
自分の気持ちを伝えることができた、自分の気持ちが伝わった、そして――相手も同じ気持ちを伝えてくれた。
相手の方へと足を踏み出し、両腕を相手の背中に回してぎゅっと引き寄せる。
お互いの大切な、そして大好きな相手を胸に抱えて視線を合わせて――二人の距離が徐々に近づいていき
「「ん……………………」」
二人の距離がゼロになる。
胸の内が幸せで満たされて腕に力が込められる。
一度唇を離し、抱き合ったまま見つめ合う。
「桜彩…………」
「怜…………」
嬉し涙が止まらない。
顔がぐしゃぐしゃになっているのが自分でも分かる。
それでも、そんなことなどどうでも良いくらいの幸せを感じ、にっこりと笑い合って
「ありがと。俺のことを好きになってくれて」
「ありがとう。私のことを好きになってくれて」
そしてもう一度二人の距離がゼロになる。
再びのキスの後、再び想いを口にする。
「好きだよ、桜彩」
「私も好きだよ、怜」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ついに伝えられた自分の気持ち。
天に輝く怜座と桜彩座はそれを祝福するかのごとく、二人を照らし続けていた。




