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【98話完結版】隣に越してきたクールさんの世話を焼いたら、実は甘えたがりな彼女との甘々な半同棲生活が始まった  作者: バランスやじろべー
第一章後編 近づく距離と特別な関係

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第37話 シスコンの襲来

 内扉を開けて怜が玄関の方へと向かった。

 そしてリビングに一人残された桜彩は心配そうに扉の方を見ていたが、そこから聞こえて来た『姉さん』という声にひとまず安心する。

 どうやら玄関を開けたのは不審者などではなく、前に怜が話していた姉なのだろう。

 それはそれで良かったのだが、桜彩には別の問題が生まれてくる。

 今の自分と怜との関係。

 これを正しく他人に理解出来るように説明するのは難しいだろう。

 内扉の向こうから断片的に聞こえてくる会話の内容から考えるに、怜も同じように考えているらしい。


(うう……この状況ってどう考えても不自然だよね……)


 夜も遅い時間に一人暮らしの男性の家に入り込んで食事をご馳走になっている(正確にはもう食後のデザートだが)。

 それが同性ならともかく普通の異性の友人としてはどれだけ不自然なことなのかは桜彩にだって良く分かる。


(私と怜さんの関係って何て言えば良いんだろう)



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そう悩んでいると、いきなり内扉が開かれた。

 後ろから怜が何か叫んでいるが、その時には既に女性の顔が現れていた。

 とても美人で同性の桜彩でさえ見とれてしまう相手。

 おそらく彼女が怜の言っていた姉なのだろう。

 性別の違いはあるものの、怜があれだけ整った容姿をしているのだからその姉がこれほどの美人であってもむしろ納得だ。

 怜の姉(と思われる相手)と目が合う。


(えっと、えっと……)


 この状況をどうしようかと考える桜彩。

 慌てて顔が赤くなってしまっており、まるで考えがまとまらない。

 しかしその時間はそう長くはなかった。

 桜彩の顔を見た相手の女性は怜の方へと振り返り口を開いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 怜が止めるのも間に合わず、既に美玖は扉を開いてしまう。

 正面奥に広がる光景は、ソファテーブルの上のパウンドケーキとお茶のセットが二人分。

 そして視線を横にずらすとキッチンでオロオロとしている一人の美少女。

 それを視界に捉えた美玖の表情が瞬く間に変わっていく。


「怜。これはどういうこと?」


 先程は怒っていた美玖だが、今は怪訝な顔で問い詰めてくる。


「あなた、さっき誰もいないって言ってたじゃない」


「いや、それは……」


「はあ、彼女が来ているなら正直に言いなさい。別にそんなことで怒ったりはしないわよ」


「それは誤解だから!」


 やはりというか当然のごとく誤解した美玖の言葉を大声で否定する怜。

 しかしこの状況では当然ながら信じてはもらえない。

 美玖は『何言ってんだこいつ』というような目で怜を見ながら腰に両手を当てる。


「なによ、何が誤解なのよ」


「だから姉さんが今考えていることじゃない! 俺達は彼氏彼女とかそういう関係じゃなくって……」


「何言い訳してるのよ。別に高校二年生にもなったんなら彼女持ちでも良いと思うわよ。あたしだってそうだったし」


 そう言ってリビングに入って来た守仁の方をちらりと向く。

 守仁は照れたように頬を掻いていた。


「ま、こんな時間に部屋で二人きりってのはどうかとは思うけど」


「何度も言うけどそれは誤解だって!」


 必死に誤解を解こうとそう言うものの、美玖の方は聞く耳を持たない。

 ちなみにそういう美玖も怜と同じ高校時代には夜遅くまで幼馴染の彼氏の部屋に入り浸っていたのだが。


「誤解? あなたの部屋に年頃の女の子がいることのどこが誤解なのよ」


「だからそこの部分以外が誤解だって言ってるの!」


「はいはい。あ、ごめんなさいね、置いてきぼりにしてしまって」


 もう言い訳を聞く気はない、というように怜に背を向けた美玖は、未だにオロオロとしている桜彩の方を向く。


「あ、あの、怜さんのお姉さんですよね?」


「ええ、私は光瀬美玖。正真正銘怜の姉よ。ちなみにそっちはあたしの彼氏で怜にとっても子供のころから兄みたいな相手」


「瀬名守仁です。よろしく」


「よろしくね、桜彩ちゃん」


「は、はい……。よろしくお願いします……」


 ぺこりと頭を下げる桜彩。

 しかし怜は今の美玖の説明に首を傾げる。

 今、美玖は『桜彩ちゃん』と言った。

 まだ桜彩は名乗ってはいなかったはずなのに。

 うんうんと優しく頷く美玖の肩を持ちこちらに向けながら、怜はそれについて質問する。


「姉さん、どういうこと? まだ桜彩は名乗ってないのに、なんで名前知ってるの?」


「あ、そう言えば……」


 怜の言葉で桜彩もそれに思い至ったのか首を傾げる。


「写真で見たことあるもの。でも、写真で見た時も美人だと思ったけど実際にこうして会ってみると良く分かるわ」


「いやだから話を聞いて…………写真で見た…………?」


 より分からない言葉が聞こえた。

 桜彩の方も怜と同じく美玖の言葉に首を傾げている。

 美玖の言葉を信じるなら美玖は桜彩の写真を見る機会があったということだ。

 可能性としては怜が送った写真に写り込んでいる、ということが考えられるのだが、少なくとも怜は、桜彩が引っ越して来てからは美玖に写真を送った覚えはない。

 他の可能性として、怜と桜彩が隣同士で住んでいることを知っており美玖とも交流があるのは瑠華くらいだが、瑠華がそうする理由も思い浮かばない。


 ピピピピピ


 そんなことを考えているとリビングに電子音が鳴り響く。

 どうやら音の出どころは美玖の服のポケットのようで、そこから美玖がスマホを取り出す。


「あ、ちょっと待ってね」


 そう言ってスマホを取る美玖。


「あ、もしもし。どうかしたの?」


『――――――――――――――――――――』


「ええ。あたしは会えたわ。そっちはどうしたの? 何か焦ってるみたいだけど」


『――――――――――――――――――――――――――――――――――――』


「ああ、桜彩ちゃんの事なら心配無いわよ。今、こっちの部屋にいるみたいだから。そんなわけであなたもこっちに来てちょうだい。ああ、玄関の鍵は確か開いてるからリビングまで勝手に上がってね」


「「え?」」


 怜と桜彩としては美玖の電話の相手が話す内容は良く分からないが、美玖が相手に桜彩がこちらの部屋にいる為にこちらに来いと言ったことは理解出来た。

 一体どういうことかと考えていると玄関のドアが乱暴に開く音が聞こえ、数秒後にリビングのドアも開かれる。

 そこから姿を現したのは怜や桜彩より少しばかり年上の美人。

 そしてどこか桜彩に面影の似た――


「は、葉月……?」


 ほぼ無意識に桜彩の口から発せられたそこにいる相手の名前。

 それは確か桜彩の姉の名前だったはず。

 ということは、十中八九この女性が桜彩の言っていた姉なのだろう。


「久しぶりねっ、桜彩! 会いたかったわ!」


「ちょっ、ちょっと葉月、苦しいって!」


 もがく桜彩を気にも留めず、葉月は桜彩を強く抱きしめる。


「全くもう! あなたの部屋に誰もいなかったんで、何か事件に巻き込まれたんじゃないかと……」


「わ、私は大丈夫だから! だから一度離して、葉月!」


 抱きつかれて苦しそうにする桜彩の言葉を聞いて、葉月も落ち着いたのか一度桜彩を離す。

 どうやら美玖と守仁の方は事情を知っているようだが、怜のみが状況に付いていけていない。

 桜彩の言葉に一度離れた葉月がゴホンッと咳払いをして怜の方へと向き直る。


「初めまして。私は桜彩の姉の葉月と言います」


「初めまして。えっと……光瀬美玖の弟の怜です」


 まあこの状況を鑑みると、葉月は美玖の友人といったところだろう。

 そんなわけで怜も美玖の弟であると自己紹介する。

 しかし改めてみると葉月も葉月で人目を引く美人だ。

 こんな美人が桜彩の姉だと言われても、妹である桜彩が桜彩なのでまあそうですねと普通に納得してしまう。

 というか、桜彩といい美玖といい葉月といい、この部屋の女性陣の顔面偏差値は高すぎだろう。


「……姉さんが桜彩の写真を見たことがあるってのはそういうことか」


 先ほど言っていた美玖の言葉の意味がようやく理解出来た。

 おそらく葉月から家族の写真を見せられたのだろう。


「ええ。葉月とは大学で仲良くなったのよ。それで色々と話してみたら、どうやら妹である桜彩ちゃんがあなたの隣の部屋に住んでるっていうじゃない? じゃあこの連休を利用して一度ここに来ようって思ったのよ。まさか二人が既に知り合いだとは思わなかったけどね」


「そういうことよ。でもまさか、こんな時間に異性の部屋にいるなんて思ってもみなかったけどね」


 少し含みの有るような言い方だ。

 というか、美玖と守仁を含めて先ほどの誤解を訂正出来ていない気がする。

 葉月としても美玖と同様に、夜遅くに妹が一人暮らしの異性の部屋を訪れているという状況から怜と桜彩の関係を誤解している可能性は充分にある。


「まあまあ、とりあえず座って話さないか?」


 そこへ守仁から落ち着いた声が掛けられる。

 確かにまず必要なのは話し合いだろう。

 美玖や葉月も守仁の提案に頷いて席へと着いた。

 怜は新たな訪問者である三人のお茶をテーブルへと用意して、自分達の分もソファテーブルから移動させる。

 そして怜と桜彩は対面に座る三人に対して説明を始める。

 この状況に至った理由を包み隠さずに。

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