皇帝の考え
私は城の周囲の空間を意識する。全属性を込めた次元の穴みたいなものは自分の意思で生み出す事は出来ないので、もっと別の事をする。
空間を圧縮して全方向からの圧力を与える。その圧力も全て障壁が阻んで来る。
「皆、出来る限りどんどんと攻撃を続けて。ただし、接近しないで遠距離で。アテナさん、防御をお願いします」
「ええ。任せなさい」
神様、天使、悪魔達による波状攻撃がどんどんと城を襲うけど、その全てが障壁に拒まれている。でも、これで良い。この障壁が相手の力を使わせているという事を私は知っている。七色の異神が無尽蔵の力を持っていない限りだけど。
「ハク」
「リリィルーナも隕石落として。大きさは重要じゃなくて、数の方が重要」
「分かった」
リリィルーナは、空から細かな隕石をどんどんと降らせていく。その隕石は地面に落ちていれば、大きなクレーターを作るようなものだ。でも、そのくらいの威力はしっかりと存在している。
私も【混沌熱線】も同時に放っていく。そうした私達の波状攻撃を城の障壁は完全に受け止めていた。まだ皇帝からの反撃はない。
「近づく……必要が……あるのかも……」
「やっぱりそうですかね?」
ニュクスさんの指摘はもっともだ。あの場所に近づかないと皇帝が動き出さない。皇帝が動かないのなら、動かせる必要がある。そうじゃないと、ずっと攻撃を防がれるから。まぁ、私達は無限に攻撃を繰り返す事が可能なのだけど、無駄である事は間違いない。
「リリィルーナは、ここにいてね。私は突っ込みます。アテナさん、防御を」
「ええ」
私は赫夜刀を出して、一気に障壁に向かって突っ込む。すると、城から強力な圧力が放たれる。それは外に押し出すような力と同時に地面に押し付けるような力だった。
空から来る者は許さないというような感じだ。でも、それを私の中の力が抵抗する。その力はナス=ホルタースさんとアザトースの力だ。内側から溢れ出し、城から放たれる力を中和する。
おかげで、そのまま突っ込む事が出来るけど、障壁が邪魔をしてくる。その障壁に赫夜刀を突き刺そうとしたけど、さすがに阻まれた。なので、思いっきり噛み付く。この噛み付きは空間に噛み付いているのと同じものだ。つまり、その空間上にある障壁から力を奪う事が出来る。
すると、城から七色の光線が放たれてきた。光線を支配して軌道を変えようとしたけど、私の支配を受ける気配がない。なので、赫夜刀で受け止めようとした瞬間、私の前に純色のものとは違う障壁が生まれる。
これはアテナさんが張ってくれた障壁だ。光線は障壁に阻まれて散る。私は光線が入ってきている障壁の隙間を利用して血液を流し込み、相手の障壁の内側で血液兵を製造していく。
そして障壁の中にナイアルラトホテプも入っていった。ぐねぐねと形の定まらないナイアルラトホテプは、城へと飛んでいく。
「ちょっ!? 大丈夫なの!?」
ナイアルラトホテプは返事をせずに、そのまま城に入っていった。
『貴様か……』
低い男の声が私達の頭にまで響いてくる。その声の主は、恐らく皇帝だろう。ナイアルラトホテプが中に入った事で、ストーリーが進んだみたい。いや、別の特殊ストーリーみたいなものかな。
ナイアルラトホテプが体内にいるってプレイヤーは私だけだし。
『貴様が与えた叡智により、我は死んだ。いや、殺されたというべきか。この恨み……いつかは晴らしてやりたいと思っていた。そう。ずっと貴様とこの世界に恨みを抱いていたよ。だから、私はこの化物を身体に受け入れた。あの亀に世界の支配を邪魔され、城の奥底に封印される苦しみ……だが、それも消えた。我は復活する。この世界は……この帝国は!! 我のものだ!』
皇帝がそう言った瞬間、城を持ち上げている地面が七色に染まる。その侵蝕は一気に世界全てへと広がっていこうとする。
私は咄嗟に地面に向かって赫夜刀を投げつける。突き刺さった赫夜刀の地面が七色に染まった瞬間、私はそこから力を吸収する。その結果、侵蝕の侵攻が少し遅くなった。
『何だ? 我の力が吸われる? 貴様か……ん? そこにいるのはリリィルーナか……? ふん……宇宙から来た害獣と愚かな英雄か』
リリィルーナだけではなく、ノマドやシキドウジにまで気付いた。大分距離はあるけど、それでもこっちに意識を向ければ気付くみたい。逆に言えば、今初めて気付いたみたいな感じだから、本当に今の今まで意識すら向けていなかったのだと分かる。
「お父様……」
一旦距離を開けているとリリィルーナが呟く声が私の耳に届く。そして、それは皇帝の耳にも届いたようだ。
『未だ、我を父と呼ぶか。我が貴様らにした事を何とも思っていない……いや、貴様らが抱く家族への情というものか。くだらぬ。所詮、人は一人に過ぎぬ。家族? 友人? そんなもの、いずれ己を裏切るゴミのような存在だ。故に我は一人でこの世界を統べる。我が帝国。我が世界。誰にも譲らぬ。奪わせぬ。例え、血縁たる貴様でもな』
皇帝はリリィルーナの事を、帝位を奪いに来たと思い込んでいるようだ。そして、この思想が惨劇を生んだのだと分かる言葉だった。もしかしたら、異神のせいで精神をやられたから、こうなってしまったのかと思ったのだけど、それもあり得そうにない。
恐らく、これが本来の皇帝という事だろう。
「なら、何でリリィルーナを産ませたの? 他の子供達にしてもそう。自分のものと言いながら、それが不可能だと思ったから作った血縁でしょ?」
私は思わずそう口にする。すると、皇帝の嘲笑の声が聞こえてきた。
『貴様は何も分かっていない。全ては世界を統べるためのパフォーマンスだ。家族を作り、跡継ぎを作れば、そのような思考をしているとは思うまい。本当に簡単に騙されるものばかりだった。愚かな愚物どもめ』
「あっそう。よく分かった」
理解した。この皇帝は本当に救い難い。ここで何が何でも決着をつける。リリィルーナのためにも。
私は黒百合と白百合を握って、再び障壁に突っ込む。あの障壁を突き破って皇帝に肉迫し、この刃を届かせるために。




