障壁越え
障壁の内部で何が起こっているのか分からない。でも、ナイアルラトホテプが中で何かしてるのは間違いない。
『下』『別』『人間』『強い』『集団』
シュブ=ニグラスに言われて、私は下を意識する。そこにはプレイヤーらしき影が見えた。この事態に、すぐに急行してきたプレイヤーがいるらしい。一応頼もしいと言えなくはないかな。
地上を行くしかないプレイヤー達みたいだから、皇帝の元に辿り着くのは時間が掛かりそう。下での戦いがどんなものか分からないし。下手したら、異神の眷属との戦いになるのかな。
下への影響は特に気にせずに戦う。その配慮をしていたら、私達が危ない。だから、一気に障壁に近づいて白百合と黒百合を振るう。
障壁が私の攻撃を阻む。そこに皇帝からの攻撃が飛んでくる。それをアテナさんが障壁を出して防いでくれる。
「防御は任せなさい」
アテナさんに防御を全て任せて、私は障壁に噛み付く。アテナさんを信じて、障壁の破壊を進める。皆の攻撃も一点に集中している。それで少しでも障壁が破れれば良いのだけど、ただの攻撃だけじゃ破れそうにない。やっぱり私の力の吸収か、下で正規ルートを通る必要がありそう。
『速度』『次元』『越える』『補助』
ヨグ=ソトースがそんな事を言ってくる。私が力を吸収して開くというのも時間が掛かりそうな気がしてくる。そのくらい障壁に込められている力の総量が多い。
それならヨグ=ソトースの提案に乗るのも有りだと思う。
「速度ってどのくらい?」
『光』『超える』
「そんな無茶な……」
光の速度というと、雷よりは速いはず。雷よりも速く飛ぶ事は出来るのだけど、光の速度よりも速くというのは、かなり難しい気がしてくる。
「でも、やるしかないか……アテナさん! ちょっと星を何周かしてきます!」
「はぁ!? まぁ、分かったわ! こっちは任せなさい!」
「はい!」
私は障壁から離れて、空に上がる。そして地上への影響がほぼない高度まで上がったところで、私は星の周りをぐるぐると回るようにして飛ぶ。この通常の加速で、雷の速度は超えられる。
それですぐに到着する事が多いので、それよりも速い速度は出せるか分からない。ほぼ無理だろうと考えられる。実際いつもよりも速く飛べているけど、その速度は光には及ばない。次元を越えるという現象を引き起こすには足りない。
「理論超えた事なら、何度も引き起こしてきた……光を超えるのが奇跡に近しい事なら……奇跡を起こせば良い。ヨグ=ソトース、そっちでタイミングを合わせられる?」
『肯定』
次元を越える瞬間は、ヨグ=ソトースの方でタイミングを合わせてくれる。なら、私は光の速度を超えるだけで良い。手を組み、祈りを捧げながら私を高速で飛行し続ける。やがて、私の身体を奇跡の光が包み込み、その光が尾を引く。
高速で飛ぶ流れ星のように、私は空を飛び続ける。やがて、地上の景色が超高速で流れていくようになる。実際には逆に私が速すぎるというだけだ。
「これ……どうやって障壁に突っ込めと……」
光の速度は、一秒間で地球を七周半も移動出来る。そして、今の私はそれよりも少し速いくらいの速度を出している。この星の大きさが地球と同じかどうかは知らないから正確な事は言えないけど、少なくとも一秒間で何周かはしている。この速度であの障壁へと正確にぶつかるのは難しい。
難しいけどやるしかない。私の方でやる事は障壁にぶつかる事だけ。その他の全てはヨグ=ソトースがやってくれる。
「ここ……ここ……ここ……ここ……ここ……何で急にリズムゲーみたいな事をしないといけないのか……」
一秒間でタイミングは結構ある。ただ決断をしないといけないのが、一秒未満というのがエグい。いや、適当にやっても割と当たるか。
問題はタイミングがズレて一周する事になってしまった場合、その道程にある街などは全て吹き飛ぶという事。
私が出している速度は、凄まじい衝撃波を生むものだ。実際、私の下にあった雲は全て消えている。衝撃で全部散った感じだ。
だから、細心の注意を払って、タイミングを合わせ、障壁へと突っ込んだ。すると、世界がぐにゃりと変化し、ナイアルラトホテプがいたようなよく分からない世界を経由する。
そして、次の瞬間には障壁の内側にいた。さっきの世界で速度が落とされたのか、入った瞬間に城を貫くという事はなかった。瞬間ではなく、一、二秒後に私は城を貫いた。
「いったぁ……」
実際にはそこまで痛くはないけど、重厚な城を身体で貫いた事もあって、反射的にそう呟いてしまう。城の反対側の地面に埋まった私は身体を起こす。
すると、上から光線が放たれるのが分かった。私は即座にその場から飛び退いて避ける。そして、天使の羽を出して、空を飛ぶ。そんな私を追って、次々に光線が放たれた。光線は弧を描き、私を追ってくる。
私の支配は受け付けない。なら、同じような光線で迎え撃とうとしたら、その光線すらも弾いて来た。
「大分強いな……」
思ったよりも光線の威力が高い。私は自分が通った道に魔力の壁を作りだしていく。その壁も全て貫かれていた。どうやらアテナさんくらいの障壁じゃないと完全に止めるのは難しいみたい。
だから、それくらいの障壁を使う。血液を魔力と混ぜて障壁にする。私も血液には全ての属性を乗せてある。つまり、通常の障壁とは異なる特殊なものとなるわけだ。
光線が命中すると、光線を拒んでくれる。それを細かく出して、光線を防いで城まで向かって行く。城に近づくと光線の密度が濃くなるけど、その全てに対応出来るくらいの腕は私にもある。城の天辺。ナイアルラトホテプの気配がする場所に突っ込む。
壁を突き破ってきた私が見つけたのは、攻めあぐねているナイアルラトホテプと七色の光を纏う金髪碧眼の壮年の男性だった。恐らく皇帝だろう。皇帝は私の侵入を目視すると忌々しいものを見るような目で見てくる。
リリィルーナの父親。間近で見た皇帝にリリィルーナの面影を感じる事もなければ、リリィルーナに皇帝の面影を感じる事もない。そして、あの過去の映像で見た狂気も見当たらない。
どこか不気味さは残している皇帝に対して、私は白百合と黒百合を構えた。




